21.取巻き令嬢は騎士見習い達を知る
昨日は申し訳ありませんでした!
今日は少し長めです!
「本当に先輩とトラス嬢は仲良しなんですね。」
レオ兄様が一番初めにと選んだ席へ一緒に着くと、そこに座っていた騎士科の生徒が意外そうに呟く。口ぶりからして彼はレオ兄様の知り合いのようだ。
「従姉妹というより妹に近いからな。お前等も仲良し兄弟だから分かるだろう?今日は助かった。リリー、紹介する。マクミラン男爵家の次男、マークだ。俺の同期の弟なんだ。」
レオ兄様との気安いやり取りの後、マークからもはじめましてと愛嬌たっぷりに笑いかけてくれる。マクミラン男爵家といえばその代々騎士を輩出している家系だ。貿易大国である我が国には珍しく、その武功によって爵位を与えられているということでちょっと有名な家だ。そして、そのマクミラン家の長男アンドリューはレオ兄様の悪友として何度か話しに聞いたことがあった。
「こちらこそお初にお目にかかります。トラス伯爵家が長女リリーと申します。アンドリュー様だけでなくマーク様にも、いつも大変レオニダスがお世話になっております。」
「とんでもない。私たち兄弟の方こそ、レオニダス様には色々とお世話になっております。先輩から男性向けスクラップブックを作成するのにお困りだと聞いています。何か私でお力になれるのであれば、何でもおっしゃて下さい。」
丁寧かつ優しい口調で申し出てくれたことにほっとする。時間を効率良く使えるようにと既に事情を知っていて協力するつもりだと教えてくれたマーク様は賢い人なのだろう。隣のレオ兄様もこいつに遠慮はいらないから聞きたいことをさっさと聞いちまえと言って目の前のお菓子を無心で食べ出す。どうやらマーク様には遠慮をする気がないようだ。そしてマーク様もそれを一切気にする素振りがない。
それではお言葉に甘えてしまおうと早速、素案をさらに簡潔にまとめた資料を見てもらい感想を教えて欲しいとお願いする。読みたいと思うか、思わないか。どの企画なら読んでもいいと思うかなど、忌憚ないものをとお願いする。分かりましたと早速パラパラとページを捲って中を確認してくれる様子をドキドキしながら待ち、一通り読み終えたところで、どうですかと感想を強請る。
「面白いですね!実は私は女性向けのスクラップブックも読ませていただいて好きだったので勿論読みたいです!でも、女性向けに比べてこちらはコーティネイト例が少ないなと感じました。騎士見習いとしては、私服警備の時にきる服装の参考にもなりますしね。後はデート特集もいいですね。急に結婚適齢期だからご令嬢とデートしてこいと言われても、訓練後に男達とはいれるような店しか知らないですから助かります。」
なんと既刊を読んでくれている騎士科の生徒がいたとは嬉しい。お礼を述べた後、どうして既刊を手に取ってくれたのか、コーディネイト例とデート特集だとどちらの方がより読みたいのかを尋ねる。
「4つ下の妹にせがまれて一緒に読んだんです。その時、デート特集に少しだけ載っていた男性のファッション例がいいなと思ったのをきっかけに結局全部読んでしまいました。服装には無頓着だったんですけど、こんな風に合わせれば良いというお手本を知ると、鏡の前で考える時間が減って効率的で助かりました。」
実用書のような感覚でコーディネイト例を読みたいという感想は驚きだった。流行を楽しみたい訳ではなく、教養として抑えておきたいといったところだろうか。自分にない発想なうえ、当たり前のように流行にのっているアルベルト様や我が道を行くレオ兄様からも出てこない意見だ。貴重なご意見をありがとうございますと、思わず弾んだ声で礼を述べる。それにマーク様は、お役に立てて何よりです、また何かお力になれれば、と照れくさそうに笑って返してくれた。
次の席は顔に大きな湿布を貼って髪もややボサボサな少年が座っていた。騎士科の生徒の割に線が細いのもあって、ボロボロな様子が痛々しい。しかも、先程のマーク様との和やかな雰囲気から一変し、憧れのレオ兄様と知らない伯爵令嬢の登場に落ちつかないようでキョロキョロと視線を彷徨わせる様子は悲壮感たっぷりだ。ここはレオ兄様よりは優しげなの出番だろう。
「はじめまして。騎士科の1年生の方ですよね?私は普通科の1年生のリリー・トラスと申します。大変な訓練の後なのに、わざわざ時間を作ってくださってありがとうございます。」
教師から直前に渡された参加者名簿から同い年だとわかっていたので、同級生だから緊張しないでとにっこり笑って伝える。その気持ちが伝わったのか、先程よりも少し肩の力を抜いた様子で挨拶を返してくれる。
「こちらこそお初にお目にかかります。騎士科1年のビリー・グレイと申します。本日はトラス様やペイル様と同じお席に着ける幸せに恐縮しております。」
真っ赤になりつつもしっかりとしあ挨拶を返してくれたビリーは平民出身のようだ。騎士科の門戸は広く平民にも開かれており、学院のなかでは同じ生徒として畏る必要はないというのが校則だ。とはいえ普通科に通っているのは殆どが貴族であるため、騎士科と普通科の生徒が交流を持つことはほぼ無い。もしも関わる時には貴族に対して礼儀を尽くすのが平民出身の生徒には求められていた。しかし、ここは学院内の敷地であり、今回話を聞かせてほしいとお願いしているのはこちらである。忌憚ない意見をもらうためにも畏まられる必要は全くないのだ。
「ビリー様と私は同級生なのだから、そんなに畏まらないで下さい。レオニダスは卒業した先輩だし、無愛想だから怖いと思うけれど、これで意外と優しい人なので緊張するのは損よ?ふふふ。」
「お、お気遣いありがとうございます!ペイル様は騎士道に恥じぬ立派な騎士だと勝手に尊敬させていただいております。……そのせいで自分が硬くなってしまうのはどうぞお許しください。」
どうやらこちらの意図を汲んでくれたらしいが、憧れのレオ兄様に緊張してしまっているなら仕方ない。レオ兄様もまっすぐな好意に照れてしまった様で、褒めすぎだぞとそっぽを向いてしまう。その様子は微笑ましいが、もう少し緊張をほぐしてもらわないと本題に入りにくい。どうしたものかと考えたが、無難にビリーの顔にでかでかと貼られた湿布に触れることにする。
「お顔の怪我は今日の午後の訓練のものですか?お出ししたメニューで沁みるものがないといいんですけれど……。」
「見た目ほど痛くないですから、どうぞ気にしないでください。今日は皆、この座談会参加チケットのためにいつになく本気だったから、怪我人続出だったんです。他の学年でもどうやら同じだったようですね。」
と同じくテーブルに着くボロボロの座談会参加者達を見て苦笑するビリーの言葉に私が驚く。座談会参加チケットのためって……?と恐る恐る聞き返すと
「今日の午後の訓練はどの学年もこの座談会参加チケットをかけた総当たり戦だったんですよ。憧れのペイル様とトラス伯爵令嬢とお話できる機会ですから皆燃えちゃって。ペイル様ともご挨拶できたし、トラス嬢は優しいし、頑張って勝ちとった甲斐があります。」
えへへと嬉しそうに笑って返してくれるが理解が追いつかない。どうやらこの線の細い無邪気な少年は同期の騎士科で一番強い生徒のようだ。そして、我が従兄弟様の騎士科での人気は私の想像よりも凄まじいものだということを理解したのだった。
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明日も更新予定ですので、是非また読みにいらしてください!次のお話でアルベルト君でます……!
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