八十五話 「何百年前の話をしてんだよ」
「次のクラス対抗戦では何かが起こる。これは確実だろうな」
「へえ、ディスティアちゃんはそう考えているのか」
「だから、ちゃん付けは止めろ。ぶち殺すぞ」
時は少し遡り、アズモ達の学校謹慎が始まった日の事。
十五組と一組の対抗戦が迫り、スイザウロ学園の一室では教師が集まって話し合いをしていた。
若い教師から順に紹介すると、ディスティア、パーフェクト、エオニオとなる。
紺のワイシャツの第二ボタンまで開け紫のスーツを羽織っただけのディスティアはギザギザの歯を覗かせながらパーフェクトに掴みかかり、全身白一色で揃えたパーフェクトはウィンクをしてディスティアを更に燃え上がらせ、ヨレヨレの黒スーツを着たエオニオはソファに座りぼんやりしていた。
「いやあ、昔のお兄ちゃんお兄ちゃんって言いながらついて来ていたディスティアちゃんのイメージが強くってさ」
「何百年前の話をしてんだよ、テメェはよお!?」
ディスティアに頭をガシガシ噛みつかれながらも、パーフェクトはニコニコした表情を崩さなかった。
「そう言えばさっきコウジ君の方が言って来たのだけどさ、アギオ兄さんに会いたいってさ」
「あぁ、それか」
ディスティアは話す為に噛むのを止め、黒い刺々しい尻尾で叩く事に切り替えた。
「おや、ディスティアちゃんは知っているのかい?」
相変わらずパーフェクトはディスティアに攻撃をされていてもどこ吹く風と言う様子だった。
ディスティアを止める事もせず、されるがままだ。
「直接聞いた訳では無いがよ、話しているのを聞いちまってな……。どうやら、ブラリに蘇らせたい奴がいるらしい」
「へえ、そうだったの。理由ははぐらかされて聞けなかったから助かるよ」
ディスティアは生徒指導室の扉越しにブラリの昔話を聞いていた。
保険室で休むと言いながら、ちゃんと特別課題が提出されるかが心配になり近くで様子を伺っていたのだ。
「ネスティマス家が関わっている事件……それこそエクセレ姉さんが関わっていたとするなら揉み消す為にアギオ兄さんは力を使うだろうけどさ」
アギオ・ネスティマスは無限龍としてその名を轟かせている。
これはアギオ自身が無限に蘇り戦い続ける様から生まれた通り名だ。
無限龍、修羅龍、殲滅龍、奇蹟龍……当時は様々な呼び名を使われていたが、定着したのは無限龍だった。
アギオは無限と言われる由縁となった力を使い、家族が何か問題を起こした際はその場所に飛び事後処理を担うよう竜王ギニスから頼まれている。
家族間の問題ならば、力は惜しげもなく使うアギオだが、家族以外なら力を使うか使わないかは気分だ。
誰かを蘇らせる等、超常の奇蹟を乱用するのは如何なものかと考えている為だ。
「私が盗み聞きした話によると、人を殺したのはネスティマス家以外の者だ。だが、その者にはエクセレが関わっている」
「それだとアギオ兄さんが動くかどうかは五分五分と言った所かな……」
沈黙が流れる。
ディスティアも、パーフェクトも口を開くのを待ち始めたのだ。
「……動こう。この力はエクセレが暴走するのを見て生み出された力だ。妹が関わっているなら俺は何でもする」
この部屋に来てからずっと呆けていたエオニオが初めて口を開いた。
その言葉を聞いたディスティアはパーフェクトを離し、佇まいを直す。
白いタキシードを穴だらけにされたパーフェクトも穴を修復し、白の蝶ネクタイを正す。
「兄貴がそう言うなら」
「従うまでさ」
「そうか。放課後になったし俺はもう行く、九女がやらかした」
エオニオはそう言い残すと、窓から飛び出し消えてしまった。
「ほんとにあの人は速く飛ぶな。もう私には見えん」
「全盛期を遥かに過ぎて衰弱した今の父さんじゃもう敵わないだろうさ」
「そりゃそうだろうなあ」
ディスティアとパーフェクトは窓際に寄り、周辺を見渡すがエオニオはもう遥か彼方まで飛んで行ってしまった。
「だって、ネスティマス家最強の竜なんだからよ。世界ランクでも三位。二桁に落ちた親父じゃもう、な……それより、今度の対抗戦で絶対何かが起こるから他にも応援を呼んでおこうぜ」
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「仲間が出来たと通信が来ましたよ」
「そうか……今度の異形者は何が出来る」
「まだ分からないですが、恐らく外見を変化させる力との事です」
「ならもうお前が居るから重要度は低いか。だが、一応向かおう」
雲に覆われた空に浮かぶ城がある。
その城は日々移動し、定住地を持たない事で捜索の目を潜り抜けている。
城の一室では、フレアスカートを履いた女性と、長身の男が話していた。
「誰が向かいますか?」
「今度の仲間は学園に居るのだろう? ならば、現地にいる悪魔と、悪魔と仲の良いエクセレは確定だろうな。それに増員として何人かと言った所か。まあ、詳しくは上が決めるだろうよ」
「私も行けますかね……」
長身の男が言うメンバーに自身が入って居なかった事で、フレアスカートの女性が心配そうに漏らした。
「君も行きたいのか?」
「はい。だって、あの場所にはコウジ君が居ます」
「あぁ……そう言えばその姿は、初めてコウジとやらに会った姿と言っていたな」
「人間形態ではこれが初めてです。はぁ……コウジ君に会いたいな」
女性はまるで恋をしているかのように物憂げな表情で溜息を吐く。
「よし、ならば君も同行出来るように打診しておこう」
「ありがとうございます」
長身の男の言葉に女性は花がパッと咲いたかのような笑顔を浮かべた。




