32.取巻きイケメンは翻弄される(アルベルト視点)
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「あ!そういえばお嬢様!先日おっしゃていたお色の糸ですが、先ほど追加分が届きましたの。もしまだ御入用でしたら、お包みできますけれどいかがなさいますか」
少々強引な話題転換をはかってくれたハサムにリリーもほっとした顔で返す。
「あなたのお陰で無事に間に合ったわ。ありがとう。何とか遠征前にレオ兄様にお渡しができてホッとしたわ。本当に助かっちゃった」
にこにこと笑うリリーはとても可愛いのだが、今面白くない男の名前が聞こえた気がする。自分でもピタッと硬直してしまったのが分かったが、敏腕女店長ハサムにしっかりバレてしまったようだ。俺の方をチラチラと確認しながら少し大きな声で相槌をうつ。
「まあ!レオニダス様への贈物で必要でいらしたんですね。いつも御家族が遠出をなさる時に作っていらっしゃる安全祈願のお守りですわよね?この前、ジャスパー様にも自慢されましたのよ」
ね?ね?と焦ったように、ことさら家族の部分を強調するあたり、どうやら僕の気持ちもバレバレのようだ。手のひらくらいに収まるくらいの大きさで指をくるくる回しながら、このくらいの大きさのお花を模したかわいらしい匂い袋ですよねと続けるハサム。
「ええ、それと似たようなものよ。でもレオ兄様のは父様やジャスパーに渡すものとはちょっと違うの。レオ兄様には"邪魔だからいつも身につけられるものにしろ"って言われてから、いつもシャツに刺繍をしているのよ。今回はいつもより遠征日数が多くて、想定よりも糸が必要になちゃって…」
ハサムが一生懸命褒めてくれたのが嬉しかったのか、リリーはその名の通り花のように愛らしい笑顔で聞き捨てならない話を始めた。お力になれて何よりです、と気まずげに返事をするハサムの気遣いのこもった目線を頬にチラチラと感じ、更に落ち込む。これは嫉妬にかられた僕じゃなく、第三者からみてもリリーとレオニダスが特別な関係にみえるからこそ気遣われているってことだよな……。しょげてしまいそうな気持ちを紅茶と一緒になんとか飲みこむ。
ハサムが醸す気まずげな雰囲気と反応の鈍い僕に気づいたのか、リリーが「ごめんなさい。ハサムに褒められて嬉しくなって、私ばかりお話ししすぎてしまいました」と恥ずかしそうにする姿が可愛らしくて切なくて、きゅっと胸がつまる。勝手に僕が嫉妬しているせいで今、しなくて良い気まずい思いを彼女にさせてしまったと反省する。
「そんな事ないですよ。お守りの形の想像がつかなくて考え込んでしまって……。すみません。今度ジャスパーに見せてもらってもいいかな?」
できるだけ邪気なくにっこりと笑ってみせる。一緒にいる時くらい僕のことを見てほしいから。嬉しそうに頬を染めたリリーが、実はいま持ってますと言って小さなハンドバッグへ手を伸ばすのを見つめる。
レオニダスがリリーを妹としか思っていないからと言って、リリーがレオニダスを家族以上に意識していないという意味ではないよな、と苦い気持ちでいっぱいになる。マーク殿に焚きつけられて、リリーの気持ちも、もしかしたらレオニダスには向いていないかもしれないと無意識のうちに思いこんでいた。
リリーは自覚していないだけで、何かのきっかけがあればいつレオニダスへの恋心を自覚してもおかしくないのかもしれないのに。
……僕は今日、横恋慕は承知の上でリリーの気持ちを確かめるために来たはずだ。分かったのだから、振り向いてもらえる男になる努力をするまでだ。それに、リリーに会えなくなったあの頃とは違う。彼女と話すチャンスがある。まずは今日、彼女を少しでも笑わせられる男になろう、と再び自分に言い聞かせたのだった。
◇◇◇
ハサム達に見送られて、ジャスパーの店を後にする。さっそく調整してもらった色つき眼鏡をかけて、大通りを背に王都の東を目指す。新しいデートスポットの提案として、王都を訪れる観光客向けの遊覧船が発着する海浜公園を取り上げるためだ。観光客向けなので、王都に住んでいると逆に乗る機会がないうえに、観光のオフシーズンともなれば思ったよりも混み合わないのも良い。運航コースも海浜公園から沖に出て、王都を一望した後、大通りの脇を流れる水路を突っ切り、再び海浜公園へ帰ってくる1周40分ほどのもの。途中何箇所か申請すれば降りられる停泊所もあるので、船酔いしやすい人にも優しい。
新春の社交界シーズンが終わったばかりの今はちょうどオフシーズンにあたる。それでも天気が良いからか、到着した海浜公園の船着場にはまばらに人がいた。家族連れやご高齢の御夫妻が主な客層だからか、各々でゆったり楽しむ朗らかな雰囲気が流れるなか小さな遊覧船は出航した。
「なんと美しいんでしょう……!!」
遊覧船のデッキスペースに出た僕等は、潮風に髪を嬲られながら陽光を受けて光り輝く王都を見る。貿易で栄える商売人の街はどこもかしこも活気がある。普段はごちゃごちゃしていると思うほど賑わっている王都でも、所狭しと水路と馬車道が整備されているからか、遠目でみると整然とした美しさを讃えていた。そして王都の中心にある小高い丘には、煉瓦造りの大きな王宮が王都を見守るように悠然と佇んでいる。嵌め込まれたら窓ガラスが陽光を反射し、海からの照り返しもあわさって御伽噺に出てくる魔法の城のように光り輝いていた。色つき眼鏡をかけていなければ、こんなにじっくりと眺めることは出来なかっただろう、とはしゃいでいるリリーの横顔を見て笑みがこぼれる。先ほども出航と同時に鳴った汽笛に同乗してい子どもと同じくらい目を輝かせていたことを思い出し、やはり根っからのお転婆なんだなとおかしくなってしまった。
「……アルベルト様?ご覧になれていますか?キラキラして、本当に綺麗ですよ?」
笑いを堪えようとして返事が遅れたせいで、リリーがこちらを振り返る。潮風に遊ばれる柔らかな栗色の髪が顔にかからないよう耳にかき揚げ、心配そうに僕の顔を覗きこむ。その姿が一瞬、あの日の妖精と見間違えた少女と重なった。
「……ずっと見てましたよ。本当に。相変わらず綺麗だ」
熱に浮かされて思わず、リリーを見つめてありのままの気持ちが口から溢れてしまった。みるみる赤くなる顔を見られたくなくて、デッキの柵へ乗り出す。そういえば王宮のあの辺でフランツに木登りを教えたんですよ、等とどうでも良い話をペラペラとしゃべくり倒し、海風が頬の火照りを連れ去ってくれるのを待った。
だから気づかなかった。楽しそうに相槌を打ってくれていたリリーの顔も僕と同じくらい真っ赤になっていたなんて。
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