七十三話 「この子のお父さんはあんなに素敵な竜なのに……」
「なんか謹慎になったらしいわね、何したらそんな事になるわけ?」
特別課題を終わらせ寮に帰ると、エントランスで呆れた顔をしたスフロアに声を掛けられた。
「あ、アズモちゃんお帰り~」
見ると、ソファでルクダがスフロアにお菓子を食べさせられていた。
よく寮で見る光景だった。
この二人は俺が寮に帰って来てないのに気付くと、エントランスで出待ちをしてくる。
そしてよくイチャついている。
共用玄関だって言うのに、周りの目を気にせずによくもまあここまで堂々とやるものだとアズモがよくブツブツ言っている。
当然だが、アズモは人目を引くのも得意では無いのでこの空間に混ざるのを止めろとも俺によく言う。
「二人共ただいま、おかえり。ここに居るのもあれだから俺の部屋行こうぜ」
靴を脱ぎ、水色の尻尾を引きずりながら二人にそう言った。
宿主がここに居たく無いと言うなら、寄生している俺はそれに従うのみだ。
こういうのが案外、仲良く居続けるコツだと思う。
『六歳の女子を部屋に誘いながら何を偉そうに』
宿主からご意見を承りましたね。
一体何がご不満なんでしょうか。
『その気色の悪い喋り方を止めろ。あと私だって喋ろうと思えば喋れる』
……そこまで言うなら食堂に行って衆人環視の中友達とお喋りでもするか?
『部屋の方が良いと思う。周りに人の目があるとスフロアも喋りにくくなる』
スフロアはアズモと違って……いや、何でも無い。
部屋に行こうか。
「どうしたのアズモ? なんか凄い葛藤があったようだけど?」
「ああ、取り敢えず勝っといたから問題は無いぞ」
宿主と楽しくお喋りをしていたらスフロアに疑問を投げかけられたので、簡潔に返しといた。
スフロアは俺とアズモの事情を知っている数少ない理解者だ。
俺がアズモに憑依している事も、俺達がこうやって口に出さずに頭の中だけで会話している事も知っている。
「そう……。またアズモは諭されたのね。ただでさえ、精神的引きこもりなのに、身の程も分からずに噛みついて来たのね……」
そしてスフロアは器用に俺達の事を呼び分ける。
アズモというルビが振ってありそうなアズモ、コウジというルビが振ってありそうなアズモを使い分けて俺達の名前を呼んでくる。
最近はこの技術が進化したのか、だいぶ無茶な言語を使ってきている感じがする。
『……! あいつ、今言ってはいけない事を言ったぞ……!』
気のせいだろ。
言葉に棘があった気はするけど、そこまでの事は言って無いと思うぞ。
スフロアは意味深な風に喋っているのかもしれないが、俺はその意味を理解出来ていないのでいつも受け流している。
何て言っているかは分からないが、きっと仲が良い故の会話だろう。
「アズモちゃん、これなーにー?」
真のお荷物を引きずりながら、自部屋に向かおうとするとルクダにそう言われる。
ルクダは俺の引きずっているそれをツンツンしながらそう言っていた。
「これは、ディスティア姉さんから愛の鞭を受けたラフティーの成れの果てだ」
「えぇっ!? これラフティーちゃんなの!?」
ルクダは黒く焦げていたそれをひっくり返すと、タオルを取り出しラフティリの顔を拭いて綺麗にする。
「なんでそうなっているのよ……」
「俺達は今謹慎中で課題が出ている訳なんだが、あろう事かこいつは今日分の課題を一つもやらずに提出して帰ろうとしていてな……。ディスティア姉さんが複雑な表情をしながら折檻していた……」
「えぇ……」
俺の話を聞いたスフロアは頭を抱えた。
「嘘でしょ。この子のお父さんはあんなに素敵な竜なのに……」
スフロアは保育園時代に、ラフティリのお父さんであるフィドロクアに命を救われ、ボディーガードとしてギョサブロウも与えられた。
フィドロクアにとても感謝しながら、その娘のラフティリと親交を深めている。
そして、親との子のイメージがかけ離れ過ぎているせいか、度々眩暈を起こしていた。
「ラフティーちゃー-ん!!!!」
対してルクダは、ラフティリのお父さんが水龍である事を知っているのか知らないかは分からないが、臆する事無くラフティリと仲良くしていた。
保育園時代の時に、訳ありの俺達と最初に友達になってくれた女の子でもある。
きっとルクダは誰であろうが、仲良くしてくれる優しい子なのだろう。
ラフティリの頬をペチペチ叩いたり、肩を揺すってみたりするルクダを見ながら俺はルクダとの出会いを思い出していた。
ルクダは俺達の保育園時代を支えてくれた友達だ。
いつかルクダにも俺達の事情を打ち明ける事が出来たら良いなと思った。
「む、むえー……」
「あ、ラフティーちゃんが気付いたよ!!」
スフロアが呆れながら、水魔法で生成した水滴をラフティリの顔に何発か当てるとラフティリは意識を取り戻した。
「そうか。水龍の娘だし、水を与えたら回復するのか……。よし、ルクダ! こいつを風呂に入れてやってくれ! よく考えてみたら今のままのコイツを俺の部屋に入れるのはとても嫌だ!」
部屋が汚れるし、あの部屋は俺一人用の部屋では無い。
同学年のダフティと、六年生で俺達の監督をしてくれているイエラもあの部屋で過ごしている。
こんな炭みたいに燃え尽きたラフティリを部屋に入れる訳にはいかない。
「分かったアズモちゃん! ちょっと行って来るね!」
ルクダは俺の言葉を聞くと、ラフティリを背負って凄い勢いで走っていった。
どんなに子供らしく、可愛らしいルクダでも熊の魔物である。
ラフティリを抱えて走るくらい造作も無い。
「さて、俺達は一足先に部屋に行くか」
「あんたも風呂に入らなくて良いの? ほら、人が沢山いると入るのを嫌がるじゃない。今の時間なら利用している人が少ないし狙い目よ?」
当然だがスイザウロ学園の寮は、男子と女子で分かれている。
そしてここは女子寮だ。
そして、この寮の風呂場は俺にとって地獄以外の何物でも無い。
若い子と風呂を共にするのは、罪悪感で押し潰されそうになるのだ。
嘗て、この寮の管理人に「心は男の子なんです」と訴えた時があるがどうにもならなかった。
スフロアの意見はとても有難い物ではあったが、俺には先にしておくべき事がある。
「二人じゃないと話せない事があるだろ?」
「え、それって……!?」
スフロアは口を手で覆い顔を赤くした。
「内通者の話がしたい」
俺達の理解者であるスフロアには、ブラリから聞いた話を共有しておきたかった。
スフロア「……なるほどね!」
アズモ「おやおや」
そう言えば二章のあらすじを書いてみました。
あらすじ難しいですね、しっくりこないです。
二章が終わったらあのあらすじは消します。
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