三、明日を担う戦い・・・葛藤
神域を囲む環濠と木柵の周りには、無数の兵士が取り囲んでいた。
クニと神域とを結ぶ一本の大木の橋を隔てて兵士が大挙している。
兵士達の持つ松明の灯りが、高い木柵の上から煌々と闇を照らし浮かびあがる。
新王狗呼は唇を歪め声も高々に叫んだ。
「女王卑弥呼の亡き今、この神域はすでに死んだ!新しき王に神がかりはいらぬ。自らの力をもってして民と共に、このクニを最上のものとする!」
兵士達から熱狂的な歓喜の声があがった。
狗呼はそれを見て満足気に頷き、自己陶酔する。
「よいか、新しき世を作るが為、古き力を滅する。このクニの新しき道をしるすが唯一の道・・・」
(これにより、俺は姉の呪縛から解かれ、真の王となるのだ!)
「この神域を討つ!新しい世をつくるのだ」
兵士達はさきほどの熱狂から一転、どよめきと動揺が駆け巡った。
(馬鹿な・・・都合のいい・・・)
兵士団の長、彌眞は思った。
彼は十六夜の兄で、彼女が5歳のとき巫女となり神域に赴くまで、共に暮らした兄妹だった。
(十六夜を希望の光である若巫女様を救わなければ)
彌眞もまた確信している。卑弥呼の世継ぎとなる存在、それを是としない新王の野心を。
しかし、新王狗呼はすぐにでも下知し、兵士達は今にも神域へと雪崩込みそうな気配だ。
(どうやって・・・どうすれば)
彌眞は眉間に無数の皴を寄せて目を閉じた。
しかし彼には妙案が思い浮かばない。
ついに、新王は命じた。
「恐れるな!もし起こる災罪あれば、すべて我が身に受けよう。お前たちは新しき王を信じ、新しき道を作るのだ。行け!亡霊に囚われた忌むべき巫女どもをすべて抹殺し、さらなる先王の供物にしようぞ!」
しかし、兵達は一歩を踏みだすのに躊躇した。
が、互いの顔を見合わせ頷き合うと、意を決し一人ずつ橋を渡り神域へと迫った。
こうなると、邪馬台国の兵は凄まじい、かつて拮抗しあうクニグニを悉く打ち負かし傘下に治めてきた倭国最強の軍隊である。
壱与、そして巫女達の命脈はすでに潰えた。
彌眞にはどうすることも出来ず、雪崩うつ兵士の波に飲まれた。
(嫌だ!)
彌眞が心の中で叫び、環濠に架けられた橋を渡りはじめる。
彼は雑踏の中、希望を見た。
神殿の前で仁王立ちする2人の男の姿があった。
ひとりの大男がすうーっと息を吸い込むと大喝する。
男の大音声により、兵士達の動きが固まった。