七十二話 『私は今泣いている』
「魔物と人間の共存って可能だと思うかな?」
ブラリが俺達を見据えながら、そう聞いて来た。
改まって何を聞いて来るのかと思ったら、共存出来るかどうかか。
それをアズモの身体という魔物の器で、アズモと俺で二つの心がある俺達に聞いて来たという事は誰でも答えられるような当たり障りの無い事では無く、俺達にしか答えられない事を期待しての発言だろう。
だが、俺達はきっとブラリの期待する答えは出せない。
俺達だからこそ、そこは噓偽り無く真摯に答える。
「……魔物と人間の共存は難しいと思う」
「どうしてそう思うの? 二人は、その一つの身体でずっと過ごす事が出来たんだよね? なら共存出来るって思うもんじゃないの?」
そう聞いて来るブラリの声は少し荒れているように感じた。
やはりこの答えは、ブラリの期待していた答えでは無いのだろう。
だが、ブラリには悪いが正直に答えていく。
「俺達がここまで一緒に過ごせているのは、俺とアズモだったからだ。俺達が特別だった」
「君達が特別……?」
「ただ俺とアズモの相性が良かっただけだ。魔物と人間とかそんな事は関係無い。俺とアズモだったからここまで特に何の問題も無く過ごせただけに過ぎない」
「……」
俺の言葉を聞いてブラリは黙り込んでしまった。
そんなブラリの様子に気付きながらも、俺は自分の意見を言う。
「この身体の持ち主がアズモじゃ無かったら、こうはならなかったと思う。それこそ、オミムリやエクセレだったら俺はきっとこうやって今喋る事も無かった。誰とも関わる事無くずっと静観していたと思う」
「それは、極端過ぎないかな……? 魔物の中でも一部の危険な魔物だよ」
「アズモも魔物として希少な部類だろ。竜王の娘でおまけに好奇心旺盛なはずの二歳の頃から喋るのが苦手で俺にずっと喋るのを任せているんだぜ?」
「それも確かに特殊だとは思うけど……」
度々忘れかけるが、アズモ達はまだ六歳児だ。
俺が六歳の頃なんて、鼻水垂らしながらひたすら虫を捕まえていた記憶しか無いぞ。
それなのに俺の周りの六歳児と来たら、週末に映画館にラブコメを見に行こうと誘って来るスフロアとか、大人を舐めた言動を繰り返して教師を困らせるブラリとか、授業中に分厚い難しそうな本を広げてブツブツ言いながら机を爆破させるムニミーとか、好奇心旺盛な年頃のはずなのに俺に全ての行動を委ねているアズモとか六歳児らしからぬ子供が多い。
魔物の子供ってどこも感じなのか?
早く寮に戻って年相応に元気一杯なルクダをナデナデしたい。
『おい』
どうしたアズモ?
『私は今泣いている』
頬を触ってみたけど濡れていなかったから、気のせいだぞ。
『心で泣いている。……私は別に喋るのが苦手な訳では無いからな。コウジに任せた方が良いと思っているからそうしているに過ぎないだけだ』
そういう事にしといてやるよ。
そのお陰で共存出来ていると言われても過言では無いからな。
「そもそも一つの身体に二つの心が入っているって時点で特殊じゃないか。言っとくが、俺が憑依した先がアズモだから共存出来ているというのは間違いじゃないからな。例え、俺の憑依先がアズモじゃなく、人間だとしてもこう上手くはいかない。俺達の共存が上手くいっているのはアズモが言動をほぼ全て俺に任せているからだ。人間だから、魔物だからとかじゃなく、アズモだから俺達は一緒に居られている」
「無茶苦茶じゃないか……僕はそう言う事を聞きたかった訳じゃ無いんだけどな」
やはり、俺の言った言葉はブラリの期待していた言葉では無かったらしい。
「アズモちゃんはどうなの?」
「……私もコウジと同じ考えだ。腑に落ちないけどな」
「そっかあ……」
俺だけじゃなくアズモにも同じ事を問うが、同じ答えを返されてブラリは項垂れた。
可哀想だが、嘘偽りなく本心で言うとこの答えにしかならない。
憑依先がアズモだったから、俺達は仲良くここまで過ごす事が出来たんだ。
「……魔物と人間の共存は難しいだろうな。だが、出来ない事も無いと俺は思っている」
項垂れるブラリに俺はそう言った。
その言葉を聞くと、ブラリは顔を上げ俺を見て来る。
「そう言うのが聞きたかったんだよね! ちなみにどうしてそう思うの?」
「こうして俺が今、ブラリと話せているからな。魔物と人間は仲良くする事が出来るって証拠だろ? これに関して俺が特別って訳じゃない。ブラリと一緒に冒険した人間だってお前が魔王の息子と聞いても嫌な顔をせずに冒険を続けてくれたんだろ?」
「うん、そうだね。……うん。三人共僕を邪険にする事なく一緒に冒険してくれたよ」
「そうやって仲良くする事が出来るなら共存する事が出来ると思う。俺の居た世界には魔物が居なかったが、人間同士の争いが絶えなかった。同じ種族でも争いは起こる。だから、種族とか関係無く仲良く出来る人達で一緒に過ごせば共存も出来るだろうな」
「人間しか居ない世界でも争いって起こるんだね。そして仲良い人達だけで過ごすなんて理想論だよ」
「そういう国をブラリが作ってくれれば良い」
「……簡単に言ってくれるね。でも、そういう国が作れたら良いね」
ブラリは目を瞑って思考に耽る。
どうやらやっと、ブラリの期待していた物に近い答えが返せたようだ。
「やっぱり僕は初等部が終わったら人間の国に留学に行くよ。そこで色んな人間を見て来る」
「ああ、そうしたら良い。俺みたいな素敵な人間に会えると良いな」
「コウジって結構自己肯定感が高いよね」
「事実は事実だから」
俺はこの世界に来る前は割と色んな人にお節介を焼いた、
困っていそうな人を見たらほっとけなくなるからだ。
まあ、そのせいでオミムリに粘着される事になっていたみたいだが。
「そういう事にしていてあげるよ」
ブラリはにこやかに笑いながらそう言った。
どうやら俺の言った事を冗談だと捉えたらしい。
だが、今のブラリの笑顔は憑き物が取れたような清々しい笑い顔だった。
いつもよくやるニヤニヤとした不敵な笑い方では無かった。
「そうと決まれば、クラス対抗戦の対策を練らないとね」
きっとこいつは、将来良い魔王になるんだろう。
その時に俺達がどうなっているかは分からないが、この国はより良い国になっていそうな気がする。
ブラリを見ながら俺はそう思った。
「……いや待て、対策って言ってもどうするんだ。俺達は今生徒指導室に居るんだぞ。他のメンバーはどうする」
良い話をした風に終わろうと思ったが、目先の問題を思い出した。
俺達は喧嘩をしたせいで生徒指導室登校になっている。
四日間ここに軟禁されるのだ。
その間、教室に行く事は禁止されているため他のメンバーと接触する事が出来ない。
「そこら辺は完璧だよ」
ブラリがそう言うと、タイミングを見計らったようにドアの開く音がした。
まさかと思い振り返ると、クラスメイトが二人立っていた。
「遅れて申し訳ありません、ブラリ様」
「来たわよ!」
スフィラとラフティリだった。
二人が何故か、生徒指導室にやって来た。
「どうして、スフィラとラフティーがここに……?」
信じられない物を見たと思いながら俺は二人に質問をする。
「ラフティリ様と喧嘩をしたため私達も学校謹慎となりました」
「なんかスフィラが急に殴りかかって来たから返り討ちにしてやったわ!!!」
眩暈がした。
〜ブラリがアズモコウジに殴り掛かってた時の別室にて〜
ラフティリ「話って何よ」
スフィラ「隙あり(抜刀)」
ラフティリ「!!!???」
……。
ラフティリ「なんとか勝ったわ!!!」
スフィラ(このドラゴン脳筋の癖に強すぎますね…)
ブラリの策略により予備の生徒指導室で喧嘩及び大破させたため全員同じ指導室にぶち込まれたそうな。
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