七十八話 「口を滑らせたわ」
「口を滑らせたわ」
風呂から戻りアズモの服を着用したラフティリがアイスを食べながらそう言った。
失言をしたという割にはアイスを食べていたり、足を組んでいたりと堂々とし過ぎている。
「口を滑らしたって、ラフティーは一体誰に何を言ったんだ?」
スフロアと喋っていたが、話を止めてラフティリに向き直る。
こんな横着しながら言っているのだから大した物事では無いと思うが、一応聞いておく。
「コウジって名前を言っちゃったわ、ルクダに」
「へー……いや待て。それは普通に不味くないか……? どうして言ってしまった? あとお前それを言うならもうちょっと申し訳無そうにしろ!」
大した事は言わないだろうという精神で聞いていたのに、特大の爆弾が飛んで来るとは思わなかった。
怒鳴られたというのに悪びれもせずコーンアイスをパクパク食べるラフティリを見て思わず頭を抱える。
ルクダには、まだ俺達の事情を伝えていない。
人間の俺がアズモの身体に憑依してしまっている事は伝えられずにいた。
いつかタイミングを見てルクダにも伝えようとしていたが、まさかそれよりも先にラフティリが漏らすとは。
「はー、ラフティーはどこまで言ったんだ? このアズモの身体に俺が入っているって事を言ったのか? あとラフティーが座っている所はダフティのベッドだから食べカス落とすなよ?」
「じゃあアズモのベッドに移動するわ」
ラフティリはアイスを器用に持ちながら、アズモのベッドにごろんと寝転んだ。
横になりながら片肘を曲げて頭を支える、所謂肘枕の態勢だ。
『こいつは殴っていいよな』
アズモは静かにキレていた。
腕がラフティリに伸びかけるが、アズモとは反対の方向に腕へ力を加え耐える。
ラフティリが「服が無い」と言いアズモの許可も取らずに、アズモの私服を物色していた時点でアズモがピリピリする雰囲気は感じ取っていた。
アズモ、ステイだ。
フィドロクア兄さんから託された愛娘だぞ。
『兄上が娘を好きすぎてあまり強く叱責出来ない分、他の兄妹が心を殺して躾ける。素敵な家族の形だろう』
気持ちは分かるが、ラフティリはまだ六歳だぞ。
六歳だったらまだ布団の上で食べ物を食べる事の何が駄目なのか判断もつかないかもしれないだろう。
注意するのは良いが、いきなり暴力は駄目だろう。
『いや、ラフティリは馬鹿だから言ったくらいでは意味が無い。初めから鉄拳制裁で行く』
あ、こら、隙を見計らって左手の方で叩こうとするな。
身体を共有しているとは言え、いきなり対応するのは大変なんだからな。
俺とアズモが脳内で話合いをしていると、ゴンと言う音が響いた。
スフロアである。
スフロアが尻尾をラフティリの方へ伸ばして、まあまあ良い一発をラフティリの頭へ入れたのだ。
「行儀が悪いわね、葛藤していそうなアズモとコウジの代わりに殴るわよ?」
「むえー! もう殴って来ているじゃない! 痛いわね!」
「アイスを食べ終わるのを待ってあげたしいいじゃない。ほら、早くコウジの質問に答えなさい。もう一発行くわよ?」
スフロアは身体を丸めて涙目で頭を押さえるラフティリにユラユラと尻尾を向ける。
ラフティリは観念したのか、身体を起こして胡坐を掻く。
どうやら、話す気になったらしい。
「絶対パパに言いつけてやる……」
ラフティリは恨みの籠った目をスフロアに向けるが、スフロアはどこ吹く風だった。
今のラフティリの台詞は懐かしいな。
アズモが二歳の時に同じ台詞を言っていたが、ここでその話を出すとややこしくなるのでグッと堪える。
親族は一見似ていないように見えても、何処かは似るものなんだな。
「さっきお風呂でルクダに、コウジって名前を滑らしたわ。でもそれだけよ。色々考えて分からなくなったから、お風呂から出たらアズモに聞くといいと言っといたわ」
今度はアズモの腕を止める事無く、俺の意思も加え腕をラフティリの頭に振り落とした。
「むえー!!!」
俺達は拳骨をラフティリに加えた。
流石に今の発言を見過ごす程俺達は優しく無い。
「口を滑らした上に、俺達に丸投げしたんかい!」
「むえー……」
「あー、どうしよう! 何て言おうか! いつかルクダにも言う日が来ると思っていたが、まさかラフティリのこれで言う事になるとは!」
俺はどうしようと叫び、ラフティリは再びベッドに広がった。
「言っちゃ悪いけど、ラフティーにあんた達の事情を話したのはミスよ。だってラフティーよ? うっかり漏らすに決まっているじゃない?」
スフロアが溜息を吐きながらそう言う。
「ラフティーはこんなんだけど、親族だからなぁ……。叔母によく知らない人間の男の魂が入っているって伝えとくのは大事だと思うんだ」
「身内に、しかも同じクラスにそんなのが居るってなったら共有しときたくなるのも分かるけどね。とは言えよ?」
「まあ実を言うと、教えたのは俺じゃないんだよな。テリオ兄さんとディスティア姉さんが教えたんだよ」
「ああ、なるほどね……」
勿論だが俺もアズモも、親族とは言えラフティリに事情を話すつもりは無かった。
ただでさえどこから漏れているのか分からないのに、あんな衝動が服を着て歩いているようなラフティリに言うつもりなんて毛頭無かった。
だが家族で集まった時に、シレっと兄さん達が説明してしまったのだから仕方が無かった。
そして案の定口を滑らして来たって所だ。
「ほんとこいつはもっと悪びれてくれんかな……」
ベッドの上に転がるラフティリを見やると、先程まで頭を押さえて悶えていたのが嘘のようにピンピンしていた。
おまけにアズモが夜な夜な俺が寝た後も頑張って進めていたアクションゲームをやっている。
「あ、また死んだわ! アズモ、残機が0になったわ!」
「た、耐えろ、アズモ! スフロア! 俺達の事を抑えてくれえ! いっその事毒針を差し込んでくれても構わないから!」
「許さんぞ、ラフティリ。出禁、お前は出禁だ。二度と私の部屋とゲーム機に近づくな」
「ラフティーもだけど、アズモも落ち着きなさい?」
枕元に隠していたアズモが実家から持ってきたゲーム機を弄るラフティリ。
スフロアに羽交い締めにされながらも両手をグルグル回しているアズモ。
アズモの事を抑えながらも、尻尾でバシバシとラフティリを叩いているスフロア。
自由なラフティリのせいで場が混沌としてきた。
本来ならこんな事をしている場合では無いはずだった。
ダフティの事や、ルクダの事で話していたはずだ。
……ん、何かおかしくないか?
「ラフティーとルクダは一緒にお風呂に向かったはずだよな」
「そうよ?」
俺の問いにラフティリが首を傾げながら答える。
ディスティアに黒く染め上げられたラフティリをルクダが風呂場まで運び込んで一緒に入浴していた。
「一緒に入ったにしては出て来るのが遅くないか……?」
ルクダは基本いつも誰かと一緒になって行動している。
俺だったり、ラフティリだったり、スフロアだったり様々だが、誰かに着いて行くのが好きなルクダは一人で行動する事なんて稀だ。
「あー、たぶんダフティと一緒にいるわよ」
「……ダフティとか!?」
俺とスフロアの顔が青くなる。
ラフティリが裸で部屋に入り込んで来るまで、スフロアと話していた人物だ。
ブラリの昔話によればダンジョンの奥で異形化を果たし、三人も人間を殺した今年の新入生代表で優等生のダフティ。
ブラリの話を聞いた俺はダフティ危惧し、さっきまでスフロアと話し合っていた。
そんなダフティとルクダが今一緒に居る。
「あたしが脱衣所を出る時に丁度入って来たから、ルクダはまだダフティと一緒にお風呂に入っていると思うわ」
「それを先に言え! 呑気に人の部屋の冷凍庫を漁ってアイスなんか食ってんじゃねーよ、アホ! 風呂に行くから、お前も着いて来いラフティー!」
「あたしはもう入ったから良いわよ」
「良いから来い! フィドロクア兄さんが起きた時に授業サボリまくっている事喋るぞ!?」
「むえー……」
ラフティリはゲーム機を閉じ、枕の下に戻すと渋々と立ち上がる。
「私は先に行っているわ! コウジ達も早く来るのよ!」
スフロアが先に部屋を出て、浴場に向かう。
俺もクローゼットから適当に下着と部屋着を取り出し、走って行く。
ルクダに危機が迫っている。
一年十五組勝手にランキング~口の堅さ編~
一位 アズモ(コウジ)
中に入っているコウジのお陰で、クラスメイトから「アズモちゃんなら信用出来る!」と思われて相談事をされやすい。
二位 ムニミィメムリ
教室でよく爆発をしているが、秘密を守る事の出来る常識はあると思われている。
三位 スフィラ
一見アズモやムニミーより信頼出来そうに見えるが、ブラリに「教えてよ」って言われたら全部ペラペラ喋る。
四位五位 未登場
六位 ブラリ
本人は秘密を守る事が出来る奴ではあるが、如何せん普段の行いのせいでイメージが悪すぎる。でも、下二人よりはマシなので六位。
七位 マニタリ
秘密を秘密だと思っていない。「これは秘密だよ」と言われて事も、「これは内緒なんだけどね」と前置きをして普通に喋る。
八位 ラフティリ
信頼がまるで無い。こそこそ小声で喋った事を、大声で聞き返してくる。駄目。本人に悪気は無い。
十五組残り二人のキャラももう考えているのですが、出すタイミングが無くて出せないです…。
ダウナー君と、オタクちゃんなんですけど、本編で出すのはもうきつそうなので、二章が終わった後の間話で登場となりそうです。
明後日から時間が確保出来そうなので、毎日投稿出来るかもしれないです。
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