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7.アルベルトとリリー


 そうこうしているうちに意外と早く、アルベルト様が1人で姿を現した。きょろきょろと周りを見回し、まだ私には気がついていない様子だ。ちょうど私のいる木の下に来るのを見計らって、上からおーいと声をかける。


 眩しそうに私を見上げる天使・アルベルト様と目が合ったことを確認して「ちょっと後ろに離れてくださいねー!」と声をかけ、すかさず飛び降りた。


トンっと着地した私を見て、ぽかんと口を開ける天使をかわいいと思って見ていると、みるみる眉がつりあがる。


「危ないじゃないか!怪我は?」と私の周りをくるくる周って無事を確認してくれる。彼の砕けた話し方と優しさがくすぐったくて笑ってしまう。


「大丈夫、私は元気です!それより、あっちの大きくて高い木に登ってみませんか?レクチャーしますよ!」と、少し奥に見える湖の近くの大樹を指さす。どっしりとしていて、しっかりした枝が、いい感じにあちこちへ拡がっていて初めての彼でも登りやすそうだっだ。


 アルベルト様も同じことを思ったのだろう。溜息をつきつつも、頼む、と一言いうと早足で大樹へ向かって歩きだす。侍女たちに見つかる前にさっさと登りたいのだろう。


 まずは私が先に途中まで、よじ登ってみせる。登りながら、右足はここにかけて、腕はこの時まだ離さないでといった拙い説明も加える。アルベルト様はよじ登る私を真剣に観察しながら、その説明にうん、うんと頷く。


 1/3くらいまで登ったところで「じゃあ、とりあえずここまで登ってみましょう!」と声をかけ、座っていた枝から地面へ飛び降りる。下から支えてあげた方が、最初は登りやすいしね。


「なんでまた飛び降りるんだ‼︎ 君はレディなのに、怪我でもしたらどうするんだ? 手も赤くなってるじゃないか…。」と再び私の周りをくるくる周って心配してくれるアルベルト様。やっぱりやめようと言い出しかねないその様子に私は慌ててた。


「このくらい何ともないですって!飛び降りた方が早いし。それに木登りしたがってるのはそのレディですから。父も私のことは、まるで山猿だって諦めてますので心配いりません。」とケラケラと笑い飛ばし、さあさあ早く登りましょうっとアルベルト様の背中を押す。


 そこからは、もう2人揃って夢中だった。

アルベルト様は運動神経も良いようで、下から支えてあげるのは一度だけで済んだ。最初に私が登った枝まではなんなく辿り着く。


 私も同じ枝までもう一度登った後は、切りの良いところまで説明しながら先に登り、後からアルベルト様に着いてきてもらう、というのを繰り返す。途中、アルベルト様が苦戦すれば迎えにいって腕を掴んでひっぱりあげたり、腕が疲れれば枝の上で一緒に休憩したりした。


 そしてついに。ゴールに定めた一番高くて太い枝までたどり着いた。すこし冷たい風が私たちの汗で湿った肌を優しく撫で、視界いっぱいに広がる葉も枝ごと揺して、ざわざわと笑う。葉っぱの間から、近くの湖を見下すと水面も風でさざ波立ってキラキラと輝く。


「うわあ……。風が気持ち良い〜!!」


 と思わずつぶやいた後、隣に座るアルベルト様に笑いかける。髪をボサボサに乱してちょっと疲れた装いのアルベルト様が眩しそうに目を眇めて私をみると、


「ああ…。本当に気持ち良い。……僕を連れだしてくれてありがとう、リリー。」


 なんて、照れくさそうに笑い返してくれる。その今までと違う力の抜けた笑顔に、心臓がドキドキうるさくなる。


 それに、ここで呼び捨ても反則だと感じた。たしかに一緒に懸命に木登りをしているうちに、自然と格式ばった話し方をやめ、ぐっと距離が縮まっていた。


 それでも、こんなに素敵な男の子に名前を呼ばれて微笑まれたら、お転婆娘だってときめいてしまう……。なんて、アルベルト様の笑顔にやられていると、隣から更に声をかけられる。


「……君は、最初から僕に提案を断られるるなんて微塵も思ってなさそうだったのはなんでなの?いつから僕が……その、外で遊びたがってるって気づいていたんだい?」


 最後は恥ずかしそうに小声になっていく彼に、私は正直に答える。


「いつも違う冒険小説を読まれていたからです。どちらも、私も従兄弟に勧められて読んだことがあって。あれを読んで木登りや釣りをしたくならない子はいないですから‼︎ それに剣術のお稽古のお話も楽しそうにされてましたし。」


どうだ正解だろう?と得意気に笑いかけると、アルベルト様が降参と小さく両手を挙げる。


「君は素晴らしい観察眼を持っているね。参った。……また、僕とこうして遊んでくれるかい?」と顔を覗きこまれる。


「……⁉︎もちろんです‼︎ ……と言いたいところですが、公爵家の侍女の方を騙し討ちしてしまったので……。……私はもうこちらに連れてきて貰えないと思うのです……。」


 せっかく距離を詰められたのに残念だと肩を落とすと、アルベルト様がニヤリと笑う。


「大丈夫。今日、僕についていた侍女二人のうち一人は僕の乳母でね。いつも、"たまには坊ちゃんを思いっきり遊ばせてやりたい"って言ってくれている人なんだ。今から戻って事情を説明すれば、きっと力になってくれるよ。……怒られるとは思うけど。」


 その提案に私は心の中で、飛びあがって喜んだ。また、アルベルト様と遊べる‼︎ と。すぐに、今度は木を降りて、侍女の元へ向かうと、予想通り通り二人してこっぴどく叱られた。


 けれど、最後にアルベルト様へ、楽しかったですか?と苦笑ぎみに問いかける侍女の顔は、うちのお母様の顔にそっくりで。森の奥に入らないのなら、侍女の許可を得てまた遊んで良いとのお許しがでた時は、2人で顔を見合わせた後ハイタッチしてしまった。


 それから、私に弟が産まれるまでの間、サフィール公爵家へ伺う時は、必ず男の子の格好をしてアルベルト様と木登りをしたり、釣りをしたり、秘密基地を作ったりなど、お転婆の限りを尽くしたのだった。



閲覧ありがとうございます!


ブックマークや評価をして下さった方々、本当にありがとうございます!とても励みになってます!


明日も更新予定ですので、是非また読みにいらしてください。


ブックマーク等、まだお済みでない方はこの機会是非お願いします!

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