七十四話 「もうちょっとアズモとイチャイチャしていたかった」
「ええい、近い! 近過ぎる! 離れろ!」
「いいじゃない別に」
俺の部屋に移動した俺とスフロアは、ベッドに並んで腰かけていた。
国内外で名を馳せるスイザウロ学園の寮、その中でもとりわけ俺の部屋は三人部屋という事もあり広い部屋だ。
ベッドが三つに、テレビと冷蔵庫、三人分のクローゼットもある。
狭いがキッチンもあり、洗面所とトイレも別で設置されている。
何故ここまで快適な空間が演出されているのに、風呂は備え付けられていないのかは甚だ疑問である。
勿論、椅子と机も設置されている部屋なのだが、何故かスフロアは隣に座ってきた。
俺の宿主であるアズモは、人に近寄られるのも苦手であったりする。
自己主張するのも苦手で、喋るのも苦手で、近寄られるのも苦手という筋金入りの人嫌い……という訳では無いが、人と接するのが苦手なのだ。
そしてスフロアはそれを理解している上でくっついて来る。
仲が良いのか悪いのかは分からないが、友達の中で一番アズモの事を理解しているのはスフロアで間違いない。
「そこに椅子を出してやっただろ! 何故私にくっつく!」
「だってこれから大事な話をするのでしょ? 人に聞かれたら不味いじゃない」
「ぐぅ……。さてはお前根に持っているのか……?」
「さぁね?」
このように、喋るのが苦手なアズモであってもスフロアとは普通に喋るのでやはり仲は良いと思う。
「イチャイチャしている所悪いが、そろそろ俺も喋って良いか?」
仲の良さを見せつけてくれるのは大歓迎なのだが、大事な話をしようとしているのは事実だ。
ダフティや、イエラが帰って来る前に話を済ましておきたかった。
何せ俺とアズモは身体を共有しているのだ。
厳密にはアズモが身体の持ち主で、俺が憑依しているだけだが。
そして口は一つしか無いので、どちらか片方が喋っているともう片方は喋れなくなる。
数少ないアズモが喋れる事の出来る友人であるスフロアと仲良くするのは、憑依者としては本当に大歓迎だが、それは話が済んでからにして欲しかった。
「もうちょっとアズモとイチャイチャしていたかったけど、コウジがそこまで言うなら仕方ないから引いてあげるわ」
なんか今スフロアの「イチャイチャしていたかった」という言葉が出たあたりで腕が勝手に動いてスフロアの脇腹を突きそうになったが意地で止めた。
俺は腕を動かそうとしていなかったため、今の動きは完全にアズモの独断だ。
こいつは不利になったり、言葉が発せなくなったりすると平然と物理的なコミュニケーションに走ろうとする節がある。
「コウジも大変そうね……。アズモが悪さしないように抱きしめておいてあげるわよ?」
「俺の大変さを理解しているのならアズモを煽るのを止めてくれ。こいつは沸点が割と低いんだ」
アズモは普段全く喋らないが、煽れそうな時は俺に何の相談も無く口を動かして相手を煽る。
これに関しては、まだ慣れていない人でも構う事なくやる。
その癖、自分が煽られたらすぐ反応するという悪い癖があった。
ここら辺は六歳児らしいと言えばそれまでだが、もうちょっとどうにかならない物か……。
「ふん、でも先にやって来たのはアズモだったわ。勘違いした私を盛大に茶化して来たわ」
「いいや、そっちが先だった。エントランスで言ってはいけない事を言った」
「それなら昨日、また傷だらけで帰って来たから心配してあげたのに——」
「その前に公の場で私が喋れない事を良い事に——」
「なによ!」
「私の台詞だ!」
また始まってしまった。
仲が良いとは思うが、こうやって口喧嘩になる事も多いのでよく分からん。
これをゼロ距離で二人は顔を突き合わせてよくやる。
大した物だ。
そして悲しい事に、この二人と四年間の付き合いがあるが、この喧嘩の止め方が俺は未だに知らない。
「……おいで、スズラン」
「ナーン」
だから、助っ人に頼る事にした。
ディスティアの召喚術の授業で呼び出す事に成功した猫型の召喚獣ことスズランを召喚した。
今は猫の姿で愛くるしさを振り撒いているスズランだが、元は実家の近くの山で主をやっていた馬鹿デカイ花の魔物だった。
その花の球根を元に召喚したのが、このスズランだ。
スズランに花の時の記憶があるかどうかは分からないが、俺達三人はその花に出会って死を覚悟した過去がある。
「俺がアズモをどうにか抑えるからスズランはスフロアを頼んだ」
「ナーン」
「ひっ……」
スズランがスフロアの膝の上で寛ぎ出すとスフロアは大人しくなった。
スズランの召喚に成功した日に寮でもスズランのお披露目をした。
この世界に猫という生き物はいないが、愛くるしい見た目のスズランは寮の皆に物凄く可愛がられた。
俺の世界が誇る愛玩動物であるため、可愛がられるのは当然である。
スフロアもスズランを撫でたり、餌を与えたりと可愛がっていたが、召喚する時の触媒に使った物を言うと、スフロアの顔が一気に青ざめたのを覚えている。
俺達は唯一、あの化け花をこの目で見たためそれの危険さを知っている。
こんな可愛い見た目をしているスズランだが、スズランが少し本気を出せばこの寮くらいはものの数分もしない内に崩壊させる事が出来る。
あの化け花はそういう存在だった。
とにかくこれでスフロアは大人しくなったので、後は俺が気合で口の主導権をアズモに握らせなければどうとでもなる。
「……よし、よくやったスズラン」
「ナーン」
どうにかなったので、スズランを手招きし俺の膝の上に誘導した。
労わるように撫でながら、話をやっと始める。
「この前内通者の事はスフロアに言ったよな」
「えぇ、聞いたわ。赴任して来たあんた達の兄姉と捜しているのでしょ?」
俺達の理解者であるスフロアには、この学園にエクセレを利用して俺の事を害そうとしている内通者が居る事を伝えてある。
当初はこの事にスフロアを巻き込むつもりなど微塵も無かったが、俺が思い詰めているのに気付いたスフロアが俺に詰めて来て、アズモが暴露した。
それからと言う物、この件で何かがあるとスフロアに言うようにしていた。
「それに進展があったんだ」
「あら、それは良かったじゃない。犯人が分かれば怯える事無く学園生活を送れるものね。それで、その進展って具体的にどんな内容なの?」
「ああ、ブラリの話で繋がっている奴の目星がついたんだ」
今日、ブラリの昔話を聞いて内通者に目処が付いた。
ブラリから聞いた話は衝撃の連続だった。
未だにあの話の全てを受け入れる事は出来ていない。
だが、あの話が真実なら一組に在籍している二人も危ないと思い共有する事にした。
兄姉にも相談する事無く俺達だけで堰き止めておくにはリスクが高かったので、せめてスフロアには伝えておきたかった。
「差し支えなければ聞いてもいいかしら?」
スフロアの言葉に頷き、緊張しながら内通者だと思われる生徒の名前を出す。
「内通者は……ダフティだ」
その言葉を聞いたスフロアは目を見開いた。
スズランちゃんはとても強いです。
五十七話で冒険者ランクという物を出しましたが、
野良竜は厳密には冒険者ランク2以上で10人以上の魔物で討伐隊が組まれます。
この物語で過去に出て来たモンスターの強さを冒険者ランク+人数で表すと、
ブラリの回想で出て来たダンジョン道中のコボルト
冒険者ランク8以上かつ1人以上
ダンジョンボスコボルト
冒険者ランク7以上かつ3人以上
ボス部屋地下に居た獣頭の化け物(単体)
冒険者ランク4以上かつ5人以上
アズモの実家の近くの山に生息していた多腕熊
冒険者ランク5以上かつ5人以上
野良竜
冒険者ランク2以上かつ10人以上
キンディノスフラワー(元スズラン)
冒険者ランク1を数人含めたランク3以上からなる20人以上で結成された連合隊
あくまでも目安ですが、上記のランクと人数で討伐出来るとされています。
なのでスズランちゃんはとても強いです。
まともな教職者でしたらクラス対抗戦で使用するのは禁止して当然ですね。
なお、キンディノスフラワーにとって多腕の熊はおやつでした。
時々スズランちゃんはルクダを見て涎を垂らすらしいですね。
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あとよろしければ誤字報告もお願いします!
この後書きを書くに当たって過去の話を見返してたら、
物凄い誤字脱字をしていてビックリしました。
お見苦しい物を見せてしまって本当に申し訳ないです…。
一話でアズモのファミリーネームの方を間違えていたのは、
墓場まで持っていくので忘れていただけたら大変ありがたいです…。




