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四、舌戦


「神域を(けが)すとは何事だ!お前たちは賊国の兵士か!」

 年老いた兵士はその声に身震いし声を絞りだす。

「な、難升米様だ。それに隣のお方は、夜邪狗ではないか」

 老兵の言葉に、兵士達は血の気が引き青ざめる。

 

 難升米と夜邪狗・・・2人は数々の戦乱をくぐり抜け、かつては大国魏への使者として大海を渡ったこともある邪馬台国の重鎮だった。

 難升米は軍事を司る一大率、夜邪狗は政の長として邪馬台国を支え続けたのである。

 卑弥呼の死によって、亡き神託(狗呼の意向による独断)として、2人はその任を解かれたのだった。


「難升米に夜邪狗か・・・」

 新王は苦々しげに呟くと、ゆっくりと2人の前に足を進めた。

「これはどういうことですかな。弟王様」

 夜邪狗はつとめて落ち着いた口調で王に詰め寄った。

「どういうこととは・・・これいかに」

 空とぼける新王。

「見ての通りです」

 夜邪狗は瞳に宿す怒りの炎を隠そうともせず、今度は王を睨んだ。

 その態度は王に対する恐れも畏怖もない。

「わからんな」

 新王は王たる自分を恐れもしない、今も変わらぬ尊大な、邪馬の重鎮2人を忌々しげに

見つめ、唇をかみしめた。

「何人たりとて、神域は侵されるものではありません」

「新しき・・・世をつくるのだ」

「さらに、血を穢すというのか、弟王よ」

 夜邪狗は確信めいた思いを独白し、新王の核心に触れる。

「貴様!」

 瞬時にして、新王は羞恥で顔を真っ赤にし叫ぶと、軍勢の中へと消え戻った。


「逃げやがったな」

 腕組みをしながら、難升米は隣の朋友を少しやり過ぎとばかりと見つめた。

「ハナから説得には期待しておらん」

 夜邪狗は新王が消え残る軍勢を憤然たる表情で見つめていた。

 難升米は八方睨みをきかせ、兵士達をすくみあがらせる。

 そして朋友に言った。

「ここで死ぬか」

「おう」

 腹は決まった。


 新王は、自らの怒りを言の葉にして怒号を発した。

「その者たちは、古き亡霊だ。きゃつらの屍の上に真の世が作られると思え!ゆけ、我が邪馬台国の勇ましき兵よ」

「・・・亡霊とは言うねぇ」

 難升米は鉄製の大鉾を身構え、大喝した。

「我、未だ衰えてはおらぬぞ!難升米の大鉄鉾の恐ろしさを見せてやる。さぁ、今は亡き卑弥呼様に反逆する恐れ知らずは、かかってまいれ!」

 夜邪狗も後に続き叫んだ。

「よいか!お前たちのしていることは明らかな反逆行為だ!それでは卑弥呼様のつくりあげた邪馬台国を守ることはかなわぬ!新王狗呼よ!神域を侵すことは、自らクニを侵すこと相違なし!」

 彼は弓を持ち構え矢をつがえ引きしぼる。

「ふん、邪馬の兵を葬ることは本意ではない・・・が、自らの死と兵達の血の上に、このクニが目覚めることが出来るなら本望だ」

 と、呟き、神域の門に背を寄せた。

 軍と2人・・・一触即発の息遣いだけが聞える静かな沈黙が訪れた。

「世迷言はもうたくさんだ!行け!行けぃ!やつらを殺せ!」

 新王は突撃を命じた。

 難升米の大喝、夜邪狗の心の叫びにより、戸惑いと動揺走る邪馬台国の兵士達だったが、倭のクニ一の最強を誇る兵の意志と誇りが、王の命により兵士を動かせ駆り立てた。


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