38.本物のお姫様と取巻きイケメンの秘密の作戦会議(アルベルト視点)
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「私もいい加減夢見てないで、そろそろ本腰いれて婚約者を探せって女神様からの図らないなのかも」
タナ様と自分のトレーを持って特別給仕室の扉につくと、リリーの声でとんでもない台詞が聞こえてきた。びっくりして思わず扉を凝視して固まってしまった僕を一度振り返ったタナ様は、そのまま勢いよく扉をあけて女性陣に抱きしめられているリリーへと駈け寄る。リリーの顔はよく見えないが、泣いている彼女を慰めているようにしか見えない光景に再び衝撃が走る。
「まあ!皆様どうされましたの!?リリーお怪我でもされたの?」
あまりの衝撃にやっぱりまだ直立不動のままの僕とは対照的に、タナ様が心配そうにリリーへと声をかける。
「俺との口喧嘩に負けて悔しいって泣きそうになってただけですよ。そんなに嫌がると思わなくて。言いすぎて悪かったな」
リリーに代わって答えたのは、フランツの後ろに控えていたレオニダスだ。珍しく本当に心配そうにリリーの顔を覗き込んでいる。その視線を追って再びリリーを見やるが、彼女の斜め後ろにいるせいで辛うじて横顔が少しみえる程度だ。
「いいえ、こちらこそごめんなさい。色々気遣ってくれてありがとう。皆様もお騒がせしてしまって申し訳ありません。私の気持ちはもう大丈夫ですから、心配なさらないでください。さあ!お二人も帰っていらしたことですし、早くいただきましょう!」
僕に背をむけたまま皆を急かすリリーの瞳は潤み、頬には流れ落ちた涙の痕がみえる。リリーが泣いているところなんて今まで見たことがなかった。しかもあんな台詞の後だ。これはもう、リリーには想い人がいるけど叶わない状況だという話としか思えない。……信じられない。
話が違う。
そう思ったのはタナ様もなのだろう、こちらも珍しく焦った表情で僕に振り返ると「つ・づ・き・は・あ・し・た」と口の動きだけで僕に伝えてくる。それに小さくうなづき、宣言通り何事もなかったかのように弁当を広げはじめるリリーに倣って各自席についたのだった。
◇◇◇
「……そんな顔で言ったら貴方の気持ちはバレバレよ?仕方ないわね。私が立ち入ったことを聞いたのが悪いし、二人のキューピッドになってあげる」
タナ様はあのお茶会での宣言通り、ランチタイムの度に僕を特別給仕室から連れ出し”作戦会議”と称してリリーへのアプローチを一緒に考えてくれるようになった。はじめはただ、リリーと僕の長年のこじれた関係の話を聞いてくれたり、同じクラスで過ごすリリーの様子を教えてくれていたタナ様だったが、最近は昨日の昼休みの僕のアプローチに関する反省会が主な題材となりつつあった。
タナ様曰く「彼女みたいな恋愛に疎い子へあなたのアプローチは伝わらなすぎる」らしい。フランツとジュリア様の応援もしていたし、特別恋愛に疎い方ではないと思うと反論すれば「あの子は他人の機微には敏感だけど、自分に向けられるそういった好意には何故かとことん気づかないのよ。…その辺は同じクラスになれば貴方も分かるわ。……忙しそうだし、まだ恋愛に興味がないのかしら…?それに、貴方からの気持ちにだってこれっぽちも気づいていないのがいい例じゃない」と言い放たれてぐうの音もでない。リリーに何とも思われていないのは知っているけれど、客観的にそう言われるとやっぱりくるものがある。しかもクラスでもリリーはモテているらしい。そりゃそうだよな……と、リリーの目に映っていない同士の多さにも落ち込んだ。
「そもそも貴方、全然彼女に話しかけないじゃない。恋愛に大事なのは、単純接触回数をあげることよ?何でもいいから毎日一度は話かけてみたらどう?」
「そうは言っても例の打ち合わせくらいしか二人で話すこともないですし…」
「そんなの仕事みたいなもんじゃない!本当に何でもいいのよ?髪形を褒めるとか、服装を褒めるとか…」
「……あまり慣れていないので、上手くできる自信がありません。それに、そんなあからさまなアプローチをして彼女に引かれたり、気持ち悪がられたら立ち直れません」
いくじなしとは分かっているが本当の気持ちだ。真摯に向き合ってくれているタナ様に嘘はつけない。
「貴方もとことん恋愛音痴ね……。分かったわ。そんなに不安なら、まずは一週間私のヘアアレンジや服装を褒めて練習しましょう。それで毎回この注文列に並んでる間に採点してあげる。それで自信が持てたら彼女に言ってみればいいじゃない」
「そんな。タナ様相手に練習だなんて失礼なことできません!」
「言ってる場合じゃないでしょ!どうするの?他のライバルやあの騎士様に彼女を取られちゃってもいいって言うの?」
「絶対いやですけど!!それとこれとは問題が違います!」
「別に本気で褒めてくれれば、私も嬉しいわ。それに採点するなんて失礼なのは私も一緒よ。お友だちなんだから、そこは遠慮しないで。ね?」
楽し気に笑うタナ様は本当に外交官向きの人だなと感心する。相手に気を使わせない気持ちよい気遣いは種類は違うがリリーに似ているなと思った。
◇◇◇
その日から、毎日変わるタナ様の髪形や服装を一生懸命褒めてからエスコートしてオーダーへ向かう日々が続いた。もう少し笑って言ってみたらどう?とか、照れながら言ったらそれこそ気持ちがバレバレよ?など手厳しいアドバイスを頂きながら、リリーの気持ちを射止めるべくタナ様との練習の日々が続いたのだが…。
リリーに好きな人がいるなんて聞いていない!
あのリリーの発言の前にどういった話の流れがあったのかは全く分からないが、その後の会話から察するにレオニダスがリリーに気持ちをあきらめるよう諭したとかなのだろうか…?そもそも、リリーにあんなに想っている奴がいたこともショックでしかたない。一体誰なんだそいつは?考えても考えても上滑りする思考を余所に、優雅なランチタイムは過ぎていく……。
こうなったら後でさっきの話をフランツから聞き出すしかない!
そう心に決めて堂々巡りの思考を打ち切り、目の前のランチを咀嚼する。それでもやっぱり気になって、心なしか顔色の悪いリリーの姿をちらちらと確認してしまうのだった。
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