5.取巻き令嬢と取巻きイケメンの出会い
初めて伺ったサフィール公爵家でも、子どもは子どもだけで遊んでいなさい、といつもの様に別室へ案内される。さて、アルベルト様はどんなお坊ちゃんなのかしら、侍従がドアを開ける間、本日の"仲良し大作戦"について考えていた私だが、お部屋で本を読む天使が目に入った瞬間、その美しさに思考をすべてもっていかれてしまった。
……天使っていたの……⁉︎…え???羽根ないけど……え??もしかして人なの……?……御令嬢……?いいえ、でも、公爵家にこの年頃の御令嬢はいらっしゃらないし……?あれ?ズボン?履いてる……?
初めて会うアルベルト様の美しさに、大混乱の私に、天使ことアルベルト様がふわりと笑いかける。
「お初にお目にかかります。本日はわざわざ我がサフィール公爵家へようこそお越しくださいました。私は次男のアルベルトと申します。素敵な方だと名高い御令嬢とお話しできる機会に恵まれ、大変嬉しく思っております」と大人顔負けのしっかりとしたご挨拶をいただいてしまった。こんなちゃんとした挨拶を、同い年の子にされたのは初めて驚いてしまう。
大抵の学校に通う前の貴族の子どもは、自分と同じ年くらいの子どもに慣れていない。今まで出会った子のほとんどが、もじもじするか、めちゃくちゃハイテンションで話しかけてくるかの2択であるため、まずは相手の出方を伺うのが私の"仲良し大作戦"の定石だった。
ところが、アルベルト様は今までのどの子とも違う。とにかく、私も失礼のない様にしなければ……。大人ばかりの商談の時と同じよう、すぐに挨拶を返し、不慣れなカーテシーをとる。
「お初にお目にかかります。トラス伯爵家が長女、リリーと申します。本日は父だけでなく、私までお邪魔させていただき、誠に申し訳ありません。私こそ、アルベルト様にお会いする機会をいただけて幸せ者でございます」
挨拶を終えると、流れるようなアルベルト様のエスコートに従い、アフタヌーンティーの準備がされたお茶席へ着席する。
さて、いよいよ"仲良し大作戦"決行だと意気込んだ私だったが、結果は惨敗。美味しい紅茶とお茶菓子をいただきながら、当たり障りなく途切れることのない心地よい会話がアルベルト様主導で続く。
そもそも天使と見間違えるほど、とびきり綺麗なアルベルト様。そんな彼に、優しい笑顔と落ち着いた雰囲気でエスコートされるのだから、まるでお姫様にでもなったような錯覚に陥り、私はぼうっとしてしまった。
その間にもアルベルト様は、部屋は寒くないか、どんな香りの紅茶が好きか、お茶菓子は気に入ったかなど、次から次へと気遣ってみせ、父が私を迎えにくる最後まで"トラス伯爵令嬢"を完璧にもてなしきってみせた。
その日の帰り道は史上最長の反省会が開催された。
初めての大失態に、帰りの馬車のなかで私はぽつぽつと反省点を父に報告しつづけた。それを聞いた父は「百戦錬磨のリリーでも、初めてのタイプの子にびっくりしちゃったね。」と楽しげに笑ったあと、「それにしても、さすがサフィール公爵家のお坊ちゃまだ。"レディとの接し方"を心得ていらっしゃるね。」と舌を巻いていた。
日を置いて、再度サフィール公爵家へ伺った父と私だったが、再びアルベルト様に"おもてなし"され敗走。しかし、転んでもタダでは起きないのが私だ。
先日の父との反省会で引っかかった"レディとの接し方を心得ている"という話や、アルベルト様が傍に置かれていた本が両日とも男の子達に人気の冒険譚であったこと、最近剣術を習い始めたと嬉しそうにお話されていたこと等から、私はひとつの結論に至る。
アルベルト様の求めるお友達は「活発な男の子」だと。残念ながら、"レディ"である私はエスコートの対象であり、"遊び相手"になり得なかったのだ。
そこで私は、男の子の服を着てサフィール公爵家を訪ね、木登りや釣りといったワイルドな遊びを一緒にするという、令嬢にあるまじき回答を弾き出した。3度目の訪問時に実行したいと、父の許可は事前に得た。……お父様ったら何故止めなかったのかしら‼︎
そして、ついに迎えた3度目の訪問日。
いつも通り別室に通されるが、いつもと違う男の子の格好の私に、むかえて下さったアルベルト様もさすがに驚かれて目をぱちくりさせる。珍しい彼の反応に、うわぁ……可愛らしい……と私が見惚れているとアルベルト様がすかさず口を開く。
「ご機嫌様、トラス嬢。今日の装いはいつもと違ったスタイルなのですね。そちらもよくお似合いです」と天使の微笑みを浮かべてくださる。
お似合いですだって‼︎ と内心喜びつつ、私は本題を切り出す。今日を逃すと作戦成功の芽はなくなるのだ、浮かれてもいられない。
「ありがとうございます。……実は……大変厚かましく、お恥ずかしいのですが、サフィール公爵家のお庭を一緒に散策させていただくことはできないでしょうか……?」
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