30 取り巻きイケメンは平静を装う(アルベルト視点)
あけましておめでとうございます。
すっかりご無沙汰になってしまって申し訳ありません。
ちょっとずつアップできればと思います!
転びかける彼女の腰をとっさに抱き抱えてみれば、その細さと柔らかさに驚いた。華奢な人だと分かってはいたけれど、あの頃手を繋いだお転婆な女の子がしなやかな女性へと成長していたのだと気がついて。分かっていたはずなのに、理解できていなかった彼女の女性らしさを感じてドギマギした。それでも、ここは紳士としてエスコートを申し出る自然な流れだと自分に言い聞かせて、なんとか彼女の手をとる。僕の腕に手を添える彼女の体温に鼓動が早まるのを感じながら、僕はこんなに素晴らしい休日が人生にあと何度訪れるだろうかと夢見心地でとっちらかってしまう思考を抑えることができない。
そんなとっちらかった思考のなかで、焦った彼女が僕を"アルベルト"とあの頃のように呼んでくれたのが聞こえてくる。たったそれだけのことに甘く胸をくすぐられた。逸る気持ちのまま、再び"リリー"と呼ぶことを乞えば、それまで許してもらえて……。思わず"よっし‼︎"と叫んで拳を握り込みそうになったが、なんとか耐える。でも、顔はだらしなく弛んでしまったかもしれない。勇気を出して彼女をデートに誘って良かった、と噛みしめた。
ジャスパーの帽子屋はメインストリートを一本外れた脇道にあったが、それでも道行く買い物客の視線を一身に集めていた。なぜなら、パステルイエローと柔らかいミルクのような白の縦縞の上品なサンシェルフの下に設けられた大きなショーウィンドウがとにかく目立つのだ。様々な帽子や日傘、ベルトなどがただ置かれているのではなく、一抱えほどの大きな絵本を模った木像から飛び出してきたかのように配置され、まるで絵本から理想の服飾品が飛び出してきたかのように見えて美しい。それにより自然と視線が吸い寄せられて、思わず立ち止まる人までいる。
「物語性のある凝ったショーウィンドウで素敵ですね。さすがジャスパーだ。トラス伯爵もさぞお喜びなのでは?」
「うふふ。ありがとうございます。アルベルト様にそうおっしゃっていただけたと分かれば、父もジャスパーも喜びます。この装飾が完成した時、2人とも恥ずかしいくらい自画自賛しあってましたから」
続けて少し恥ずかしそうに、私も華やかで自慢なんですが2人に伝える隙もないくらい2人で褒めあってて…と困ったように話す彼女の口調は、それでもとても嬉しそうだ。トラス伯爵とジャスパーも、商談でふと奥方やリリーの話をする時はいつも、今のリリーのような優しい目で話をしている。本当に仲の良い家族なのだろう。そういえば、リリーがあの男を見つめる時も今のような優しい目をしているなと思い出してしまって胸がざわつく。……僕は自分に振り向いて欲しくてここにいるのだ。例え今は無理でも、少しずつ彼女に振りむいてもらうしかないのだと落ちかけた自分の気持ちを立て直す。
オークでできたアンティーク調の扉を開けると、既に買い物客が何組かいて楽しそうに店内を物色している。さすが繁盛しているようだ。入るとすぐに落ち着いた雰囲気の若い女性店員と男性の店員が1人ずつ接客をしようと近づいてきたが、2人ともリリーと顔見知りのようで、急な訪問に驚きつつも奥の応接室へと通してくれた。
「サフィール様、お嬢様、本日はようこそおいでくださいました。お越しいただいたのに大変申し訳ありませんが只今、店主は席を外しておりまして午後の戻りの予定でございます。せっかくでございますので、本日は店長を務めております私、ハサムが代わりにご用件を伺ってもよろしいでしょうか」
僕の好きなハーブティーを差し出しつつ、そう切り出してきたのは先ほど出迎えてくれた落ち着いた雰囲気の女性だった
。もちろんお願いしますと伝えれば、リリーもハサムもほっと力を抜く。
「事前にお話も通さず突然来てごめんなさいハサム。実は今日、新しいスクラップブックの取材でサフィール様と街を周っているの。ただ思っていたよりも日差しが強くて。これからの予定も考えると、何か日除けのためにすぐに身につけらえるものが欲しくて来てしまったの」
リリーが簡単に事情を説明してくれると、ハサムの目が何故かキラリと一瞬光った。
「とんでもないことでございます。お嬢様にはいつも助けて頂いておりますし、何よりサフィール様は長くお付き合いくださっている特に大切なお客さまですもの。お困りの際に当店を思い出していただけて光栄です。スクラップブックの取材も兼ねてとのことでしたら、最近仕入れた舶来品のものでぴったりなものがございますので是非」
後ろに控えていた男性店員へメモとともに小声で指示を出した後、只今サンプルをお持ち致しますとにっこり微笑むハサムの目は心なしか爛々としている。リリーのスクラップブックに新商品を売込む機会を逃さないあたり、敏腕販売員に違いない。リリーもあれが届いたのね、と嬉しそうにしていてるあたり、彼女のお目当てだった品も同じなのだろう。わくわくと待ちきれない様子のリリーがかわいくて口元がつい弛んでしまう。
読んでくださってありがとうございます!
明日もアップできる予定です。
よかったらブックマークして続きを読みにいらしてください!




