16.ゴールドバード
光の守護者ライトに案内されて山を登る。
周りはいつの間にか岩山となり道も険しくなる。どれだけ登って来たのか分からないが、空気は乾燥しそして幾分薄い。
はあ、はあと聞こえてくる皆の呼吸が速くなる。標高もそれなりにあるのだろう。対照的に浮かびながら進むライトだけは平然な顔をしている。
「ね、ねえ。まだ着かないの……」
人一倍苦しそうな顔をするクレアがライトに尋ねる。
「間もなくですよ」
ライトはクレアの方を見て笑みを浮かべて答えた。そしてもうしばらく歩いてからライトが言う。
「到着です。ご苦労様でした」
そこは岩山の山頂。それほど広くはないがそこからの眺めは格別なものであった。地平線まで広がる平原。反対側の平原の先には、これまた永遠と続く巨大なヘブンズウォールが横たわるのが見える。
山頂の中央には木の柱に藁の屋根がついた簡易的な雨除けがある。その下にはふかふかの藁が分厚く敷かれており、そこにその名の通り金色に輝く羽毛、ぷっくりとした体の丸い鳥がいる。
「ん? ライトかい?」
その鳥はハルト達に気付くと声を掛けた。鳥の頭の上にある、大きくそして赤い装飾のようなトサカがとても見事だ。
「はい、ただいま戻りました」
ゴールドバードはライトの後ろにいるハルト達に気付いて言う。
「それは今日の食事かい、ライト?」
「いえ、食事ではございません。ゴールドバード様に御用があって連れて参りました」
そのやり取りに苦笑いするハルト。ゴールドバードは首を少し上げてハルトを見て言う。
「おやおや、これは可愛らしい男の子じゃ。食べちゃいたいのお」
食べる、と言う言葉に反応するクレア。小声でつぶやく。
「な、なんて卑猥な。た、食べるだなんて……」
ひとり顔を赤くするクレア。しかしハルト以下誰も気付かない。
ゴールドバードは藁のベッドから降りて来てハルト達を見る。ヒトの三倍はあるような巨大鳥。黄金色の羽毛が太陽の光を受けて美しく、そして眩しく輝く。
「わらわに何の用じゃ? ライトが連れてくるとなると、それなりの用なんじゃろ?」
ハルトはこれまでの経緯を丁寧に説明した。
ライト以下、クレアやルルもじっと黙って聞く。同様に目を閉じてハルトの話を聞くゴールドバード。そして話が終わるとハルトに対して言った。
「よく分かった。そなた達が頑張っておるのならわらわも協力しよう」
ハルトが嬉しそうな顔をして言う。
「おお、ありがとう! 手伝ってくれると思わなかったぞ!!」
「まあ、わわらも暇じゃからのお」
苦笑するハルト達。驚くライトを横目にゴールドバードが続ける。
「ただあの壁をお前達三人乗せて飛ぶのはちと難儀じゃな……」
ハルトが言う。
「じゃあ俺と召喚契約結ぼうぜ。【ヒトナキモノ】になれば少し力が増す」
それを聞いたライトが吃驚した顔をして言う。
「な、何を言いますか。ハルト! そのようなことは決して……」
それを聞いたゴールドバードが言う。
「召喚? ヒトナキモノ? ああ、そなたは召喚士か」
「そうだ。壁を越える間だけの契約でいい。頼む!!」
ハルトが手を合わせて頭を下げる。
「よかろう。ただしわらわと戦って降参させる事ができたらじゃがな」
ゴールドバードはそう言うと、その大きな羽を広げて数回羽ばたく。
「分かった、望むところだ!! みんな下がって!」
ハルトはそう言ってみんなを下げると、召喚域の詠唱を始める。
「召喚域、展開!!」
ゴールドバードを中心にして球状で薄紫色をした召喚域が広がる。「ほう」と上を見ながら呟くゴールドバード。ハルトが続けて詠唱を行う。
「我が名はハルト。その名に契りし盟約により汝を呼ばん!! 召喚【ウェルス】!!」
ハルトの横に魔法陣が現れるとその中からウェルスが出現。ハルトが言う。
「ウェルス、これがゴールドバードだ! これから全力で叩きのめして契約する。手伝ってくれ!!」
ウェルスは召喚され目の前にいる巨大な黄金鳥、そして周囲に張られた結界域を見て直ぐ状況を理解した。
「おう、了解だぜ。ハルト!! トリ狩りだな!! 今日はドンと焼き鳥だぜ!!」
ハルトは苦笑いをして答える。
「食べちゃダメだよ。向こうもさっきそんなこと言ってたし……」
外にいるライトがゴールドバードに大声で尋ねる。
「ゴールドバード様!! 戦闘は大丈夫ですか!? くれぐれもお怪我なさいませぬように」
そうは言っているものの、ライトの顔は真っ白な顔が更に白くなっている。天界の神鳥を守るのが役目だからそれも致し方がない。
「大丈夫じゃ。確かにわれらは攻撃用の鳥ではないが、駆け出しの召喚士とワンちゃんごときに易々と負けることはなかろうぞ」
それを聞いたウェルスが目つきを変えて言う。
「ほう、神鳥だか何だか知らねえが、焼き鳥じゃなくて鳥ミンチにしてやろうか!!」
そう言いながら自慢の鋭い爪を伸ばす。
「おいおい、ウェルス。冷静に……」
ハルトが言いかけると、すぐにゴールドバードが言い返す。
「じゃあ始めようぞ」
ゴールドバードは大きな羽を素早く羽ばたかせると、空中へ舞い上がった。そしてホバリングのように空中で少しだけ停止した後、さらに強く羽ばたき一気にハルト達に向かって飛んできた。
シュン!!
ハルトとウェルスの間に一瞬強烈な風が吹く。
「えっ!?」
気が付くとゴールドバードはふたりの少し後ろで羽ばたいている。
「お、おい。ハルト今の……」
ウェルスが目を丸くしてハルトに言う。
「ああ、俺達が思っていたよりもずっとてこずるかもしれん……」
「だから言ったでしょ。簡単にはやられないわよ、って」
ゴールドバードは余裕の表情で言った。
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