八十九話 「これが一番早かった」
「まず解放についてどこまで知っている」
途中でラフティリが追加オーダーしたデザートがいくつか届き、「頼み過ぎたからアズモにもあげるわ!」と俺の前にも置かれた。
アギオは店員が入って来ると暫く黙るタイプだったらしく、ラフティリが一気に纏めてでは無く小出しでオーダーしていたのが祟り、話を聞くのに苦労した。
尚、ラフティリは「美味しそう!」と思ったら、自分のお腹の容量を気にせず頼む性質があったためタッチパネル式のメニューは取り上げた。
「過去に親父から聞いた事がありますけど、自分の望む姿になれるという事しか分からないです」
「ギニスはそこまで端折ったのか。それだと異形化と混同する」
「俺もそう思っていました。異形化と同じじゃないかなって」
アズモ達人型の魔物には、三つの能力が備わっている。
魔物化、異形化、解放だ。
魔物化は普段人型で過ごしている魔物が本来の性質を取り戻す能力。
異形化は追い詰められた魔物が理性と自我を引き換えに手にする能力。
解放は自分の望む最適化を取る……みたいな能力。
俺とアズモは嘗て親父からそう教えてもらった。
そこから異形化はブラリの話を聞き、少し理解が深まった。
あれは自分を犠牲にする事で、目の前のどうしようも無い現実を解決もしくは終わらせる力だ。
ダフティは家族を殺した人間を殺すための力を得て、ブラリは妹を止めるための力を得た。
異形化という力は、壊す事も救う事も出来る。
だがそうなると、自分の最適化を取るという解放と被ってしまう。
「俺は人に物を教えられる程、話が上手く無い。それでもいいか?」
アギオが俺を見て、そう言った。
勿論頷いて返す。
俺は強くなりたい。
「そうか」
相変わらず容赦なくやってくる追加の品の中から飲み物を手に取る。
これから語る為にアギオは喉を潤した。
それはそれとして、ラフティリは反省して欲しい。
テーブルに品が溢れ過ぎている。
手伝いはするが、この量を本当に食べられると思っていたのだろうか。
「今から千六百年程前、妹のエクセレが異形化した。理由は俺が殺されたからだ」
「……殺された?」
目の前にいるアギオを見る。
アギオは普通に動いているし、ご飯も食べている。
ディスティアが操る骸骨とは違い、姿も生者にしか見えない。
「死ぬ寸前、俺は暴走する妹を見て死後に異形化が発動した。そこから無限龍と呼ばれるようになった力を得た」
アギオはおもむろに箸を一本だけ手に取った。
箸の先に手を添え、食い先を数回撫でる。
「本来の俺はとっくの昔に死んでいた。死後異形化が発動し、無限に再生するようになった。……見ていろ」
アギオは手に取った箸を、己の腕に差し込み貫通させる。
「……何して!?」
「むぇっ!? ゴホゴホ!」
衝撃の瞬間だった。
俺は話に集中するために食べるのを止めていたが、ラフティリはデザートを食べていたせいでスプーンを咥えており、大変な事になっている。
「……血が出ていないだろう」
驚く俺達を余所にアギオはそう言った。
ラフティリの背中を摩りながら、アギオの方を見てみると確かに箸を突き刺したというのに血が一滴も垂れていない。
「ここからだ」
アギオはゆっくりと箸を抜いていく。
箸が出て来るにつれ貫かれた跡が風穴として出て来ると思ったが、そんな事は無かった。
箸が抜けても、突き刺す前と何ら変わりの無い腕が現れた。
まるで何事も無かったかのようだ。
「ゲホッ! ゴホッ! びっくりしたわ!」
「大丈夫かラフティー!?」
「治ったわ!」
「すまない。これが一番早かった」
落ち着いたようなので、ラフティリを摩るのを止めた。
ラフティリはプンプンしながら、デザートの続きを食べ始める。
アギオはそんな俺達を見て一瞬だけ微笑んだように見えた。
「俺は異形化をすると、再生し続け何の攻撃も、影響も受けていない自分本来の姿に戻る。死すら超えて」
「強すぎる……」
死すらも治す再生能力。
それがアギオの異形化。
「そして解放はこうだ。弟妹達は親父の真似をして『万物を』とか言うが、自分に合った言葉を言えば良い」
「……只、只管に守れ」
目を瞑って何かを唱えたかと思ったら、またアギオは箸を一本手に取った。
そして、また同じように突き刺そうとする。
しかし、今度は腕に箸が届く事は無かった。
箸は何か見えない障壁に当たったのか、弾けて消えた。
「これが解放だ」
「……!?」
「むぇっ!? ゴホゴホ!」
「いやラフティーは学べよ!」
アギオが説明を続けているというのに、何故かラフティリは吞気にデザートを食べ続けていたためまた喉に詰まらせたようだ。
食い意地が凄い奴である。
「このように、異形化は姿に起因した力、解放は個人の望む力をそれぞれ与えてくれる事が多い」
「なるほど……」
「異形化と解放にはその他に、衝動で目覚めるかそうじゃないかという違いもある。異形化は自分でコントロール出来ないのが普通だ」
「さて、ではここからは使い方について教えよう」




