八十二話 「あたしも一度戦ってみたかったわ!」
「じゃあまずはアズモちゃんに担当してもらう、妹のダフティの戦い方から話そうかな」
服装を動きやすい物に変え修練場に移動してきた。
ここからやっとクラス対抗戦に向けた対策を本格的に練れる……はずだったが、そう上手くはいかないようだ。
「うわああアズモちゃん! ラフティリちゃん、スフィラちゃん! 久しぶりぃいいい! 会いたかったよぉおおお!!」
「いや、ほんと君達四人同時に生徒指導とか何考えていたの? 十五組がお通夜みたいに静かになっていたよ?」
「あー、これは僕の話聞こえてないね」
修練場にはマニタリとムニミーが待ち構えていた。
寮の違う二人とは生徒指導になってからは一度も会えずにいた。
四日間の謹慎期間と週末を経ているため、二人に会うのは実に六日ぶりだった。
久しぶりに会ったマニタリは俺達を見るや否や順番に抱き着いてきた。
今は六週目のハグをして来ているところだ
ラフティリなんかはそんなマニタリを鬱陶しく感じたのか、尻尾でマニタリの事をベチベチ叩いていた。
「むわああああ!!!」
マニタリによる七週目のハグがラフティリに向かうと、ラフティリは遂に耐えられなくなったらしい。
ラフティリは水ブレスをマニタリに向かって吐き、マニタリを遠くへ吹き飛ばした。
吹き飛んだマニタリは地面にぶつかる前に生やしたキノコをクッションにして着地をする。
「酷いなあもう! 感動の再会じゃん!」
「鬱陶しいわ! 回数が多すぎ!」
ラフティリはやはりマニタリの抱擁地獄にイライラしていたらしい。
言い争い……というよりかは、マニタリの抗議が始まった。
ラフティリは何も言い返さずに「つーん」としながら構えているだけである。
実は言うと、アズモもイライラし始めていたので先にラフティリがキレてくれて助かった。
アズモは普段人とじゃれつく事など皆無に等しいので、こういう時の加減が下手なのだ。
「でもほんとにどうして、大事な対抗戦の前に四人で喧嘩とかしたの?」
一方、マニタリに比べ冷静なムニミーはブラリにそんな質問をしていた。
「妹のクラスと当たる前に解決しておきたい事があってね」
ブラリはムニミーにそう返し、俺達の方を見てウィンクをしてきた。
少しブラリを殴りたい気持ちになった。
「とにかく悪かったよ、二人共。教室を四日も開けてしまったのは申し訳ないと思っている。だけど、そろそろブラリの話を聞きたいから一旦抑えてくれないか?」
「私は元々怒って無いし良いよ。生徒指導に行った回数では私がダントツでトップだし……」
「僕はまだ怒っているよ! 四人も行っちゃってほんとに暇だったもん!」
俺の言葉を聞きムニミーは収めてくれたが、マニタリはまだ納得いってないようだ。
マニタリは頬を膨らませて、両手をブンブン回す。
「ごめんね、マニタリちゃん。今度皆で遊びに行く時にキノコ博物館に一票入れるから許してよ」
「許すにはまだ足りないよ!」
「じゃあ俺もキノコ博物館に一票入れるか。ラフティリにも票を入れさせる」
「むえっ!?」
「あとちょっとで許してあげる!」
「父さんに働きかけて職員さんしか入れないような部屋に入れるよう頼んでみるよ」
「許してあげる!!!」
マニタリは怒っていたが、ずっと行きたがっていたキノコ博物館に行けるとしり機嫌を直した。
もしかしたら怒っていたのは演技だったのかもしれない。
ブラリが何か言ってくれるのを期待しての演技だったら、割と計算高いと言わざるを得ない。
「ちょっとアズモ! 水族館に行くって約束があったわ!」
しかし、今度はラフティリが俺に掴みかかり抗議をしてくる。
「それは寮の皆で行くって約束だったろ」
「そう言えばそうだったわ!」
ラフティリの方はマニタリみたいに強請って来る事はせず、勘違いに気付いたら直ぐに解放してくれた。
どっちにせよ、ラフティリの票を奪った事に変わりはないが、許してくれるらしい。
「よし、今度こそダフティの戦い方を話せそうだね」
俺とラフティリの一悶着も終え、やっと話し合いが出来そうな空気になった。
修練場に移動してからここまで長かった。
十五組の皆は面白いため一緒に居て楽しいが、話し合いが進みづらいのが玉に瑕である。
「当たり前だけど、ダフティは僕の妹だから魔物化を使ったら僕と同じ事が出来るよ。索敵も勿論、五感が強化されて不意打ちが効かなくなるから注意してね」
「それだけでもう厄介だな……。ブラリと同じって事は肌も硬くなって攻撃が入りにくいんだろ?」
「それもあるよ。とは言え、僕と違って雷魔法は使って来ないからそこはアズモちゃん達敵には楽なんじゃないかな」
「なるほどな」
ブラリと同じ種族のため、要は空き教室で喧嘩をした時のブラリを想定すれば良いと言う訳だ。
俺とアズモがブラリの攻撃で一番厄介だと感じたのは雷魔法。
雷魔法が身体に当たると、身体の持ち主であるアズモだけ痺れて動きづらくなってしまう。
身体を動かしているだけの俺にはそこまで影響しなかったが、そのせいで苦労した。
その厄介だった雷魔法が飛んで来ないのはとても有難い。
「その代わり、ダフティは水と氷魔法を使ってくるよ。どちらも厄介な魔法だから、対策をしといた方がいいね」
「頑丈な身体に、超感覚、それと水・氷魔法か……」
「そうだね。そこを対策出来たら勝てる確率が上がるよ……」
俺とブラリは同時にラフティリへ視線を向けた。
俺達に視線を向けられたラフティリは「何よ?」と言いながら首を傾げた。
「まさかこんなに近くに良い練習相手が居たとは」
「僕もびっくりしたよ。ラフティーちゃんに相手してもらえれば良い対策になると思うよ」
「……どういう事? 教えなさいよ?」
水龍フィドロクア・ネスティマスの愛娘ラフティリ・ネスティマスは水・氷魔法を使う事が出来る。
文字を読むのが苦手なラフティリはほとんどの魔法が使えないが、水と氷に関しては別。
小さい時からフィドロクアに仕込まれていたらしく無詠唱で使う事が出来る逸材だ。
普段は何も考えずにその時その時の気分で過ごしているが、戦闘においては勘も冴え渡る。
考えと感覚が鋭くなり、クラス対抗戦でも未だ無敗。
「ラフティー、クラス対抗戦のために俺の練習相手になってくれ」
「アズモと戦えばいいの?」
「ああ、ラフティーと戦う事で俺は強くなれる」
俺の言葉を聞いたラフティリは何を思ったのか、おもむろに翼を生やし、身体を鱗で覆った。
「いいわ! あたしも一度戦ってみたかったわ!」
ラフティリはそう言うと、俺に飛び掛かって来た。




