40.取巻き令嬢と本物のお姫様(リリー&タナ様視点)
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「リリー、ちょっといいかしら?」
お昼休みに泣き出すという失態を犯した翌朝、登校するなりタナ様からお呼び出しがかかった。二人だけでお話がしたくて……と話すタナ様についていくと、早朝で人気のない庭園の東屋へたどり着いた。到着するなり、くるりとこちらを振り返り、持っていた手提げから何かを取り出して差し出すタナ様。
「よかったらこれ、読んでみて。うちの国でとっても流行ってる本なの。私も色々と参考にしているというか……」
どこか気まずげに渡されたのは、薄桃色の表紙に金縁で装飾された可愛らしい装丁の本。
「……これは?」
「ごめんなさい。実は昨日のお昼休み、扉の向こうから少しだけ貴女のお話が聞こえたの。……それで、なにか力になれないかと思って……。これ、バロット公国で流行っている恋愛指南本なの。リリーみたいな素敵な人に振り向かない人がいるとは思えないもの! せめて最後にもう一度アタックして、それでもダメなら諦めるのはどうかと思って……」
もちろん、お相手に婚約者ができた、とかならおすすめはしないけれど……と続けるタナ様の優しい気遣いに、じくじくと胸が痛む。さすがアルベルト様の心を奪った人だ。彼女に比べたら私なんて……と気持ちが落ち込んでくる。
「お気遣いありがとうございます。……お相手に婚約者がいらっしゃるわけではないのですが、最近、どうも心を寄せる方ができたようなんです。そのお相手は、私からみても本当に素敵な方で……私なんて足元にも及びません。だからせめて、今までの彼との関係を壊さずにいたいんです」
力なく笑って本をやんわりとお返しする私に、押し付けるようにタナ様が私の手へと本を突き出す。
「心を寄せる方ができたというのは、ご本人から直接伺ったの? そうでないのなら、やっぱり気持ちを直接相手に伝えるべきよ。今の関係を壊したくないって足踏みしていたら、いつまで経っても貴方の望む結果なんて訪れないわ。貴女のことだから、きっと次は、お相手の女性に遠慮して、彼に話しかけることだってできなくなるわよ」
図星を指された。現に私は、今まで二人で行っていた週初めの企画会議で、必ずレオ兄様や騎士科のマーク様を呼び出し、二人きりになることを避けていた。アルベルト様から、タナ様に疑われたくないと言い出されるのが怖くて、気遣いを装って心に予防線を引いていた。
思わず黙り込む私に、やっぱりねとため息をついたタナ様の瞳が強く輝く。
「私、リリーとはもうお友達になったつもりでいるから、貴女には絶対幸せになってもらいたいの。だから、私の持論を押し付けちゃうけれど言わせて。今の貴女の顔をみたら、どうしたってお相手のことが忘れられないって顔だもの……。成就するなり失恋するなり、何かしらお相手からの気持ちを返してもらわないと、その気持ちに決着なんてつけられないんじゃないかしら」
ぐうの音もでない。正論すぎてタナ様が眩しい。
「……おっしゃる通りです。このまま婚約者を探すにしても、彼を想ったまま結婚するなんてお相手にも失礼すぎますよね……。でも……ずっと隠してきた気持ちを、いきなり伝えるなんてハードルが高すぎます……」
「大丈夫! そのためにこの本を貴女に貸してあげる! この本が一体何人の悩める乙女を救ってきたと思って?」
にっこりと笑って、私に協力できることがあれば何でも言ってねと微笑んでくれるタナ様は、やっぱり素敵な方だ。可憐で可愛らしいのに芯が強くて、かっこいい。ありがとうございますと礼を告げ、薄桃色の本と一緒にタナ様の優しさを大事に抱きしめた。
◇◇◇
「私は先に戻っているから、リリーはギリギリまで読んでから戻っていらっしゃいな」
私はそう言って、少しだけすっきりした表情になったリリーを置いて教室に戻る。思わずスキップしたくなる気持ちを抑え、鼻歌を歌うだけに留める。友好国とはいえ外国の上流階級がひしめく学校で、変なことはできない。でも、自然とにやにやと笑ってしまいそうになるから辛い。
だってあの二人が両想いだったなんて! 嬉しいじゃない!?
今度はキャーっと今すぐ叫び出して転げまわりたいところだったけど、お姫様としてあるまじき行いすぎる。さすがにじゃじゃ馬の私でも、許されないのは分かっている。ちょっと頭を冷やさなきゃ。
でもだって、私が応援していたアルベルト様の恋がまさか実っていたなんて、昨日まで全然気づけていなかった。
聡明で甘いマスクをした高位貴族、と客観的にみて「良い男」の条件が揃っているアルベルト様だったけど、リリーへのどこかつっけんどんな態度はいただけなかった。昼休みの様子を観察するに、他の女性陣への扱いに比べ、明らかにリリーにだけ事務的な話し方をするのだ。リリーもリリーで全く気にした素振りをみせずに受け答えしているものだから、てっきりアルベルト様に全く興味がないのかと思っていた。
だってクラスで見る限り、リリーは人気者だったから。優しくて気遣いができる美人な才女、しかも許嫁がいないといった好物件のリリー・トラス伯爵令嬢は、特に男性陣からとてつもない人気を誇っていた。それでも、女性陣から一切の反感を買っていないところも彼女の凄いところだ。
どんな人とも親し気な距離を保ちながら、いつも女性陣の中心でひっそりと笑っている彼女にとって、大概の男は恋愛するに値しないのだろうと思っていた。だから、アルベルト様には彼女に振り向いてもらえるような、良い男になってもらおうと思っていた。
まあ、余計なお世話だった訳だけど。
「私もいい加減夢見てないで、そろそろ本腰いれて婚約者を探せって女神様からの図らないなのかも」
そう言って涙を流すリリーが、アルベルト様と私から目を背ける。周りも気遣わし気にリリーを見ていながら、彼女の涙にはその後一切触れずに話題が切り替わっていった。……明らかに、私たち二人が不在の時を狙って、リリーの想い人の話がされていた。
話が違う。
「僕が長年片想いしているだけで、彼女は僕のことを昔の顔なじみとか、仕事の同僚のような存在としか思っていません」なんて言ってたくせに、リリーは貴方のことが好きじゃん! アルベルト様!
ていうか、私との作戦会議を勘違いされてんじゃん! しっかりして!?
思わず叫びそうになるのを抑え、「つ・づ・き・は・あ・し・た」と口の動きだけでアルベルト様に要件を伝える。少し青い顔で神妙に頷く彼は、間違いなく何か勘違いをしていると分かる。この恋愛音痴め、と意地悪な気持ちになりながら、勝手に暴くわけにはいかないリリーの恋心をどうやってこの男に気づかせようかと夜まで思案した。
その結果、リリーを焚きつけて想いを伝えさせるのが一番だと結論付けた。彼も彼なりに頑張っているが、あの不器用さからすると、リリーがお嫁に行っちゃう方が早い気がしたから。ちょっと心は痛むけど、リリーには私とアルベルト様の関係を誤解しつづけてもらうことで焚きつけよう。
そんな考えから、社交の話題のひとつになればと持参していた恋愛指南本をリリーに渡して、焚きつけた。こっそりと振り返って東屋にいるリリーを確認したら、熱心に読み始めていた。きっと彼女がこの恋を動かしてくれるだろう。
とりあえず、第一次作戦成功って感じかしら?
とまらない鼻歌を歌いながら、今日の昼休みの作戦会議へと思いを馳せるのだった。
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