六、再会覚悟
夜邪狗はやって来た彌眞に、肩を貸すと門まで一緒に行った。
木柵の隙間から巫女達が、不安気な顔をしてこちらを見、集まっているのが分かる。
当然、環濠で囲まれた神域の出入りは橋しかない。
この橋を境に、巫女達の命脈を握る戦闘が行われているのだ。
戦いの最中で彌眞は十六夜を見た。
彼女は女の子をしっかり抱きしめていた。壱与である。
「十六夜!」
彌眞は叫んだ。
「兄様!」
彌眞の声に気づいた十六夜は、木柵を隔てて駆け寄った。
「よかった無事だったか」
「兄様・・・・・・」
十六夜は再会の喜びと、苦渋に満ちる相反する表情を浮かべた。
「・・・・・・」
続ける言葉が互いに見当たらなかった。
あるのは絶望とわずかばかりの奇跡を信じるかすかな望みだけだった。
彌眞の背後に立つ、夜邪狗は少女に静かに言った。
「よいか、壱与様、巫女達、邪馬台国を守るのだ」
「どうやって・・・」
四面楚歌に陥った状況で、どうやって活路を見出すというのだ。
彌眞は思わず呟いた。
夜邪狗は静かに頷いた。
「我等が必ず兵達を橋向こうまで追いやる。その間隙をつき、駆けて大川まで行くのだ。渡し舟がそこにある・・・伊都国へ壱与様をお連れするのだ」
「しかし・・・(そんなことは奇跡でも起きない限り)」
「信じるのだ。お前のボロボロの身体も心一つでどうとでもなる。心配はいらん。用はお前の思いひとつだ」
「・・・・・・」
「行け」
「分かりました」
「よし、頼むぞ」
夜邪狗はたて続けに、数本の矢を抜き放ち、腰の剣を抜くと高々と掲げ戦いの渦中へ駆けて行った。
彌眞は十六夜を見つめた。
彼の意を感じ、彼女は頷いた。