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第30話 最後の帰省

ユウキの話を聞いているうちに乗り物が止まった。


「着いたよ」


そう言って、レイージョの手を取り、乗り物から出ると目を大きくした。


「え……? 私の村」

「そう」


目の前に広がるのは見知った光景であった。だが、村を取り囲むように護衛の人間が数え切らないほどおり、威圧感があった。

村に一歩入ればそれもなくなった。村人が道の左右に分かれ出迎えてくれた。

まるでパレードのようだ。皆知っている顔であったが、彼らは遠くで手を振るだけであり距離ができたことを強く感じた。


王族になるということはそういうこと事だ。


ちらほら見知らぬ顔もあった。人が減るばかりの村だったため嬉しくなった。


レイージョに手を引かれ更に先に進むと、村の中心にある広場が見えてきた。


そこにはテーブルがいくつかあり、ご馳走が並んでいた。どれも村で食べたことのある物ばかりであった。


その広場に懐かしい顔が見えた。


「お母さん、それにお父さんも」


今すぐに駆け寄りたかった。しかし、王太子妃である自分がそんなみっともない姿を見せるわけいかない。

レイージョにエスコートされて優雅に歩いたつもりであったが、彼女にクスリと笑われた。


変だったかと不安になった。

レイージョの婚約者となってからほとんど休みなく王妃教育を受けてきた。退学してからは更にそれは厳しいものとなった。


「大丈夫。ちゃんと出来ているよ」小声でレイージョに言われて安心した。彼女が笑った理由が気になったが、両親の目の前に来たため聞かなかった。


両親は膝をつき、頭を下げていた。それにミヅキは戸惑い言葉を失った。


「レイージョ様、ミヅキ様、おめでとうございます」

「ありがとうございます。表を上げて下さい」


凛とした声でレイージョが言うと、両親は顔を上げた。

彼らはとても嬉しそうな顔をしていたため、ざわついた気持ちが落ち着いた。


「ミヅキの育った家が見たいです。案内してくれますか」

「はい」


即答した両親に案内され自宅に向かった。


何も変わっていない家に嬉しくなって、母に抱き着きたかった。しかし、それは我慢しないといけないと手を握りしめた矢先レイージョに背中を押された。

その勢いで、母にぶつかった。


目に涙を浮かべた母に抱きしめられた。その瞬間、母はレイージョを見て、顔を青くした。父も同じような顔をしている。


「御二方、今は人目がありません。ミヅキと以前と同じように接してもらってかまいません」


その途端「ミヅキ」と言って、父が母ごと抱きしめてきた。村を出る前は父の事を鬱陶しく思っていたが今は微塵も感じなかった。


「ミヅキ、お前のことを思わない日はなかった。学園に行くことは名誉なことだがお前は気が乗らないようであったら心配していた」

父の涙につられて涙ぐんだ。「うん。連絡出来なくてごめん」


「連絡できないことは知っている。そして、今回完全にノーヒロから抜けることも聞いたよ」寂しそうにしながら、父は抱きしめている手を離した。


「ミヅキ」母が蚊の鳴くような小さな声で言った。「これはミヅキの選択? もし違うなら全力で助けるわ」


母の目が怖かった。

今まで見たことがないくらい殺気だっていた。

チラリとレイージョを見ると真剣な顔をして父と母を見ていた。


「ミヅキ」強い母の口調に、彼女の方に視線を移した。


「ミヅキのお父様」優しいレイージョの声がした。「ミヅキの幼少期使った部屋を見せてくれますか?」

「は、はい」


父の緊張した返事が聞こえた。レイージョは父の案内で部屋を出て行った。

気を遣ってくれた。


「ミヅキ」と更に強く名前を呼んだ母の目にはたくさんの涙があった。レイージョがいなくなったことでタガが外れたようだ。

何度も何度も名前を呼び、彼女は泣き崩れた。そんな母を支え、ミヅキは彼女の横に座った。


「お母さんがどこまで聞いているか分からないけど……」

「……うん」

「学園に入ってすぐに、レイージョ様が優しくしてくれて惹かれたの。大好きな人なの。だから、結婚できて嬉しかった。王妃教育は大変だけど幸せだよ」

「本当に……? 学園行くのをもっと強く反対すべきだった、でも、できなくて……。私は貴女の親なのに何もしてあげられない。こんな、娘を売るような真似をして……」


嗚咽しながら母は泣いた。手で顔を隠して下を向いている。


「学園行く朝、“一緒に逃げよう”って言ってくれたよね。嬉しかったよ」

「……うん。たくさんのお金が村と家に届いた。みんな、喜んでいるけど私は全部返してミヅキの戻ってきてほしい」

「……ごめん。親不孝で」

母はゆっくりと首を振った。「違う。私の我儘。ミヅキに傍にいてほしいと言うのは親のエゴだから」


「愛してくれて、育ててくれてありがとう」


母は顔をあげると、両手でミヅキの手を包み込んだ。その手には力が入っていた。


「もう、会えないけど。見ているから思っているから。幸せになってね」

「ありがとう」

「もし、嫌だったら、辛かったら言うだよ。何を犠牲にしても助けるから」


キラリと光る母の目が怖かった。「……うん」


しばらくして、レイージョと父が戻ってきた。

レイージョは穏やかに笑っていたが、父に目は真っ赤になっていた。


「ミヅキ……。レイージョ様は出来た御方だ。お前は絶対に幸せになる」


背中をバシバシと叩かれ大きな声で言われた。

ここまで父が感謝の言葉を述べることに驚いた。レイージョの顔を見たが、笑うだけで何かを言うつもりはなさそうであった。


家から出ると、膝をついた村長がいた。彼は、レイージョとミヅキに挨拶とお祝いの言葉を述べた。

それから、広場のパーティーに誘われたがレイージョは断った。


両親と村長、それから村の人に送られてユウキの乗り物に乗った。


「ミヅキは行きたかった?」

「いえ」

「個人的に対面できるのは最後なのに短時間ですまないと思っている」

「いえ、両親に会えるなって思っていませんでしたから嬉しかったです」


王族に迎えられるのはミヅキだけである。そのため平民である両親とは縁を切らされる。それが寂しくないわけではないがレイージョと共に生きると決めたため覚悟している。


「両親と村にはそれなりの物を差し出した」

「ありがとうございます」と礼を言いながら母が言った“娘を売るような真似”という言葉を思い出した。


なんとも言葉では表現できない気持ちになった。


「ユウキ、平民と話したんだよね?」何も言わずにじっと外を見ていたユウキにレイージョが声を掛けた。

「いいえ。村を散歩しました」

「どうだった?」

「不便そうですね。でも、人間との繋がりの強そうでした」

「そうか」


淡々とした会話であったが、ユウキが平民にたいして多少興味を持ったようであるので良かった。

彼も将来的に政治に関わっていくのであろうから、国民全員の幸せを願ってほしいと思った。


城に戻りと、レイージョはすぐに公務に向かった。それを見送って、城内にある部屋に向かった。


部屋の前にいた護衛に挨拶をしてから入った。退学してから、レイージョと共に城に住んでいる。

しかし、一緒にいる時間は学生時代の半分以下だ。


今日の結婚式も無理やり入れ込んだ。


「最初から王太子ではないから学ぶことが多いだよね」


彼女の忙しさが分かっていたが、寂しかった。


ゆっくりと、椅子に座ると赤い猫のような生き物が足に寄り添ってきた。


「ジョン」


名前を呼んで抱き上げた。ジョンは“きゅう”と可愛らしい鳴き声を上げた。抱きしめるとふわふわの毛皮が気持ちよかった。


「ジョン、もう少しね」


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