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35.本物のお姫様の登場


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 昨日開催された国賓・タナ様の歓迎式典は恙なくお開きとなり、本日はとうとう例の”極少数での歓迎のお茶会”という名の学院でのサポートメンバー顔合わせ会当日である。今まさに、侍女がそれぞれのカップへ静々と紅茶を注ぎ、お茶菓子が配膳されはじめているため、隣の方とちょっとした雑談も今は難しい。私を含めて八席設けられた円卓の中央には真っ赤な薔薇とシロツメクサが飾られており、私は一心にそれを見つめ続け、今朝起きてからここまでの道のりを思い返すことに集中する。


 だって緊張でおかしくなりそうだから‼‼


 ただでさえ今年社交界デビューをしたばかりの伯爵令嬢が王宮に参上する機会など片手で足りるほど。それなのに、二日続けて王宮に参上するだけでなく、迎賓用の広間での特別な茶会。こう思い起こすと、開催場所への道のり自体も心臓に悪かった。


 侍女に案内されながら、どんどん奥まったところへ進んでいくのだ。昨日の絢爛豪華な高い天井と圧倒的な広さを誇る舞踏室を抜けたあたりで、手の先もどんどん冷たくなった。厳重な警備のチェックを二度ほど超え、いかにも特別な王族のプライベート空間という感じの広間の前につく。そして、通された木目調の広間を見て更に血の気が引いた。『豪奢さと深い森の中にいるような落ち着きが絶妙なバランスでマッチしている温もりのある広間。王族が国賓とプライベート時間を共有する際に用いられる。』という歴史の資料集に記載された文言が頭に浮かんだが、私が落ち着くことは決してなかった。



 薔薇の赤色に目がチカチカと痛みだす。さすがに見すぎたようだ。目を労わるため、給仕を確認するふりをしながら、囲んでいる円卓全体をくるりとを見回す。タナ様の両隣には、王太子様とジュリア様がおかけになり、何か楽しそうにお話をされているご様子だ。私を含め八席設けられているが、席次はもちろん家格順。しかも錚々たる高位貴族集団だ。本来の私の立場なら、決して同じ卓を囲む機会などないはずの人々なのだが、実はご一緒させていただくのは今回が初めてではない。というのも、参加メンバーはアルベルト様をはじめ、王太子様とジュリア様の親睦会常連の生徒会の運営をされているウィンズバー辺境伯家の双子の先輩方、同じく親睦会常連でクラスメイトでもあるスカーレット公爵令嬢と顔なじみの面々なのだ。


 ちなみに、ウィンズバー辺境伯は、わが国の建国神話に登場するような名家中の名家である。そして大事な国境警備を代々任されている特別な家系。同じ伯爵家といえど、我が家のような新興貴族とは雲泥の格の違いがあった。だから当然、私が最も下座に座っている。そして、円卓の場合の下座はつまり、上座に座られているタナ様のちょうどお向かいにあたるお席だ。声をかけていただく前に、視線でも合おうものなら不敬とみなされてもおかしくない。やっぱりまだ目は痛むけれど、しばらく咲き乱れる薔薇に視線を集中した方が良い。そうだ。実際にお話する前に今一度タナ様に関する情報を整理しておこう。



 この1か月間、伝手という伝手を使ってバロット公国のありとあらゆる情報を手にいれた私だったが、残念なことにタナ様のパーソナルな情報は全く手に入らなかった。なにせ私のもっている伝手はあくまで、あちらで暮らす一般市民の商人たちなのだ。我が国のような貿易大国とは異なり、目覚ましい商売を称えて爵位が与えられる訳ではないため、かの国の貴族たちの話を聞くことはできなかったのだ。


 ただし、民衆からの評判は上々。滅多に民衆の前に姿を現さない深窓のご令嬢らしいのだが、国民と接点が少ないにも関わらず熱狂的な人気があった。商人たちにタナ様について問うと皆嬉しそうに「姫様が視察に来てくださる地域ではスラムが解消されるんだ。ただ取り壊すわけじゃない。仕事を斡旋して、孤児院を作り、救護院も建てる。民の幸せを一番に考えてくれるんだよ」と自慢気に語ってくれた。


 話を聞く限り、心優しく聡明で、政治力のあるお姫様なのだろうと予想はつく。でも、それはタナ様が苦労して手にしたパブリックイメージだ。もちろん必要な情報ではあるのだが、知っていて当然の情報でしかない。お友だちになるために私が知りたかった情報は、好み全般だ。甘いものが好きか嫌いか、どんなお花が好きか、趣味はどういったことなのか……等、あげだしたらきりがない。とにかく、慣れない異国生活の中で少しでもほっとするタイミングになる助けになればと思っていたのだけど……。せめて誰か一人でもあちらの貴族令嬢にコンタクトを取れれば事前準備のしようがもっとあったのに‼と臍を噛む。



「皆様、おまたせいたしました。本日は私主催のタナ様の歓迎会にお越しくださりありがとうございます」


 少し緊張した様子のジュリア様が全体へと視線をめぐらせ、親しげに話しかける。気が付けばすべての配膳が終わり、紅茶と茶菓子の甘やかな匂いが漂っていた。ジュリア様は、向かって左隣に座るタナ様へと視線を合わすと「ささやかな会ではございますが、タナ様に学院生活をめいっぱい楽しんでいただきたいと思っての会です。どうぞお気軽になんでもおっしゃてくださいませね」と中央に飾られたバラのように頬を紅潮させ、タナ様を歓迎する。それに優雅に微笑み返し、私からもご挨拶を、と申し出るタナ様。じっとみつめても失礼でないタイミングが訪れ、やっと正面の彼女を見据えることができた。


 エキゾチックな雰囲気のドレスは、深紅のベルベット地に金糸で太陽や不死鳥の柄があしらわれていて美しい。さらに同じく金色の紗のヴェールを纏っているのだが、小柄で華奢なタナ様の可憐さを強調していた。それとは対照的に意志の強そうな瞳が凛と輝き、自信にあふれた雰囲気が衣装も相まって黄金に煌めいているようだった。


「フランツ様、ジュリア様、本日は私のために素敵なお心づかいをありがとうございます。皆様も私のためにお時間をくださってありがとうございます」


 そこまで言うと、優雅に微笑んでいたタナ様が、急に俯き、ふぅっと大きく息を吐きだしはじめた。お加減でも悪くされたのかと、ジュリア様が声をかけようとすると、これまた勢いよく顔をあげて真っ赤な紅をひいた唇がにっと引きあがる。いたずらっ子のような楽しそうな笑みだ。先程までの優雅なお姫様から一転、その表情ははっきりとしたエキゾチックな美しいお顔だちも相まって、ランプから飛び出す妖精のように不思議な魅力に溢れていた。


「なーんて、堅苦しい挨拶はここまで!フランツ様もジュリア様も本当に優しくて素敵な方だし、そんなお二人が推薦してくれた皆さんとも、ちゃんとお友達になりたい。時間も限られていることだし、今日は無礼講でお願い!」


 最後にウインクまで決めた彼女の快活さに、場が一気に和み、全員が拍手とともにこちらこそよろしくお願いしますと口々に発する。もちろん私もだ。知らず知らずのうちに緊張で強張っていた肩から力が抜け、是非、タナ様についてもっと知りたくなっている私がいた。




ここまで閲覧ありがとうございます!


更新がマイペースなので、よろしければ是非ブックマークしていただけると、続きを読んでいただきやすくなるかと思います。お手数をおかけして申し訳ないです……。(次の更新は週明けを予定してます)


評価やいいね、コメントはいただけると大変とっても喜びます。よろしくお願いします!!


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