七十一話 『答えはもう決まっているのだろう?』
ブラリは長い長い語りを終えた。
ブラリの口から紡ぎ出された言葉は衝撃の連続だった。
子竜を拾った事、ダンジョンで未発見の地を見つけた事、ブラリ自身が死にかけた事、小竜が死んでしまった事、ダフティが異形化を遂げ人間の冒険者を殺した事、エクセレが現れた事。
どれも六歳の子供が一人で抱えるには重い話だった。
だが、一つ気になる事があった。
「ブラリの犯した禁忌は分かった。……俺は前にダフティから、ブラリが今語った事を簡易的に聞いた事がある」
「ダフティから? でもダフティはダンジョンで遭った事を覚えていないはずだよ」
「ああ。ダフティもお前とフィラフトという小竜を見た後の事をよく覚えていない。そう言っていた」
前にダフティが言っていた話は、ブラリが言っていた話の内容と合っている。
だが、ダフティ話はそこで終わり。
しかし、ここから続きがあった。
「ダフティは、その事件があったからブラリが人間嫌いを発症したと言っていた」
「……僕が人間嫌いか」
「ブラリの話が本当なら、人間を嫌いになる理由が無いっていうのは分かる。だが、ダフティが嘘を吐いているとも考えにくいんだ」
「ダフティが嘘を吐くなんて考えにくいよね……」
ダフティがあの日、語ってくれた事である小竜の角にまつわる話。
あの話が合ったから俺はブラリが内通者なんじゃないかって一時期考えもした。
人間嫌いというのは何なのか。
その事件があってからブラリは人間と距離を取るようになったのか?
ブラリの何の行動を見てダフティは、「人間を嫌い始めた」などと思ったのだろうか。
『だが、コウジの答えはもう決まっているのだろう?』
アズモの声が聞こえた。
こいつは俺とずっと一緒にいるだけあって、まだ俺が言って無い事でも簡単に当ててくる。
ああ、勿論だ。
どっちを信じるかなんて決まっている。
「そのダンジョン、惑わしの鍾乳洞窟に行って宝物庫のスイッチを押せばブラリの話の真偽は分かる。けど、俺達にはそんな事をしなくても既にお前の事を信じられる要素がある」
「僕の事を信じてくれる要素? やっぱ喧嘩をしたのが良かったのかな」
「あれマジでアズモに不評だったからな? 二度と吹っ掛けて来るなよ?」
ビリビリして不快だったとアズモ何回も言って来た。
しかも喧嘩をしたせいで今は学校謹慎。
ディスティアの手も煩わせながら四日間生徒指導室で軟禁。
喧嘩をして仲を深めるという話はあるかもしれないが、その後の代償が大きすぎた。
少し打ち解けた感じはしない事もないが。
「……ったく、それじゃ無くて修練場での事だよ。お前が血相変えてエクセレに突っ込んだ事があっただろ?」
「あぁ……あの時の事だね。あの時妹を連れ去ったエクセレは僕にとって仇なんだよね。あの時からダフティの髪の毛は黒いままだよ」
癖だらけのブラリの黒髪と、綺麗に整えられたダフティの黒髪。
色々と正反対な双子の唯一の同じ点だと思っていたが、あれは異形化をした後遺症だったんだな。
「エクセレは俺達の敵なんだ。内通者と繋がって、仕掛けてくる危険な姉さんだ。そして、ブラリにとってもエクセレは敵なんだろ? だから、俺達はブラリを信じる事が出来る」
「敵の敵は仲間か……。でも、俺達なんだね。アズモちゃんも僕の事を信じてくれているんだ」
「アズモは——私は初めからお前の事など疑っていなかった。寧ろ喧嘩を吹っ掛けられて最近嫌いになった」
俺がアズモの事を、アズモの代わりに喋ろうと思ったが、そんな必要は無かったようだ。
しっかりと自分で喋ってくれた。
「だとよ」
「そっか、以外と優しいんだね。二人共」
「まあな。……だが、お前の話が本当だとすると、冒険者三人はどうしたんだ? 殺してしまったって事なんだろ?」
もしそのまま放置していたら大問題だ。
王族がダンジョンで民を殺して隠蔽したって事になる。
そうなると、俺は友達としてその間違いを正さなければならない。
「三人の死体は保存しているよ」
「保存?」
「時期が来たら蘇らせてもらおうと思ってね。あの時から三人の時間を進めずに保存しているよ」
「蘇らせるって、そんな事が出来るのか……?」
「コウジは分からないだろうけど、この世界にはそういう不可能を可能にしてしまう人達がいるんだよね。君の家族とかが良い例だよ。例えば、ディスティア先生は終わった命を屍としてまた始めさせる事が出来る」
屍龍として名を馳せるディスティアは、修練場で数多の屍を操っていた。
オミムリを圧倒し、エクセレも追い詰める強さを持っているネスティマス家四女だ。
確かにディスティア姉さんなら、死体を屍として蘇らせる事は出来ると思うが……。
「まさか、ディスティア姉さんに頼むつもりなのか? 骸骨として蘇るって事だぞ?」
「いや、骸骨だと蘇らせた時に流石に何か言われそうだからね。だから、君達の長男に頼むつもりだよ」
「アギオ兄さんにか?」
「あぁ。無限龍と呼ばれるアギオ・ネスティマスなら、三人を元の状態まで戻す事が出来るからね」
アギオ兄さんにはまだ一度も会った事が無い。
親父曰く、アギオにしか出来ない事があるため各地を旅してもらっている。との事だが、人を蘇らせる事が出来るなら忙しくもなるか。
「まぁ、死体を放置しているって点では変わりないけどね。でも、妹を人殺しにしてしまう訳にはいかなかったから。僕が全部上手くやるしかないよ」
「……そうか」
友達としてどうするのが正解なのだろうか。
俺の世界だったら、友達が人を殺したのを庇っていたら、友達の為を考えて警察に出頭させるか告げる。
この世界だと、どうするのが正解なんだ。
人を蘇らせる術があるこの世界なら、自分で後始末をつけさせるのが正解なのだろうか。
「俺はどうすれば良いんだ? アギオ兄さんと繋げれば良いのか?」
「そうしてくれると助かるよ。早くエクウス達を元の生活に戻してあげたいんだ」
「分かった」
ディスティアかテリオに言ったら、どうにか手配してくれるだろう。
どうして呼ぶ必要があるんだ? と、聞かれた時用の言い訳を考えておく必要はあるが。
「後、コウジとアズモには次のクラス対抗戦でダフティを倒して欲しい」
「俺達がか? ブラリがその役目を担わなくて良いのか?」
「人間を否定するダフティを、人間と魔物、二つの心を持つ二人に倒して欲しい。そうすればきっと、ダフティの髪の色も元に戻る」
「分かった……」
次の俺達のクラス対抗戦の相手は一組だ。
一組には、スフロアとルクダ、そしてダフティが居る。
ダフティはブラリが倒す物だと思っていたが、俺達がその役目を果たさなければならないらしい。
今年の新入生の中で一番の成績を取って学園に入学したダフティ。
俺達でダフティの相手が務まるのか、自信は無いがブラリのお願いならやるしかない。
「それと二人にはどうしても聞きたい事があるんだ」
長い前髪の隙間から見える黒い目で俺達を見据えながら、ブラリがそう言った。
「なんだ?」
俺は至って真面目にブラリに話を促した。
今日のブラリはずっと真面目だ。
人には言えないような話を全部俺達に洗いざらい話してくれる。
こんなに改まって次は何を俺達に聞こうとしているのか興味が湧いた。
「魔物と人間の共存って可能だと思うかな?」
生徒指導室の扉に寄りかかるディスティア「なるほどな……」
久しぶりに主人公を登場させる事が出来ました。
とは言えブラリも好きなので、いつかブラリが主人公の話を書きたいですね。
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