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背反の魔物~異世界に転生したと思ったら竜王の娘に憑依していた~  作者: おでん食いたい
 学園生活と正反対の双子—動き始めた思惑—
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九十話 二度とラフティリにメニュー持たせないと誓った


「という感じだ。分かったか?」

「これっぽっちも?」


 解放を教えるという事でドキドキしながらアギオの一挙手一投足を見ていたが、全然分からなかった。


「もう一度見せる」


 アギオが例のトリガーとなる言葉を唱える。

 それだけすると、俺を見て来た。


「分かったか?」

「それで、分かると思っているんですか?」


 語気が荒くなってきてしまう。

 教えると言うから「新しい戦い方を覚えられる」「強くなれる」と思っていたのに、ずっとこうだった。


 言葉で教えるのが苦手だから見て覚えろ、というから見てはいるが何も覚えられる気がしなかった。


 ただ言葉を唱えて終わり。

 本当にそれだけだった。


 それ以上の事は何もしない。

 何か言葉に込めていたりとか、発声の仕方に意味があったりするのか、言葉以外に何か特別な操作をしたりしているのか。

 色んな可能性を考えて見ていたが、何も分からなかった。


「もう一度見せる」

「いや、もういいですよ……。たぶん俺は見ているだけじゃ何も掴めません。何かやって見せる事以外でありませんか?」

「……こうなるだろうと思い応援を呼んでおいた。そろそろ来る」


 アギオは解放を教えるために別の人を呼んでいたようだ。


 俺が言った「解放を教えて」という言葉をちゃんと考えていた。

 自分が言葉で教えられない事も、俺がそれを見て覚えられない事も見越していたのは少しなんとも言えない気持ちになるが助かる。


「この量を三人で食べ切るのは無理だろうと考え、三人呼んだ」

「ああ……」

「もう食べられないわ……!」


 ラフティリが追加メニューの為にタッチパネルを長時間弄っていたのは知っていた。

 だけど、流石にこの量は予想出来ていなかった。


 机の上は料理の皿で全て埋まった。

 それでもう終わりかと思っていたが、更にまだ頼んでいたらしく店員さんが「追加のメニューは机の上に乗せられるようになったら持ってきますので、お呼びください」と美味しそうにケーキを食べるラフティリを見てニコニコしながら言っていた。


 こんなに沢山の美味しそうな料理が並んでいるが、肝心のラフティリはお腹を膨らませて横になっていた。

 もっと早く、ラフティリが頼み過ぎている事に気付けていればどうにかなったものの。


『ちなみに私ももう食えんからな。コウジもそれ以上食べるなよ』


 アズモも白旗を上げた。

 俺としてはもう少し食べられそうな気がしていたが、宿主であるアズモの方がそういう感覚は確かなので従う。


「すみませんが、俺ももうギブアップします」



 俺も食べるのを止めて横になった。

 横になって分かったが、腹が若干膨らんでいるような気がする。

 足元が見にくくなっていた。


 身体の構造上、火でも吐いてきたら楽にはなるが、今は動きたくない気分だった。


 俺が寝転がると、ラフティリが俺のお腹を枕にしてこようとしたが、そこはアズモと一緒に阻止し、逆にラフティリのふくらはぎを枕にしてやった。


「構わない。健啖な者を呼んだ。……噂をすればだ」


 アギオが扉に目を向けるのと、扉が開くのは同時だった。


 扉が凄い勢いで開き、誰かが入ってくる。


「来てやったぜ、兄さん! 助けろって事だが、敵はどこに!」

「まァ! 可愛い子竜ちゃんが二人も転がっていますわ!」

「いや、なんかご飯多過ぎない……?」


 喋った順に、赤髪ショートの活発そうな女性と、金髪でクロワッサンみたいに髪をクルクルさせた女性、そしてガタイが良い緑髪の男性の三人だ。


 見た目は全然違う三人だが、三人には俺達と同じような尻尾が生えていた。

 きっと、アズモの親族なんだろう。


「この人達が助っ人なんですね」

「そうだ。赤いのがアミフィリア、金色なのがエニスコス、緑がメトレイだ」

「いや、僕らの事を色で覚えているのかな、アギオ兄さんは。でも、兄さんに比べたら僕らなんてそんなもんだよね、そうだよね……」


 アギオに紹介されたメトレイと言う身体の大きな男が、壁の隅で縮こまる。

 ナイーブな人らしい。


 エニスコスという女の人は俺とラフティリの元に近づいて来たかと思ったら、膝に俺達の頭を慈しむようにそっと乗せて来た。

 しかし、ラフティリには「鬱陶しいわ!」と言われ拒否をされ、アズモは無言でコロコロ転がり逃げて行った。


「あらあら、恥ずかしがり屋さんですね二人共」

「やっぱりアズモの方が柔らかいわ」

「私をクッションにしても良いから絶対あの女を近づかせるな」

「分かったわ!」


 部屋の一面では、ジリジリと近づいて来るエニスコスと近づかせたくないアズモ、それとよく分かっていないラフティリの戦いが始まった。


「敵は!? 敵はどこ!」


 アミフィリアはアギオのヨレヨレのスーツを乱雑に掴み、破る勢いで揺すっていた。

 アギオはアミフィリアに答えようとしているが、揺れ過ぎて言葉になっていなかった。


「舵取り出来る人がいなくないか?」


 三人共、自由な人達だった。

 状況がひたすらと混沌していく。


 このまま迷走していくかのように思われたが、再び扉が開き誰かが入って来る。


「呼ぶなら私でしょアギオ君!」


 今度入って来たのは白髪の女の人だった。

 髪を背中まで下ろし、ツカツカとアギオの元まで歩いて行く。


「こいつが敵か!」

「貴方が私に敵う訳無いでしょ!」


 白髪の女の人は、アギオを揺らしていたアミフィリアの頭にチョップを落とし沈めた。

 見事な一撃だった。


「エニスコスちゃんはいい加減止めてあげなさい。そこの二人が嫌がっているでしょう」

「恥ずかしがっているだけですよぉ~」

「ラフティリ、私が嫌がっていると伝えてくれ」

「分かったわ! アズモは嫌だって言っているわ!」

「そんなぁ……」


 俺達の事を隅まで追い込んでいたエニスコスは意気消沈して座り込んでだ。

 やっと俺達の事を諦めてくれたらしい。


「メトレイ君は落ち込むのを止めなさい。貴方はアギオ君に必要とされているから私と違ってここに呼ばれたのよ」

「いや、そんなはずが無いよ。何でも出来るアギオ兄さんが僕の事を必要なんて」

「俺はメトレイがこの状況に必要だから呼んだ。そこで座り込まずにこちらに来い」

「兄さん……!」


 部屋の隅で座り込んでブツブツ言っていたメトレイが立ち上がり、テーブルの元にやってくる。

 さっきまでの陰気なオーラは嘘みたいに消えていた。


「それでそこの小さい子達はアギオ君に何を求めていたの」


 アギオに助っ人として呼ばれた三人の暴走を鎮静化させた白髪の人は、俺達の方を見て言って来た。


「あ、それは俺が解放の事を知りたくて、アギオ兄さんに聞いていました」

「なるほどね……。って、兄さんって言った!? 貴方達は何者なの!?」

「俺はネスティマス家末娘のアズモ・ネスティマスで、こっちはフィドロクア兄さんの娘」

「ラフティリよ!」

「貴方達が例の……是非、私の事はお義姉さんって呼んでね」

「はあ、お姉さん?」


 俺達の正体を聞くと、白髪の女の人は何やら鼻息が荒くした。

 よく分からないが、いきなり現れたこの人は何者なのだろうか。


 様子を見ている限り、知り合いではありそうだが。


「それでアギオ君はどうして私を呼んでくれなかったのかな? アギオ君は教えるのが苦手だし、なんか困ったら私を絶対呼んでねって言ったよね?」

「お前は呼ばなくても来そうだったから端折った」

「おい、端折るなよ。確かに来たけどさぁ……」

「あの、この人は?」


 アギオと喋り始めた女の人の事を問うた。

 この場の雰囲気を良くしてくれたのは感謝しているが、このまま喋り続けられたら解放の事を聞けなくなってしまう。


「こいつはククリだ」

「おー、あー…………お義姉さん」

「……っ!?」


 全てを察して、ククリの事をそう呼んだ。

 この言葉はククリにとってクリティカルな発言だったらしく、フラフラと数歩程下がった。


「ありがとう、アズモちゃん。お義姉さんが解放の事でも何でも教えてあげるよ!」


 やって来たと思ったら直ぐに場を解決してくれた人はククリだった。

 助っ人の三人が現れる前にチラっとアギオの口から出た名前だ。


 その時に苦労していそうなイメージを少し抱いたが、間違っていなかったらしい。

 俺はなるべくこの人に優しくしてあげようと思う。


 その後、ククリの分かりやすい説明のおかげで解放を使う為の手立てと練習法を見つける事が出来た。

 二日後まで迫ったクラス対抗戦に間に合う気はしないが、練習は続けようと思う。


 だが、食事の方はアミフィリア、エニスコス、メトレイ、ククリの四人が増えても片付く事は無かった。

 テーブルの上が綺麗になったと思ったら、料理が運ばれまた机の上がまたお皿で埋まったのだ。


 その時の絶望感は凄まじかった。

 ククリが顔をピクピクさせながらも笑顔で「これを頼んだのは誰なのかな?」と言ったので、俺とアギオでその時にはお腹を出して寝ていたラフティリを指差したら赤いオーラが立ち上るのが見えた。


 だが、作ってもらった料理を残すのも申し訳ないとの事で、そこから更に応援を多めに五人呼ぶと、どうにか完食する事が出来た。

 店を出ようと思ったら、アギオもククリも助っ人で呼ばれた八人も有名人だったらしく皆サインを求められていた。


 勿論帰りもアギオによる超高速飛行だった為、食べ過ぎた事もあり着いた頃には大変な事になっていた事は言うまでも無い。


 俺とアズモは二度とラフティリにメニュー持たせないと誓った。



ラフティリは目覚めると、ニコニコしたククリに店の裏へ連れて行かれた。

コウジは「大丈夫かなー」と思いながら、ラフティリが返って来るのを待つ。

そしたら本当にラフティリは大丈夫で、寧ろククリの方がやつれて帰って来たと言う。


その時のククリが呟いた「流石アギオ君の姪。というか竜王家やば…」

という台詞をコウジは一生忘れない。



アギオとのお食事編が思ったよりも掛かりましたが、次回から対抗戦になります。


そろそろ百話ですので、記念に何か書こうと思いましたが、

本編さっさと書けって話ですよね。


この物語ってどのキャラが人気なんですかね。

最近活躍が目覚ましいラフティリの一強でしょうか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 記念の閑話等を入れても特に問題は無いかなーとか思ってます 個人的にはスフロアが好きなんですが1番人気は誰なんでしょうね~
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