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八話 「俺、竜王の息子。超強い。喋れるようになった。お前守る」


「スフロアちゃんの家ではね、家族でそんな事をしているの。スフロアちゃんもいつ死ぬか分からないんだよ。だから友達にはならない方が良いと思うの。じゃないと居なくなった時辛くて仕方ないよ」


 蟲毒、家族で殺し合い、生き残った奴が次の蟲毒を始める……。

 それが本当なら、スフロアは今までどんな事を考えて過ごしてきたんだろうか。

 俺だったら……そんな事を知った時点で自死を選びそうだ。

 誰も殺したくないし、殺されたくない。


「だから誰もスフロアちゃんに近づかないのか?」

「うん、そうだよ」

「そうか」


 俺だったら誰も殺したくないから、自死をするか、遠くへ逃げる。

 でも二歳でそんな選択肢を取れるだろうか。

 どうすれば良いか分からず毎日殺される事に怯えながら生きている。


「あ、アズモちゃんどこ行くの!」


 歩きながら、背にルクダの慌てた声を受ける。


 きっと、そんなの辛いとは思う……。

 俺がしようとしている事は完璧に自己満足に過ぎない。

 ただ自分の知っている範囲で、自分の知っている人が死ぬなんて嫌だ。


「よう。スフロア。ちょっと尻尾触らせてもらうぜ」


 返事は聞かない。

 生憎俺には尻尾が生えていないから分からないが、いきなりこんな事を言ってくるやつが居たら怖いだろう。

 絶対まともな返事は帰って来ない。


 尻尾はツルツルしていると思っていたが、少し毛が生えていて若干ゴワゴワとしていた。

 微量に毛で覆われた内側の部分は少し硬い。

 きっとこの尻尾の表皮の部分は、スフロアが成長して脱皮する度に硬度を増していくんだろうか。


「ちょっと失礼」


 もう既に失礼な事をしているが一応言っておく。

 スフロアの尻尾を手繰り寄せ先端の針の部分を持ってくる。

 そしてその針で自分の左手を突き刺す。


「……! な、なにをしてるの! アズモ! 死んじゃうわ!」


 スフロアがそう叫んだ。

 初めてスフロアと会話をした気がする。

 昨日は終始、一人で片言の異世界言語で分けの分からない話を一方的にしていた。


 それにしても、こんな奇行をしてくる奴の心配をしてくるなんて、なんて優しい子なのだろうか。


「くぅぅぅいてぇ!」

「そりゃそうでしょ! それよりも毒が! せ、先生を呼んでくるからアンタはジッとしていなさい!」

「いや、大丈夫だ」


 針が手を貫くのが思っていたよりも痛かった。

 漫画やアニメに出てくるキャラクターってよくこんな耐えられるな。


「針はまあまあだとして、毒が弱いな。こんなんじゃ生き残れないぞ?」

「は、はぁあああああ!!! なんなのアンタ!!!」

「ところでここに身を守るのに丁度良いのがいるんだが」

「え、は!? 毒が頭に回っておかしくなっちゃったの!? 誰かを刺すなんて初めてなんだけど、私の毒にそんな効果が……!」

「そんな効果ないが。これが通常だが」

「それはそれで心配だわ……」


 失礼なやつだ。

 失礼な奴に対する対応としては優しすぎるくらいだが。


「親父の尽力で喋れるようになった俺の自己紹介を聞くがいい。俺の名前はアズモ。アズモ・ネスティマス。そう、ネスティマスだ。なんとあの竜王、ギニス・ネスティマスの息子だ。昨日はすまんな。この耳に付いている機械と襟元に付いている機械がなきゃ満足に喋れなくてな。ほら、これを取ると何を言っているか分からないだろ。でもこれを付けたら、聞こえる。どうだ、俺の親父は凄いだろ。そして俺はその凄い親父の息子。強さは折り紙つきだと思ってくれていい。そして、俺がお前を殺し合いから守ってやろう」


「ちょ、ちょっと待ってセリフが長くて処理しきれない。言っている事もぶっ飛んでいて分からないし、途中で私の知らない言語に変わったわ。もっと要点を絞って喋ってくれない?」


 俺の渾身の自己紹介が何を言っているか分からないで一蹴された。

 まあスフロアは2歳児だもんな。仕方ないな。


「俺、竜王の息子。超強い。喋れるようになった。お前守る」


 これなら2歳児にも分かるだろうというレベルまで内容を嚙み砕く。


「なるほど……そんな事を言っていたのね。でも、私は守られたくない。だいたい竜王が出張ってくるなんてフェアじゃないわ。私は終わるまで静かに待つ。もうそう決めているの」

「じゃあ俺と友達になってくれ。その時が来るまで俺と最高の思い出を作ろうぜ」

「と、友達……いいの?」


 スフロアは友達という言葉にやけに引っかかったようだ。

 ボッチだったからだろうか。


「ああ。俺と友達になろう」

「本当にいいのね? 後で絶対に後悔するわよ……?」

「どんとこい。不幸なんてぶっ飛ばしてやるよ」

「本当の本当ね? 実は嘘でしたって言ったら私はアンタを許さないわ」


「ああもうなんてしつこいやつだ。もう何回も友達になるって言っているだろ。俺たちはもう友達だ。ほら、遊びに行こうぜ」


 ボッチを拗らせて友達の確認を何回もしてくるスフロアの手を取り俺は走り出す。


「ど、どこに行くのよアズモ!」

「とりあえずあそこの陰に隠れてチラチラ俺らを見ていたルクダを回収する! そしたらその辺に遊びに行こうぜ! 何かあんだろ!」

「ひ、ひぃ……! アズモちゃん達がこっち来た!」


 俺はルクダも回収しようとして手を伸ばす。

 しかし、突如脳天に飛来した拳によってそれは叶わぬものになった。


 またこのパターンか……。

 俺はそんな事を思いながら意識を手放す。



—————



「——ズモちゃん! アズモちゃん大丈夫!?」

「あれここは……」


 目が覚めると泣きそうな顔をしたルクダの顔が視界いっぱいに広がっていた。

 視界の端っこの方には心配そうな表情をしたスフロアもいる。


「ここは保育園の救護室だ」


 この声は……まさか親父か。

 

「なんでいるんだ」

「ちょっと園長に用があった。少し話をしていたらアズモが倒れたって聞いた」

「ここは私が説明します」


 声のした方向を見ると先生がいた。

 ここに来た理由って先生が俺を殴ったからではないのか。

 まさかこの先生、俺が2歳児なのを良い事にあることないこと喋って自分に都合のいいように説明する気か?


「私が教室に入ると、そこにいる女の子二人を連れて保育園から脱走しようとしているアズモちゃんの姿が見えたので、とりあえず鉄拳制裁しました」

「ほう……」


 親父がジッと俺を見てくる。

 俺はその視線から隠れたくて良い位置まで近づいていたルクダを盾にする。


 この先生ちゃんと事実だけを親父に言ったな。

 それはいい。それはいいんだが、不味い事をしていたのってまさか俺の方だったのか。


「アズモちゃんが気絶したのでとりあえず横にしようとしたのですが、左手に何か鋭利な物で刺された後と毒の気配を感じたので、竜王様が園長先生と話をしていたのを思い出して治療を竜王様に頼みにいったという感じです」


 先生はそう言いスフロアを見る。

 スフロアは先生の視線を感じピクリと身体を震わし俯く。


「待ってくれ、スフロアは悪くない! 俺が自分でスフロアの針を手に刺したんだ!」


 まるで庇っているかのように聞こえるけど、全部事実なんだよなこれ。

 ちゃんと信じてくれるだろうか。


「昨日今日の保育園での活動を見るに言っている事は事実だと思われます。アズモちゃんはちょっと言葉で言い表しにくいくらいに謎な行動をよくとる子なので……」

「アズモ……。お前は一体何をしているのだ……」


 信じてくれたけど、なんか納得いかないぞ。


「話せば長くなるけど……」


 俺はそう言って、スフロア、親父の順に視線を動かす。

 親父は俺の視線に追われるようにスフロアを見て溜息を吐いた。


「そうか、君はあそこの家の子か……」

「……っ、はい……」

「君も色々事情はあるのだろうが……。済まないが全員、この部屋から出て行ってもらえないだろうか。アズモと少し話をしたい」


 親父は人払いをしだす。

 これは説教タイムに入るのだろうか……。

 毒針を自分の身体に刺すなんてかなり無謀な行為だったなと改めて思う。


 先生、ルクダ、スフロアは全員速やかに部屋から出て行った。

 ルクダとスフロアは部屋の扉を閉める瞬間まで俺を心配そうに見ていた。

 ごめん二人共。と思いながらこれから起こるだろう事を想像する。


「コウジ——」

「——ごめんなさい!」


 俺は親父が何かを言う前に謝る。


「我は怒ってなどいないぞ。コウジの事だから、あのスフロアの家の事情でも知って居ても立っても居られなくなったのだろう。なら、その行為は褒めこそすれ怒りはしない」


 怒ってないのか……。

 アズモも死ぬかもしれない無茶な行為をしたのにお咎めなしというのは逆にちょっと思う所がある。


「我が話したいのは、家の掟についてだ。もっと成長してから話そうと思っていたのだが、今回の一件でコウジとアズモには早めに話して置くべきだと考えた」


「家の掟……?」


「うむ。スフロア家ではスフロア家独自のルールがあるように、ネスティマス家にも掟がある。ところでアズモはどうした」

「あ、そう言えばずっと無言だったな」


 おーい、アズモー。

 反応が無いけど寝ているのか?


『ぅきゅう……毒が……』


「……」



(コウジが毒針を刺した時の休憩中のアズモさん)

「あばばばばばばばば」



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