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背反の魔物~異世界に転生したと思ったら竜王の娘に憑依していた~  作者: おでん食いたい
 学園生活と正反対の双子—動き始めた思惑—
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七十九話 この竜、身体をちゃんと洗おうとしてやがる!


「良いかラフティー、絶対余計な事を言うなよ? 戦闘になりそうだったら参戦して来ていいが、それまで俺の後ろで控えていろ。良いか、これは絶対だからな? 本当に余計な事をするなよ?」

「分かったわ!」

「本当に大丈夫なの……?」


 ルクダがダフティに何かされる事を危険視した俺達は着替えを持って浴場までやって来た。


 変態と言われる事も構わずに脱衣所の籠を漁っていたら確かにダフティが脱いだであろう服と、ルクダがさっきまで着ていた服があった。

 ここに二人が居るのは間違いが無かった。


「そう言えばさっきまでラフティーは入浴していたのでしょう? またお風呂に入ったら怪しまれないかしら?」

「確かに」


 服をサッと脱いで、浴場のドアに手を掛けていたがスフロアの言葉を聞いて止まる。

 よく考えてみたら、さっきまで風呂に入っていた奴がまた風呂に入りに来るなんて変な話だ。


 気が動転してまともな考えが出来ていなかった。


「よし、ラフティー服を脱いでそこに立て」

「これでいい?」


 見様見真似だが、上手くいくだろう。

 さっき、ディスティアがラフティリにやっていたブレスを思い出して再現するだけだ。


 痛くする必要は無いから、黒く染める事だけを考えれば良い。

 恐らく、炎ブレスの特殊系だろう。


 俺は口に魔力を溜め、ブレスのイメージをする。

 煤が身体に張り付くように、真っ黒い煙を出せば良い。

 熱を伴わないように意識しながら、ラフティリへ向け口から煙を出す。


『気が動転していたという自己判断をしておきながら、よくもまあこんな新しい技を……』


 他に良い方法が思いつかなかったから、許して欲しい。

 要は汚れていれば、また風呂に入ってきてもおかしくはないんだから。


 煙はしっかりラフティリに当たった。

煙はすぐに晴れると中から黒くなったラフティリが出て来る。


「悪い、熱くは無かったか?」

「寧ろヒンヤリしていたわ。ディスティアのブレスを見て一発で新技を覚えるなんてあたしも負けてられないわね」

「流石にディスティア姉さん程の火力を出すのは無理だっての」


 いきなりブレスを吐いた分けだが、ラフティリは怒る事なくブレスの出来を褒めた上に、闘志を燃やす。

 ラフティリには困らせられる事の方が多いが、こういう時はラフティリらしさに救われる。


「じゃあ乗り込むぞ。至って普通にお風呂に入って来ました感を演出するぞ」

「任せなさい!」

「……本当に大丈夫かしら」


 意気込む俺とラフティリとは裏腹に、スフロアだけは額を押さえていた。


 浴室へのドアをガラガラと開けて乗り込む。

 湯気で視界が悪くなっていたが、浴槽に二人分の影があるのが見える。


 あそこで並んで入浴しているのが、ダフティとルクダだろうか。


 すぐに走って行きたいが、ダフティに疑っている事を気付かれるのは不味い。

 なるべく自然に、偶々同じタイミングで入って来たと思われるようにしなければならない。


 逸る気持ちを抑え、シャワーへ向かう。

 まずは身体を洗わなくては。


 風呂椅子に座り、水を流しながら後方をチラチラと窺う。

 後ろでは、身体が黒くなったラフティリがダフティとルクダに直行しているのが見えた。


 ……いや待て。何しているんだ、あいつは。


 シャンプーで中途半端に泡だらけになった髪のままラフティリの元へ走る。

 ラフティリを放っておくのは不味い。


「おいコラ、ラフティー! ちゃんと身体を洗え! 風呂が汚れるだろ!」

「むえー」


 風呂に飛び込もうとしていたラフティリを取り押さえた。

 浴槽には当初の見立て通り、ルクダとダフティが入っていた。


「わわ、ラフティーちゃんなんでまたそんなに汚れているの!?」


 俺のブレスによって再び全身を黒くなったラフティリを見て、ルクダがそう言う。


 ダフティに何かをされているかもと考えていたが、ルクダの喋り方はいつもと変わらずラフティリを心配する物だった。


 どうやら、最悪の事態は避けられていたらしい。

 声だけで無く、姿もいつもと変わらずどこかが傷ついている事も無かった。

 杞憂だったのかもしれない。


 普通に考えたら、誰が入って来るかも分からない大浴場で人の事を害するような行為をするわけが無いか。


「新技を編み出したんだ。ディスティア姉さんのブレスを見てな」

「すっごーい! 流石アズモちゃんだね!」

「あたしだってやればそんくらい出来るわよ!」


 ルクダが話しかけてきてくれたので、会話を試みようとするとラフティリも混ざってきた。


 ラフティリに少し思う所はあるが、ルクダは普通に会話をする事も出来ていた。

 いよいよもって、何もされていなかったのかもしれない。


「……まあ俺も来週の対抗戦が楽しみだからな。ダフティ達一組の方はクラス対抗戦の準備は順調か?」


 ルクダはもう大丈夫かもしれないと思ったが、踏み込んでおく。

 ダフティに話し掛けとけば何かボロを出す可能性もある。


「勿論ですよ。兄様と戦えますからね」


 ダフティが俺の問いにちゃんと答えてくれた。

 こちらもいつもと変わった様子は無い。


 いつもと同じ、黒目黒髪。

 ブラリが言うには昔のダフティの髪と目は白かったらしいが、今の黒色でも何ら違和感は無い。


 角や尻尾が生えている事も無く、黒いオーラも漂わせていない。

 いつもと同じダフティの姿がそこにあった。


「ダフティはブラリと戦うのが楽しみだったのか?」

「はい。昔兄様には色々とやられましたから。合法的に戦えるチャンスは有難いです」

「……ブラリってやっぱり昔から手の付けられない子供だったんだな。さぞかし、大変な思いをさせられたんだろうな」


 会話内容でも踏み込みたかったが、止めておいた。

 ラフティリとスフロアを連れて来たとは言え、ここで何か気に障る事を言って本性を現せられるのは避けるべきだろう。


 来週のクラス対抗戦で、テリオやディスティア監視の元安全に戦う機会がある。

 ここで何かを始めるよりは、対抗戦の方で始めた方が良い。


 今はルクダの安全を確認出来ただけでよしとしよう。


「兄様は本当にわんぱくでしたよ。ですが、来週やっと私の事を知ってもらえます」


 ……今一瞬だけ、ダフティの瞳が黒く濁ったオーラを放った気がする。

 気のせいだと思いたいが、ブラリの昔話を聞いた後だと今の台詞に色々な思いが詰まっているのかと邪推してしまう。


 やはり何か、布石を打っておいた方が良いのかもしれない。


「なあ、ダフティ——」

「——喋って無いで早くあんた達は身体を洗っちゃいなさいよ」


 ダフティに問いそうになったが、スフロアに頭から水をかけられ止められる。

 スフロアもここで事を始めてしまうのは避けて欲しいようだ。


「身体が冷えるしスフロアに言う通りにするか。ラフティリも身体を洗うぞ」

「分かったわー」

「全く、早くしなさいよね」


 ラフティリを連れシャワーへ向かう。

 スフロアを一人にさせておくのも申し訳ないので、早く身体を洗うように心がける。


 頭の泡はさっきかけられた水で良い感じに消えたので、身体をさっさと洗う。

 身体を洗いながら横を見るとラフティリがのそのそとゆっくり身体を洗っていた。


「何をしてんだ、急げ」


 こそこそと喋りかけると、ラフティリが俺の方を見て言う。


「アズモは尻尾を出して無いから良いわね。あたし出しっぱなしだから洗うのが大変なのよね」


 この竜、この事態に身体をちゃんと洗おうとしてやがる!

 今は明らかに急ぐ場面だろ!


「ああ、もう! 洗ってやるからジッとしとけ!」

「助かるわ!」


 手に石鹸とスポンジを取り、高速で泡立てる。

 そしてそのままの勢いで身体を洗ってやり、水で泡も流した。


 今まで生きて来て、こんなに急いで誰かの身体を洗った事は無いし、今後も無いだろう。

 何をやっているんだ俺は。


 とにかく二人分の身体を洗い終えたので、浴槽に向かった。


「あら、早かったですね」

「まあな、早く皆と喋りたくて爆速で済まして来た」

「そうですか。ですが私達はもう出ます。ルクダさんがのぼせそうになっているので」


 言われてルクダの方を見たら、顔が蒸気して来ていた。

 ルクダに関しては、もうずっと風呂に浸かっていたみたいだから当然か。


 しかし、風呂から上がると言う事は危機が去ったという事でもある。

 二人にしておかなければ何かをされる問題も無い。


 言葉の通り、ルクダとダフティが上がり、「じゃあねー、先部屋に行っているよー」と残し去っていった。


 スフロアも風呂から上がり二人について行こうとするが、その前に俺の方へ近づいて来た。


「不味い事になったかもしれないわ。ダフティが私とルクダの部屋にクラス対抗戦まで泊まりに来るみたい」

「……!」

「私は二人に付いていくから、どうするか決めたら追いかけてきてね」


 そう言いスフロアも脱衣所へ向かった。



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