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背反の魔物~異世界に転生したと思ったら竜王の娘に憑依していた~  作者: おでん食いたい
 学園生活と正反対の双子—動き始めた思惑—
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八十六話 「その時に頭の中で声が聞こえた」


「ねえ、スズランちゃんを使った訓練って本当に効果があるのかな!?」


 修練場の控室から出て来たブラリが俺にそんな事を言って来た。


 クラス対抗戦まで残り二日となった。

 各々の対戦相手を決め課題を熟していたが、どうやらブラリは自分の訓練の仕方に不満があるようだ。


「でも、だいぶ生き残り時間は長くなったよな」

「そりゃあね! 何十回もやられたら生き残れるようにはなるよ!」

「ナーン」


 スズランが俺の足元まで来てゴロゴロしだした。

 腹をこちらに向けていて構って欲しいようだ。


「スズランもお疲れみたいだし少し休憩しようぜ。ラフティリもなんか負け過ぎて拗ねちゃったし」


 ラフティリは地面に大の字で寝転がっていた。

 俺達に五連敗してからずっとああだ。


 時折、空にブレスを吐き出しては「これじゃないわ!」とウンウン唸っている。


「ブラリ様休憩なさいましょう。飲み物を持って参りました」

「あぁ、ありがとうスフィラ」

「僕はお菓子を持ってきたよ!」


 飲み物の入った大きな容器と人数分のカップを持ったスフィラと、袋菓子を両手に抱えきれない程持ってやってきたマニタリを中心に輪を作る。

 ムニミーはマニタリの落としたお菓子を拾いながら遅れてやって来た。


「シート持って来たよ。ラフティーちゃんは身体に付いた汚れを払ってから入るように。あ、コラ! 土足で入って来るのも禁止! ラフティーちゃんの手綱を握ってよアズモちゃん!」

「え、俺?」

「姪の面倒を見るのは役目でしょ?」


 確かにラフティリはアズモから見て姪に当たるが同年齢。

 その為、叔母って事を引き合いに出して面倒を見てと言われても困るのだ。

 だが、俺がこのクラスで一番の適任である事も事実だと思う。


「はー、しょうがないか」

「むえー……」


 シートの前でムニミーに通せんぼされていたラフティリを後ろに回り込み掴み上げた。

 ラフティリはバタバタして抵抗しているが、少し元気が無かった。


 俺達に負け過ぎて落ち込んでいるのか、敵わないと知り諦めているのか。


「ほら、ラフティー。入る前に汚れを払え。さっきまで地面でゴロゴロしていたんだから」

「分かったから降ろせ~!」


 ラフティリが力強く抵抗しだしたので、地面に降ろす。

 降ろされたラフティリは全身をバタバタ叩き、仕上げに霧のようなブレスで全身を清めていた。


「よし、これで大丈夫だわ」

「こら、靴脱げ」


 ラフティリは身体を綺麗にした事でシートに乗り込もうとしたが、靴をまだ脱いでいなかったため再び掴み上げた。


「むえー……」



—————



「一組との対抗戦に向けて特訓しているが、勝てるか俺達で」


 スフィラから注がれた温かいお茶のような物を飲みながら、俺はそう漏らした。


 準備は着々進んでいる。

 毎日の特訓で成果も感じられる程強くなったと思う。


 だが、クラス対抗戦にはそこはかとなく不安も感じていた。

 俺達じゃどうしようも無いような何かに押し潰されそうなそんな気もする。


「負ける訳無いわ!」

「ラフティーちゃんが言う通り、僕達は勝てるよ」

「だと良いんだけどな……」


 ラフティリもブラリも勝てる事を疑っていないようだった。

 スフィラも「うんうん」と頷いているので、ブラリの言葉を信じているのだろう。

 マニタリもムニミーも俺達なら勝てるよと言う。


 不安を感じているのは俺一人だけみたいだ。


「……俺も異形化や解放が使えるようになった方が良いんじゃないか」


 言い表せない不安を一人感じた俺はそう呟いてしまった。


「そんな力要らないわ。あたしはそんなものに頼らなくても強い」


 俺の呟きを聞いたラフティリが静かにそう返してきた。

 ラフティリの台詞を聞いたブラリが小さく身体を震わせた。


「ラフティーちゃんは強くなって叶えたい事が無いの?」

「そんなのパパがエクセレにやられる前に時間を戻して、エクセレを倒す事に決まっているわ。でも、解放は良いけど異形化には頼りたくない」

「それはどうしてなの?」


 ブラリはラフティリの言葉に食い気味に返す。


 俺とアズモにだけ教えてくれたが、ブラリは異形化を使える。


 目の前で家族の小竜を失くし、勘違いをした妹のダフティが人間を虐殺した。

 ブラリはその事件をどうにかしたくて異形化した。


 どうしようも無い現実をどうにかしたくて、禁断の力に目覚めたのだ。

 だから、ブラリはラフティリの言葉を無視出来なかったのかもしれない。


「目の前でパパがエクセレに切り刻まれたわ。どうしてそんな事をするのか分からなくて、檻に捕らえられていたあたしには見ているだけしか出来なくて泣き叫んだわ。……その時に頭の中で声が聞こえた」


「『どんな力があればイイ?』って確かに聞こえたわ」


「……!?」

「……」


 俺はラフティリの言葉に驚き、ブラリは息を呑んだ。

 ブラリが異形化した時、ブラリにも同じように声が聞こえたらしい。


 ブラリはその声を聞き、自分が望む力を手に入れた。

 だから、ラフティリが聞こえた声は「異形化へ引き込む声」だ。


「……ラフティーちゃんはその声に何て答えたの?」

「パパを助けられる力が欲しいって言ったわ。そしたら、『その為にはどんな力が要ル?』って返って来たの。あたしはどんな力があればパパを助けられるか必死に考えて、そして辞めた」


「パパから預けられたサカナタロウからパパの声が聞こえた。『今はまだその力には頼るな』って。だから、要らないわって答えた。そしたら、その声は聞こえなくなったの」


 ラフティリは異形化の一歩前まで来て、引き返していた。

 父のフィドロクアに声を掛けられて異形化するのを止めたのだ。


「その声に答えていたら、その状況を覆せていたのかもしれないんだよ?」

「あの時答えていたらそうなっていたかもしれないわ。でも、パパが止めた。あたしが止まるにはそれで十分」


 ラフティリはあの時の光景を思い出しているのか、目を瞑る。

 何回か頷き、首をクルクル回し、尻尾をブンブン振る。

 考える時の行動がうるさい奴だ。


「エクセレはいつかあたしの力で倒すわ! あたしの使える力で倒す! ブラリ達も協力してよね、皆で倒すんだから!」


 ラフティリが立ち上がりそう宣言した。

 そしてその宣言には俺達も含まれていた。


 ラフティリは本気でエクセレを倒すつもりのようだ。

 鼻息を荒くして、尻尾をグルングルン回していた。


「ラフティーちゃんは凄いね……。僕にはとても真似が出来ないや」

「ブラリも凄いじゃない? 毎回凄い作戦組んであたし達を勝たせてくれるし、エクセレが襲撃した時も一人だけ向かって行ったじゃない?」


 意気揚々と俺達を巻き込むラフティリにブラリは消沈しながら言ったが、ラフティリは「何を言っているの?」とでも言いたげな表情をしながらブラリを称えた。


「今回だってまた何か考えているんでしょ? 頼りにしているんだから完璧なものにするのよ!」


 ラフティリはブラリをビシッと指差しながら言う。

 ブラリは一瞬鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたが、すぐにニヒルな笑みを浮かべた。


「こりゃ敵わないね。僕もラフティーちゃんに負けないよう活躍しないとだよ」


 少しだけ、俺の言葉により不穏な空気が流れたがラフティリの明るさで元に戻った。

 お菓子を食べながらの雑談が再開されたが、俺は一人思案していた。


 ラフティリが異形化の衝動に抗ったのは分かった。

 でも、俺はどうやって強くなればいいのだろう。


『はあ、相変わらず考えすぎる奴だ。……異形化は嫌だが、解放なら考えてやらん事も無い』


 表情には出さず悩んでいたらアズモに語り掛けられた。

 表情に出していない所で、アズモには考えが筒抜けなのだ。


 アズモは、また俺が唸っていたから呆れて声を掛けて来たのだろう。


 でも、良いのかアズモ。

 前に異形化も、解放も嫌だと言っていたよな。


『コウジは次のクラス対抗戦の為にどうしても力を手にしたいのだろう? だから、一肌脱いでやる。この身体は私の物だが、コウジの物でもある』


『この後、テリオ兄上かディスティアに解放の事を聞きに行こう』



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