第1話 多分、夢
──夢を見た。
雲の上のような場所に神殿があった。
夢なんてそんな物だろう。
「はじめまして、耕平さん。夜咲耕平さんですね」
俺は背後から声をかけられる。
そこにいたのは長い金髪のド偉い美人だった。
歳は20代半ばぐらいか。
「えーと、誰だ? あんた」
夢の中で誰かに名前を訪ねた経験はあまり無い気がする。にしてもハッキリした夢だな。明晰夢ってやつか?
「あなた方の言葉で言うと私は神様ですよ」
「は、神?」
神って言ったか?
神? 髪? 紙? カニ……?
「まあ話しは中で聞きましょうか。飛びますよ」
「は、飛ぶ? て、うぉぉ!?」
その瞬間、俺は強烈な目眩に襲われた。少し遅れて自分がまるで浮いてるかのような感覚に捕らわれ、気づくと、見たことの無い広い部屋にいた。
その広い部屋に一つだけ豪華な玉座が置かれていた。いつの間にかさっきの金髪美人が上品に座っていた。
「あのー……」
人と話すのは月1で睡眠薬の処方箋を貰いに行く病院の先生以来だ。いくら夢の中とは言え。
夢の中でも人との会話にカウントしてもいいですよね? ね! ニートは人と話す機会が少ないんだ。
「さて、本題に入りましょう。貴方は選ばれました」
物凄い美人顔で微笑まれた。
「えーと、選ばれたとは何ですか?」
「そうですね。では、率直にお聞きしましょう。夜咲耕平さん、あなた過去へ戻る気はありませんか?」
「……過去へ戻る……?」
ドクンと、心臓が高鳴る。
「それと何やら勘違いしてらっしゃるようですが、これは夢ではありませんよ? 現実です」
「ははは、何を言うのやら。頬をつねっても痛く無いですよ? というか、夢以外に何があるんですか? 俺はベッドに入って寝たのは覚えてますよ」
そう言うと目の前の自称神様は優しく笑った。
「今の貴方は本来の肉体から魂が引き剥がされています。まあ、今は騙されたと思って話を聞いてください。直ぐにこれが現実だと分かりますから」
魂? 引き剥がされている!?
「……分かりました。話を聞きます」
「結構。では、話を戻しますね。耕平さん、貴方は過去に戻る気はありませんか?」
「……過去に……戻れるんですか……?」
「はい、戻れますよ。少し規定はありますが」
……ッ……。マジかよ。いやこれは夢だろ?
ああ、いいよ。騙されたと思って聞いてやるさ。
「でも、何で神様は俺にそんなことを?」
「私のことはリリスとお呼びください。神は他にも沢山いますので」
神様って沢山いるのかよ? 種族名なのか?
俺の事を人間さんって呼ぶのと一緒の考えか。
「最初に申し上げた筈です。貴方は選ばれたと。まあ、悪い言い方をしてしまえば実験台です」
「本当に言い方が悪いですね……で、俺を過去に戻してくれるって話ですが、タイムマシンでもあるんですか?」
「いいえ、そのような物はありませんよ。耕平さん、タイムリープって、ご存じですか?」
リリスは可愛らしく人差し指を口に当てながら、そう俺に尋ねてくるのだった。