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九十四話 「私で残念だったわね」


 今季のクラス対抗戦のフィールドは森林ステージ。

 鬱蒼と茂る木々によって視界が遮られ身動きが思うように取れない反面、遮蔽物が多く隠密行動のしやすいステージとなっている。


「さて、じゃあ場所を探るよ」


 ブラリが魔物化を行い、五感を強化する。

 ブラリの索敵は聴力を利用した物だ。


 どこまで聞こえているのかは分からないが、ここまでのクラス対抗戦で敵の位置を探ってきた実績から相当な範囲が網羅出来ているのだろう。


「……見つけたよ」


 話声なのか、草を掻き分ける音なのか、木々を折った音なのかは定かでは無いが、敵の位置が把握出来たらしい。


「うん、予想通り四人固まっているよ」

「やっぱりか……」


 今回の課題はどうやって敵を分散させるかだ。

 俺がダフティ、スフィラがポディカスロ、ブラリとラフティリがルクダとスフロアといった具合に担当する相手が決まっている。


 想定した相手とどう戦うかをこの数日間みっちり訓練してきた。

 なので、敵が一カ所に固まっていた場合を考え分散させる方法を事前に決めておいた。


「ダフティ達がここから別々に動くような気配は無いの?」

「うーん、たぶん向こうも僕達が動くのを待っているだろうね」


 ラフティリの質問にブラリがそう返した。


 ダフティはブラリの双子の妹。

 同じ魔物として生を受けたダフティは当然、ブラリと同じようにこちらの気配を察知してくる。


 もしかしたら向こうも戦う相手を決めているのかもしれない。

 俺達と同じように別々に動くのを待っているのか、それともこちらと同じように強引に分散させる方法を考えて来たのか、もしも後者なら先に動かなければならない。


 戦いはもう始まっている。


「なら、作戦通りに行こうぜ……魔物化」


 翼を生やし、身体を魔物の物に変えていく。

 森林フィールドは完全な竜の形態となると動きづらいため人型を保ったままだ。


「私も向かう準備は出来ています」


 スフィラも俺と同じように魔物化を完了させた。

 長くしなやかな尻尾を生やし、身体を短く頑丈な毛で覆い、手足を伸ばして四足歩行の獰猛な肉食獣へと変わる。


 いつものおかっぱボブ娘でブラリの後ろをぴったり付いて行く子のイメージは完全に消え失せ、薄い綺麗な紫と黒が混じった豹の姿へと変貌を遂げた。


 俺とは違い、完全な魔物化だ。


 魔物化を終えたスフィラは銀の短剣を口に咥えていた。


「じゃあ僕に付いて来て。向かうよ」


 ブラリは俺達が魔物化したのを確認すると、西の方角へ走って行く。

 俺達は走って行ったブラリに同じく飛んだり、駆けたりして付いて行った。


 敵を分散させる為の作戦はこうだ。


 まず前提条件としこちらも四人固まったまま向かう。

 ここでばらけると、敵に突かれた場合元も子も無くなってしまうからだ。


 目的地に着いたら、俺とラフティリで淡い水蒸気のブレスを吐き、周囲を霧で包む。


 そしてそこからは賭けだ。


 ダフティはブラリと同じように感知する事が出来る為、霧で周囲が見えなくなっても俺達の位置を把握してくる。


 つまり、ダフティは俺達の位置を伝える為に喋る必要がある。

 それが無くとも、四人の中で一人だけこちらの状況を把握出来るダフティは霧に包まれた空間で一組の中で誰よりも動ける。


 俺はその喋るもしくは動く奴を掴んで飛び上がり、別の場所へと放り投げればいい。


 ……マニタリとムニミーがいればもう少し現実的な分散させる為の方法があったが、俺達にはマニタリやムニミーのような便利な能力は無かった。


 スフィラの方は完全に魔物化した影響で嗅覚が人型の時の何倍も鋭くなっている。

 そして、対抗戦が始まる前にブラリがポディカスロに触れた。


 正直これは聞いた時、俺でも引いた事だがスフィラはブラリの匂いに誰よりも詳しい。

 その為こんな作戦が組まれた。


 初めは何か特徴的な匂いの物を衣服に馴染ませておこうとしたが気付かれて洗われでもしたら台無しになってしまう。

 俺達がどうしようかと悩んでいたらスフィラが「当日、ブラリ様にポディカスロの服にでも触れておいて頂ければ問題無いです」と言ったのだ。


 今朝、ブラリがポディカスロに話す為を装い背中に触れた。

 その為既に、スフィラの方の懸念は解消されている。


 霧で包まれたら俺が飛び立った後に、スフィラがポディカスロに体当たりをして別の場所へ弾き飛ばす。

 それで各々の想定した敵と戦う準備が完了する。


「もうすぐだよ。心の準備をしておいてね」

「もう出来ているわ!」

「私も出来ています」


 もうすぐ始まる。


 このクラス対抗戦には、俺達には一組に勝つ以上の目的がある。


 ダフティの異形化を終わらせる。

 内通者騒動を終わらせ今後の学園生活を平穏に送る。

 その二つだ。


 俺はダフティと戦う。

 その時に腹を割って話そうと思う。


 それで良いんだよな、アズモ。


『ああ。ブラリの話には乗ったがそのくらいさせてもらわないと割に合わない。ほぼ確信に近いが、ダフティの口から聞きたい』


 ああ、俺も同意見だ。

 ダフティには俺と同じ部屋で何を考えて過ごしていたのか聞きたい。


「アズモちゃんも大丈夫かい?」


 ブラリがアズモと脳内で会話していた俺達にも聞いて来る。


「「勿論だ」」


 俺とアズモは一緒にそう返した。

 俺が一人で喋る時やアズモが一人で喋る時は出ない特別な声だ。


「心強いね。じゃあ行こうか」


 そう言い、ブラリは走るのを止め先の位置を指差す。


 俺は頷き、既に口に魔力を溜め始めていたラフティリの隣に立つ。

 このブレスの練習にはラフティリに付き合ってもらった。


 元々目眩まし用のブレスは習得済みだったが、俺達のブレスは火に触れると爆ぜる危険なブレスな為今回の作戦では使う事が出来なかった。

 その為、水ブレスなら自由自在に扱えるラフティリに教えてもらった。


 ラフティリは直感派だった為、理解するのに苦労はしたがなんとか意地で習得した。

 アズモがラフティリに物を教えられるという状況に思う所があったのか頑張ってくれた。


 俺では無く、アズモの意地で習得する事が出来たのだ。


 口で魔力を込めて操り水を生成する。

 出来た水を細かく分解し気体へと変える。


 それを口から吐く。


 俺とアズモ、ラフティリの協力により瞬く間に周囲一帯が霧に包まれる。


 耳を澄ましてダフティが喋るのを待つが聞こえない。

 ダフティどころか、ルクダやスフロア一組は誰も声を上げない。


 こちらの目論見がバレてしまっているのか完全に待ちの態勢だ。


 だが、ここから俺が突撃していったら流石に動かざるを得ないだろう。


 俺は十五組の皆の方を向き、頷く。

 こちらも喋ったら位置が知られてしまうので言葉を発さずに「言って来る」と伝えた。


 ——よし、行くぞアズモ。

『ああ、決めてやろう』


 歩いて霧の中へ突っ込む。

 一歩一歩ゆっくり中へと入って行く。


 この霧の中で最初に俺に気付いた奴が恐らくダフティとなる。

 だから、音を立てないように近づく。


『……一人、確実に私達に気付いている奴がいる』


 ああ。前に出た奴がいるな。

 仕掛けるぞ。


 俺が掴むから、アズモは翼に集中してなるべく早く飛び上がってくれ。

 確実に掴んだ後は俺も翼を動かす。


『分かった』


 アズモの了承を合図に俺達は駆ける。

 流石に駆けると、四人共俺が居た事に気付いたようだ。


 慌てて身構える気配を感じが、既にターゲットは絞っている。

 先程、集団から一歩足を進め俺達の方へ身体を近づけた者に近づき、捕まえる。


 腕から振り解こうとする力を感じる頃には、足が地面から離れていた。

 俺も翼に意識を向け協力して動かす。


 木の枝や葉に当たり、切り傷を少し負うがこのくらいは構わずに飛び続ける。

 直ぐに高い木を超え、空中に舞い上がる。


 そのまま少しだけ飛び霧のエリアから離れ、少し開けた場所に連れて来た奴を放り投げる。

 逃げられないように、俺達もすぐその場に着地し翼を畳む。


 木は周りに生えていないが、草の茂る大地に降り立ち構える。


 ここからダフティとの戦闘が始まる。

 ここで聞きたかったが聞けなかった事を戦いながら聞く。

 俺達は本当にダフティがエクセレをけしかけたのかが知りたい。


 俺達が飛び立った後、真下に広がっていた霧の中から何かがぶつかる音が聞こえた。

 きっとあの音はスフィラがポディカスロに体当たりをした音だろう。


 スフィラは「ついでに短剣を突き刺してそのまま脱落させます」等と威勢のいい事を言っていたが、上手くいったのだろうか。

 スフィラの方も、残ったブラリとラフティリの方もどうなっているかが分からない。


 ただ、ここで俺が負けたら作戦が崩れ大変な事になる。

 目の前の戦いに集中しなくては。


 息を吐いて、相手を見据える。

 ここからが本番だ。


「……まさかダフティが言っていたように本当にこんな無茶な作戦を取って来るなんてね。それを考える十五組も、実行出来ちゃうあんた達もおかしいわ」


 ……作戦は最初から失敗していたようだ。


 ダフティの声では無かった。

 連れて来る相手を間違えてしまったようだ。


「……スフロア」


 俺達の目の前に立っていたのは、ダフティでは無く保育園からの友達のスフロアだった。


「私で残念だったわね。まあ、私はコウジに抱きしめられて嬉しかったけどね」


 途端、アズモが苛立つのが分かった。

 作戦が失敗したからか、スフロアに揶揄われるのが嫌だったのかアズモは口を動かして自己主張をする。


「抱きしめたのは私だが? 図に乗るなよ?」


 見当違いのキレ方だった。



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