九十一話 「今日は雨が降りそうだわ!」
「いよいよ今日か」
窓から零れる陽光で目を覚ました。
今日は一組とのクラス対抗戦の日だ。
ここに来るまでに様々な事があった。
初戦は一つ位が上のクラス、十四組が相手だった。
対十四組戦では、ブラリの戦略が上手く決まり速攻で勝利を収めた。
スイザウロ学園におけるクラス対抗戦で試合決着時間歴代一位のレコードを大幅に塗り替えた。
十四組の次は八組。
普通は順位が近いクラス同士で対抗戦が行われる為、十四組を倒した事で十四位に上がった俺達と五組を倒し五位に上がった八組と戦うなんて有り得ない事だった。
八組には、ブラリに憧れ十五組に似たような戦略を組んで挑んで来たテウや、保育園時代によく絡んで来たフールが居た。
こちらのやり方をよく知っているクラスが相手となったが、敢えて相手の作戦に乗り、相手の策略を上回り勝利。
八組を倒した事で俺達の順位は五位に上がった。
その次の相手は三組だった。
ブラリの戦略に感銘を受けオマージュをしてきた八組とは違い、正面からの真っ向勝負が好きなクラスだった。
ブラリ的には戦略の練りようが無くてつまらない戦いらしかったが、俺的には難しい策を練らずにその場その場で各々考えて動く乱戦も悪くは無かった。
狭い範囲で戦っていたが、なるべく一対一になるような状況を作り各個撃破。
三組には刃物使いが二人も居たが、十五組唯一の剣使いであるスフィラが短剣で二人を相手に剣戟を繰り広げ武器を破壊。それが決め手となり勝利した。
三位の三組を倒した事で俺達は三位になった。
そして今日は、スイザウロ学園初等部一年クラス対抗戦の部で一位に君臨しているエリート集団一組が相手。
一組には保育園からの友達、スフロアとルクダ。
それに俺の同室でブラリの妹のダフティが居る。
そして、俺はブラリからダフティと戦って勝つ事をブラリから頼まれている。
五歳の頃に起きた事件をきっかけに異形化し、今でも異形化の片鱗を残すダフティに人間として勝って欲しい。それがブラリの頼みだった。
恐らくブラリの頼みを果たせるのは今日だけだ。
クラス対抗戦自体はまだまだ続くが、俺達が誰にも相談せずにブラリの悲願を果たせるのは今日で最後となるだろう。
ブラリにアギオ兄さんと接触出来るようにお願いされた。
俺はそれを叶える為にテリオに「アギオ兄さんに会いたい」と言った。
だが、アギオは俺がそう言う前から学園に来ていた。
この学園には、竜王ネスティマス家の長男、次男、四女が居る。
この三人は元々学園には居なかった人材だ。
ネスティマス家長女エクセレの襲撃を機にネスティマス家から遣わされた。
そして昨日、更に増員された。
この前アギオとご飯に行った時に来た面子がそのまま学園にやって来た。
臨時教師の他に、各部活のOBやOG、清掃のボランティア、購買の手伝い等様々な理由で学園に入って来た。
ネスティマス家は本気でエクセレを捉えようとしている。
この学園には、エクセレと繋がっている生徒が確実に居る。
その生徒が居るから何か起こる事に賭け、人員を補強。
……そして恐らく、その生徒はダフティ。
手を組み、上に伸ばす。
伸びをして身体を目覚めさせる。
今日は気合を入れなければならない。
ネスティマス家が解決する前に、俺達で決着をつける。
本来ならダフティは同室の為、隣のベッドに居るはずだが、スフロアとルクダの部屋にお泊まりしに行ってしまったので居ない。
「くぅー……。くかぁー」
その代わり何故かラフティリが部屋にやって来た。
この部屋に居れば俺とアズモという喋り相手が居るから来たのかもしれないが、件のダフティのベッドでお腹を出しながら見事な寝相を披露しているのは少し複雑な気持ちになる。
「今日も凄いねえ、ラフティーちゃん」
同室の六年生、イエラがカメラでラフティリをパシャパシャ撮りながらそう言った。
俺は少し固まって、脳内会議を始める。
なぁ、アズモ。
今日はもうイエラに挨拶とかしたのか?
俺は先程起きたばかりだが、アズモがどうかは知らない。
同じ身体を共有しているとは言え、気付く時間は違うのだ。
『今日は挨拶をした。頑張った』
偉いぞアズモ!
俺反射で挨拶する所だったわ。
二回挨拶するのはおかしいし、教えてくれて助かったぞ。
『よせ、私だって挨拶をしようと思えば出来る』
じゃあこれから毎日挨拶はよろしくな!
『……挨拶以外は明日からもコウジに任せるからな』
アズモの踏み出した一歩に比べれば、そのくらいお安い御用だ。
少しずつ慣らしていくか。
『ああ、分かった』
ずっと脳内会議をしているとイエラに不審に思われるので、ここで終わりにする。
アズモが挨拶をしていた事は本当に大きな一歩だ。
今日のクラス対抗戦で何かがあって俺が暫く喋れなくなったとしても、挨拶が出来ればその暫くは大丈夫だろう。
「そんなに撮っているとまた起きた時に噛みつかれますよ」
「いいよお、別に痛く無いし。水系の頂点に立つ水龍の娘に噛まれるなんて私にとってちょっとしたご褒美だよ」
「ええー……?」
イエラはラフティリが部屋に来た事をかなり喜んでいた。
フィドロクアのファンと言っていたが、本当なんだろうか。
「む、むえー……」
「あ、起きた」
ラフティリが身体を横にして尻尾をグルグル回す。
毎朝やっているが、あのグルグルには一体どんな意味があるのだろうか。
「んー……?」
「なんか唸っていますね」
「きっと尻尾レーダーでなんか変なのを掴んだんだよ」
「そんな馬鹿な……」
フィドロクア崇拝者のイエラがトンチキな発言をする。
アズモも竜の為、俺にも尻尾をグルグルする事は出来るが、そんな機能は無い。
「今日は雨が降りそうだわ!」
「ほらあ、やっぱり」
「そんな馬鹿な……!」
空を見ても、雲一つない快晴だ。
ここから本当に雨なんて降るだろうか。
「起きたわ!」
ラフティリがベッドに座り俺達の事を見て来る。
おはよう待ちの顔だ。
「ラフティーちゃん、おはよーだね」
「……」
ほら、アズモも。
ラフティリがこっちを見ているぞ。
「……ああ、おはよう」
ラフティリは俺じゃ無く、アズモが挨拶した事に気付いたようだ。
朝から熱烈なタックルをされた。
言えたじゃねえか……。




