第29話 伝えたい言葉
*
家に帰るとちょうど起きてきた母さんと鉢合わせした。ちなみに母さんは今日は仕事は休みらしい。
「た、ただいま……」
「おかえり。映画、どうだった?」
母さんは優しく笑い俺の返事を待つ。
「楽しかったよ。葵も喜んでくれてた、ありがとな」
「それはよかった。それと葵ちゃんにあまり迷惑をかけるんじゃないわよ。こないだもわざわざ家まで耕平を迎えに来てくれたんだから」
「分かったよ。今度ちゃんと謝っとく、礼も言う」
「今度やいつかじゃなくて次に会った時に必ずいいなさい。いいわね?」
母さんは優しくそう言った。その言葉には不思議な重み、いや思いが込められてる気がした。
確か母さんは、母さんの父さん、俺は会ったことが無いから顔も写真でしか見たことは無いが、つまりは俺のじいちゃんにあたる人物とケンカ別れで死別してしまったと。聞いたことをがある。
会話も無くなり、ギクシャクしたままで、でも、いつか謝ろうと。仲直りをしようと、母さんは思っていたと言っていた。
そしてあっという間の出来事だったらしい。じいちゃんが心臓麻痺を起こして亡くなったのは。
母さんは酷く後悔してるとハッキリ言った。あの時、ちゃんと謝っておけば、意地なんて張らなければ、仲直りしてれば、もしかしたら少しでもストレスが緩和されて、あの心臓麻痺の結果すらも変えられたんじゃないかと。
聞いたのはタイムリープ前の話だが。だからと言って今この時代にも既にじいちゃんは居ない。
もし母さんがタイムリープを行ったとしたら、きっと神様は、じいちゃんの居た、もう少し前の時代に送ってくれるんじゃないだろうか?
以上の話から推測するに母さんは俺に〝誰だっていつまでも必ず会えるとは限らないから伝えられる時に伝えたいことは伝えておきなさい〟って、言いたいのだろう。
こう言っちゃあれだが、不器用だからな母さんは。その癖、本当に思いやりがあることをする。
今回の映画のチケットもそうだが。タイムリープ前、俺が引きニートの頃の話だ。変わりの無い毎日だったが、一年に一度俺の誕生日の日には決まってショートケーキが一つ、晩飯と共に添えられていた。
そんな気遣いが嬉しくて、同時に引き籠る自分が情けなくて、俺は泣いていた。今思えばそれでも改正しない俺を見かねた神様がタイムリープをさせてくれたのかなと、ふと思う。贈り物だと言ってたしな。
「分かった。明後日学校であったら伝える」
そう言うと母さんはうんうんと満足そうに頷いた。
他にも伝えたいことが、タイムリープ前には伝えられなかったことがある。
本当なら今すぐにでも大声で叫びたい。でもこれだけはタイミングと言うものがあるだろう。だって俺は『君が好き』だと、そう伝えたいのだから──
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