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「あれ?急に静かになったな...?」
目を開けると、そこにはたわわに実った2つの果実があった。
次の瞬間、俺はまた意識を失った。
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・数時間前・
今日は8月23日(火)晴れ。昨日大学の友人と朝までゲーム三昧だった俺は皆が帰った後、部屋を片付けゴミを持ってマンション下のゴミ回収ボックスまでやってきた。
(暑い...)
まだ朝の9時だというのに温暖化の影響なのか気温は30度を超えている。さらに徹夜の身に突き刺さる直射日光に俺は立ちくらみさえしていた。
(ついでだしコンビニでアイスでも買うか)
ポケットに携帯があることを確認し電子決済の残高が1,000円あることを確認した俺はマンションと道路を挟んで向かいにあるコンビニに向かうことを決めた。
(信号、赤か...一度待つと長いんだよな)
マンションの先に3車線の大きな交差点がありコンビニへの信号は一度待たされると5分強は時間を要する。
(今日は...ズルしてしまうか)
俺は左右を軽く確認し歩道と車道を分ける円石に足をかける。車との距離が十分あることを確認し車道に身を乗り出す。
次の瞬間。
ドンッ!
俺の身体はメリメリと音を立てて横に勢いよく吹っ飛んだ。状態を確認するために身体を起こそうと腕に力を入れるが、腕の感覚がない。それどころか足にも全く力が入らない。周りが騒がしくなってきた。意識が朦朧とする。
(俺...そんなに酷いのか?)
温かい液体が車道のアスファルトと耳の間に広がっている感覚を最後に、俺の意識はそこで途切れてしまった。
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目を開けると、そこには青々と茂った葉っぱとその間からかすかに射し込む心地の良い日光があった。
そしてピューという風の音と共に快適な風が肌をかすめた時、俺は生きているのだと悟った。
身体を起こしてみるとパサッと布が地面に落ちる。拾い上げてみるとどうやら上着のようだった。白地に黄色のラインが入った小柄な上着だ。サイズ感から推察するに身長160cmにも満たない女性用のようだった。
上体だけ起こして辺りを見回し人影を探すが見当たらない。さっきまで頭のあった場所には丁寧に丁度良い大きさの丸太の枕が用意されていた。
状況はさっぱりだがどうやら介抱してくれていたのだと察した。
「ようやく起きたのね」
女性の声がしたので振り向く。彼女の容姿を表現すると美少女であった。透き通るような白い肌にブロンズ色の肩ほどまである長い髪がよく映えている。くりっとした大きな猫のような目はやや緑がかっておりどこか別の世界に迷い込んだと認識するのに一番のアクセントとなっていた。
「あんたが俺を介抱してくれたのか?」
問いかける。彼女は少し頬を赤くした様子があったがすぐに毅然とした目つきに戻り答えてくれる。
「そうよ、見ず知らずの人とはいえほうってはおけないもの」
左手で髪をかきあげる仕草がモデルのようでとても似合っている。それと同時に果実と彼女がはじめに見せた頬を赤くした理由が脳裏をよぎったが深く考えないことにした。
「ありがとう!本当に助かったよ!とろこで、ここ...どこ?」
そう質問をして俺はふと空を見上げた。
グギャアァァアス!
先程まで射し込んでいた日差しが完全に隠れてしまい、空には轟音と木々など簡単に吹き飛んでしまいそうな突風を巻き起こす羽音が荒々しく鳴っていた。
俺は生まれてはじめてドラゴンを見た。