七、決意
新王は闇雲に叫んでいた。
「何をしておるか!矢を射て、射てぃ!」
弓兵に命じるが、彼等はひとめきあう橋の中、弓を番えることはかなわない。
王の目の前で起こっている信じがたいことは、わずかばかりの男達に、屈強な邪馬の兵が崩されているという現実だった。
(我は王ぞ!)
内なる叫びとは裏腹に、軍勢は橋の手前まで押し込まれた。
その時、神域の門が開いた。
彌眞を先頭にして数十人の巫女達が現れた。
巫女達に囲まれ壱与と十六夜もいる。
新王の唇が歪んだ。
(壱与!ふふふ、ここから逃げるというのか・・・こいつらの最後のあがきという訳か)
狗呼の大音声が響く。
「よいか、邪馬の凋落の根源、巫女が出てきた。今こそ邪馬の力を見せよ。悪しき過去の亡霊を振り払うのだ!」
新王の檄により、浮足立っていた兵達に、落ち着きと統率が戻り、難升米達を押し込みはじめた。
「さすがにクニを奪った男だけのことはある」
互いの背をつけて戦う夜邪狗は相棒に言った。
「邪馬の兵もさすがといったところか、もはやこれまでか・・・」
難升米は次々と襲いかかる兵士を、大鉾で次々と薙ぎ払いながら、彼等の瞳に力が宿っているのを感じ、自分達の命運が尽き欠けているのを悟った。
老兵達は次々と倒れていく。
(仲間と共に一緒に死ぬのも悪くない!)
一瞬、難升米は思った。
少し感傷的になった自分に苦笑いをする。
(が、しかし邪馬台国に希望の光を灯すまでは!)
難升米、夜邪狗は決死の覚悟で死地に挑む。