八十一話 「ディスティア先生に喧嘩売って大丈夫なのかな」
特別課題を終え放課後、生徒指導室では今日も机を囲み話し合いをしていた。
議題は、一組との対抗戦についてだ。
「とある筋からの情報提供により、一組の出場メンバーが分かったよ」
ブラリがスフィラからメモ用紙を受け取りながらそう言う。
クラス対抗戦では、試合に四人まで出場する事が出来る。
人によって出来る事が変わるかなり変わって来る魔物の学校では対戦クラスの出場選手が分かると、対策を練りやすくなるため非常に助かる。
スイザウロ学園において、一組は一番のエリートクラスとされている。
入試時の成績を元に一組から順にクラス分けがされるので、事実優秀な子が多く集まっている。
中には、ブラリのように身分が高く、成績が良かった者に指名されてクラス先が決まる子もいるが、どちらにせよ指名されるからには何かしら魅力があるから選ばれるため何も出来ないなんて事は無い。
「それは助かるな。一組からは誰が出て来るんだ?」
そして一組は、十五組と違いクラス人数が三十五人も居る。
全員強くて誰が出て来るのか分からないと、クラスのメンバー全員をリサーチする必要があるため、やはり出場者が分かるのは助かる。
「一組リーダーのダフティ、アズモちゃんと同園で過ごしたルクダちゃんとスフロアちゃん、後はポディカスロ君だね」
「概ね予想通りのメンバーになったが、最後のポディカスロという奴だけは分からんな」
ダフティはリーダーという事を抜いても絶対出て来るだろうと思っていた。
戦うのが好きで、人間を毛嫌いしているなら、クラス対抗戦は都合の良いストレス解消の場となる。
ルクダとスフロアも出て来ると思っていた。
クラス対抗戦で戦う事を楽しみにしていたし、二人共強い。
「ポディカスロは私の従兄弟です。今現在ダフティ様の付き人をしている方です」
スフィラがポディカスロについて教えてくれる。
「ダフティの付き人をしているって事は、ブラリの付き人をしているスフィラ並みに強いって事か?」
「うーん、どうだろう。僕もポディカスロ君に関してはよく知らないんだよね」
「ポディカスロなら何をして来るか等は私が存じ上げています。よろしければ、私に任せて頂いても構わないでしょうか?」
スフィラが、ポディカスロとの戦闘をやる気のようだ。
ブラリの従者という事もあり、普段自己主張なんて全くしてこないスフィラだが、ポディカスロと何かあったのだろうか?
よく分からないが、駄目な理由が無いのでポディカスロはスフィラに任せても大丈夫だろう。
「俺は良いと思うぞ」
「じゃあ、ポディカスロ君はスフィラに任せても良いかな? 彼の戦い方とかは僕達じゃ分からないし、知っているスフィラに任せるよ」
「お任せください。必ず勝ちます」
ポディカスロの担当がスフィラに決まる。
「そうなると、知っているという意味では、ルクダとスフロアと戦うのは俺が良いんだろうが二人相手はキツイな……」
ルクダとスフロアの戦い方は俺達がよく知っている。
保育園でちょっかいをかけてくる子供をルクダと俺の二人で何度も撃退した。
家の事情柄強くなる必要のあるスフロアの訓練にも何度も同席し、訓練相手になった事もある。
二人の戦い方を熟知している俺達が相手をするのがいいだろう。
だが、言った通り二人相手では俺でも勝てないだろう。
俺達が二人の戦い方を知っているのと同じように、二人も俺達の戦い方を熟知している。
俺とアズモ、二人がこの身体にいる事で可能な機動力を生かした戦い方に二人はこの世界の誰よりも詳しい。
こちらは俺とアズモがいるため処理能力が常人の二倍だが、身体は一つしか無い。
……それに、ブラリからダフティの相手を頼まれている。
「一組の中で一番強いのは、間違い無くダフティだよ。だから、十五組最強のアズモちゃんには万全の状態でダフティに挑んで欲しいな」
ブラリとしても、俺達はダフティと戦って欲しいようだ。
「そうしたいが、二人の相手はどうするんだ?」
「ルクダちゃんとスフロアちゃんの相手は僕とラフティーちゃんでやるよ。ラフティーちゃんはそれで良い?」
「構わないわ。あたしも二人と戦ってみたかったもの」
一人だけ特別課題が溜まっているせいでまだ終わらず難しい顔をしながら解いていたラフティリが、ブラリの提案に了承する。
一日目の課題に全く手を付けておらずディスティアに折檻されたラフティリは二日目から課題に頑張って取り組んでいた。
「アズモちゃんには二人の戦い方を教えて欲しいな」
「いいぞ。その代わりダフティの戦い方を俺に教えてくれよ。兄貴なんだから詳しいだろ?」
「勿論。この後修練場を確保しているからそこで教え合おうよ」
「……身体を動かせるのね! あたしも後三枚やれば終わるから待ってなさいよ!」
今日で俺達は四日分の特別課題を終わらせていた。
教室で喧嘩をしたせいで始まった学校謹慎だったが、出された課題を全て終わらせたのでもう自由だ。
生徒指導室に留まる必要ももう無い。
やっと、ここから解放されるのだ。
この期間中は身体を動かせない分、対戦クラスの対策を練っていた。
スフィラが用意してきた過去に一組がクラス対抗戦をした時の映像を見ていたが、優秀な生徒が多数在籍する一組では毎試合出場選手を変えていたようで、出場メンバーが分からない俺達は全員の対策を練る事になっていた。
この子が出てきたらこうしよう、この子にはこれが有効そうだねと色々話し合っていたが、やっと本格的な対策に進めそうだ。
「折角だし待つよ。皆で一緒に修練場に向かいたいしね」
「なら、もう少し話すか」
「そう言えば一組の先生が臨時で決まったそうだね」
「それなら俺もスフロアから聞いたな。なんか冴えない感じの男の先生が入って来たんだろ?」
一組の担任は元々オミムリが担当していた。
だが、修練場でのエクセレ襲撃を最後に学園から姿を消した。
正直、オミムリにはもう二度と会いたくない。
エクセレよりも会いたく無いかもしれない。
世界を超えてまで俺の事をストーカーして来たというのが怖い。
文字通り姿形を変え、日本に居た頃の俺の行く先々に現れては毎回違う人間になり交流を図ってくるという狂気的なストーカーにはもう会いたくない。
この世界でも俺の事を保育園の頃から監視していたというのだから筋金入りだ。
一体俺がオミムリに何をしたと言うんだ……?
「この学園の一組を臨時とは言え任されるくらいだから、どんな人なんだろうって調べてみたけど全然分からなかったんだよね」
「ブラリでも分からなかったのか。あんな事件があってからの後任だから、怪しい人では無いんだろうけど、情報が何も無いとちょっとな……」
オミムリの一件があり、また危険な人物を学園に招き入れるなどというヘマをこの学園はしないだろうが、少し心配をしていた。
「僕でも知っているのは名前だけだよ。エオニオって名前だったね」
「エオニオ先生って何者なんだろうな……」
ヨレヨレの黒スーツを着たボサボサ髪の男。
目の下にはクマがびっしりとあり、無精ひげも生え放題で見た目に無頓着そうな人だった。
ネクタイの結び方も汚く、一組を任される程出来そうな人には見えなかったが、どうなのだろうか。
謎の先生、エオニオにまつわる噂をブラリと話していると、生徒指導室に元気な声が響いた。
「——やっと、終わったわ!!!!」
ラフティリが特別課題を終わらせたらしい。
「ディスティア叔母さんめ、初日はよくもやってくれたわね! 特別課題なんてこうしてやるわ!」
そう言い、折角終わらせた特別課題にラフティリは水を吹きかける。
特別課題の束は水で包まれたと思ったら凍り、氷の中に閉じ込められる事となった。
「ふん! これをディスティアに投げて来るからちょっと待っているのよ!」
そう言い、ラフティリは職員室の方へ走って行った。
「ラフティーちゃん、ディスティア先生に喧嘩売って大丈夫なのかな……」
「いやあ、どうだろ……」
俺達の心配した通り、ラフティリはディスティアに怒られたようで全身を煤で黒くして帰って来た。
ただ今回は調整を間違われなかったようで、黒くなっていたが無事なようでピンピンしていた。
ディスティア「よし、今回はちゃんと調整出来たな」
周りの先生「……!?」
教頭「ディスティア先生、ちょっとよろしいですか?」




