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七十話 ブラリの昔話 悪魔になってしまったんだ2

残酷な描写あります。


「…………!!?」

「どうして人間如きの死にそんなに驚いているのですか? こんなに弱い生き物なのですから死ぬのは当たり前ではないですか?」


 エクウスの頭が靄に解放され地面に落ちる。

 ゴトと嫌な音がし、地面を転がり僕の足に当たった。


 僕は思わず、ダフティを睨んだ。

 僕に睨まれたダフティはきょとんとした顔をしていた。


 どうして、僕に睨まれたのか心底分からないという表情だった。


「……自分が何をしたのか分かっているんだよね、ダフティ?」

「はい。フィラフトを殺した人間を殺しました」


 ダフティは淡々と答える。

 そこには罪悪感なんか混ざっていなかった。

 当然な事をしたという反応しかなかった。


「……どうして殺したの」


 声が自然と震える。


「兄様をそこまで追い詰め、フィラフトを殺した人間なので殺しておきました。これで危険は去りましたね」

「…………どうして」

「……?」


 言葉を飲み込んだ。

 ダフティを責めたかった。


 僕はダフティが異形化しないように必死に説得を試みるつもりだった。


「どうしてもう、異形化しちゃっているんだよ……」


 もう遅かったんだ。

 フィラフトの死と僕の姿を見た時にはもう遅かったんだ。


 最初から遅かったんだ。

 会話を試みた時には既に異形化を終えていた。


「……どうしたのですか兄様? あぁ、そうでした。まだボス部屋前にいた仲間の処理がまだでしたね」

「やめろ、ダフティ!」


 ダフティに向かって叫ぶが、ダフティは止まってくれなかった。

 黒い靄が飛んで行き、すぐに戻ってくる。


「うわああ!! なんだこれ!!!」

「身体に纏わり付いてくるぞ、どうなってんだ!!」


 逃げていたビスティーと、カドウスが運ばれて来る。

 二人共、宝物庫に残った僕らの事が心配でまだ近くに居たのだろう。


 そのせいで、ダフティに見つかった。


「ビスティー! カドウス! ……やめて、やめてよ、ダフティ!!!」

「ブラリ無事だったんだ! 俺らだけ逃げてすまなかった! 死んでもお前らと戦うべきだった! 俺らでも何かが出来たかもしれねえ!」

「待て、ブラリだけか? 小竜とエクウスはどうした」


 逃げた事を謝るビスティーと、フィラフトとエクウスが居ない事を訝しむカドウス。

 二人の口に黒い靄が纏わり付く。


「人間の言葉なんて聞きたくなかったですよね、ごめんさない兄様。塞ぐのが遅れました」

「ダフティ、僕の言葉が届いているなら二人を解放してあげてくれ!」

「それじゃあ兄様、危険の排除をしますので見といてくださいね」

「お願いだから聞いてくれよ! ダフティ!!!」


 僕の言葉はもうダフティには届かなかった。


 ダフティは背中に生えた黒い翼を大きく広げ、黒い靄を大量に出現させる。

 その姿は鬼では無く最早、悪魔だった。


 心優しいダフティは異形化で悪魔になってしまったんだ。


「フィラフトは身体を何かで無数に貫かれて死に、兄様は全身大火傷ですよね。……仇の取り方が決まりました」


 黒い靄を集結させ何本もの槍が出来る。

 同時に、ダフティは両手で大きな火球を二つ生成した。


「ダフティ!!!!!」


 必死に叫ぶもダフティは僕を見る事無く、槍と火球を発射した。


 槍はビスティーに飛んで行った。

 ビスティーは目を見開き、迫る槍を見つめた。


 槍はそんな目をまず貫いた。


「——————!!!」


 声にならない悲鳴が聞こえる。


 槍は次々とビスティーに刺さる。

 眼球や首や頭などは小さい細い槍が無数に刺さり、ビスティーの大きなお腹や手足には太い槍が刺さっていく。


 槍が刺さる度にビスティーは身体を震わせていたが、その内ビクビクと動くのみになり、僕の声が枯れる頃にはピクリとも動かなくなった。


 火球はカドウスに飛んでいった。

 カドウスよりも大きいメラメラと燃えた赤い炎が挟むように、カドウスの前後からゆっくりと迫る。


 僕は必死に叫んだ。

 この火傷はビスティーもカドウスも何も悪くないと。

 獣頭の化け物の吐息にやられたんだと必死に叫んだ。


 火球がカドウスに当たる直前、迫る熱に身を焦がし始めたカドウスと目が合った。

 カドウスは諦めたような表情をしていて、僕と目が合うと優しく微笑んだ。


 それがカドウスの最後の表情となり、カドウスは炎に包まれた。

 炎はカドウスを包み込んだまま暫く残り、炎が消滅する頃にはカドウスの全身は炭のようになっていた。


「これで安全になりましたね、兄様」


 ビスティーとカドウスを殺したダフティはそう言いながら、僕に笑顔を向けてきた。


 ダフティの顔はとっくに黒い靄に包まれていて見えなかったが、長い間一緒に居たから笑っているんだと分かった。

 いつもと変わらない笑顔なのが、とても不気味で怖かった。


 僕が、家を抜け出してダンジョンに来たせいで、四人が死んだんだ。

 フィラフトが死に、ダフティが異形化して、エクウスが殺され、ビスティーとカドウスも殺された。


「ははは……」


 気が狂いそうだった。


 ダフティがエクウス、ビスティー、カドウスの三人を殺してしまった。

 妹は今日、人殺しになった。


 僕はこの現実とどう付き合っていけばいいんだろうか。


 ダフティは正気に戻るのだろうか、異形化によって人を殺してしまった場合はどうなるのだろうか、王女が殺人をしてしまったなんて国に影響は無いのだろうか。


 これからどうすれば良いのかちっとも分からない。


 ただ、何故か背中に違和感を覚えた。

 頭に靄が掛かって自分がどうにかなってしまいそうな気がした。


 最悪な未来を避ける為に僕は何になれば良い?


「——異形化の気配を感じて来たが、面白い事になっているな」


 思考の沼にハマりかけると、知らない声が聞こえた。

 声のした方向を向く。


 いつの間にか、黒い靄による僕の拘束は解け自由に動けるようになっていた。


 声の方向では、ダンジョン内だと言うのに雲が漂っていた。

 雲は靄を退け大きくなり、人型を生成する。


 何かが出て来る予感がし、ダフティを守るように間に入った。


「兄様……?」

「大丈夫だよ、ダフティ。僕が全部上手くやるよ」


 やがて雲で出来た人型から予想通り何者かが現れる。


 黒い髪の女性だった。

 切れ長な目を僕達に向ける女性は冗談の通じなさそうな雰囲気を纏っていた。


 そして僕達じゃ相手にならない程、強い事が直感で分かった。


「一人は理性が残っているのか。面白い」

「何しに来たの?」


 僕達に面白いと言った女性にそう聞いた。

 言葉通じる相手なら、会話でどうにか穏便に済ませたい。


「お前達を引き取りに来た」

「僕達を?」

「あぁ、そうだ。だが、お前の方は理性があるようだ。引き取るのはそっちの黒い方だけだな」


 何を言っているのか全く分からなかった。


 僕に理性がある?

 そんなの当たり前じゃないか。


 言っている事が分からなく、強さの底が全く分からない相手。

 だけど、ダフティを取ろうとしている事は分かった。


「悪いけどダフティはあげないよ。僕の大事な妹なんだ」

「兄妹か……」


 雲から現れた女性は僕とダフティをジロジロと見て来る。

 瞳を見ても何を考えているのかよく分からないが、何か思い詰めているようだ。


「妹が悪魔で、兄は……なるほど。理性が戻ったら、この子はお前の元に返してやろう」

「……!?」


 謎の女性の手元にはいつの間にかダフティが居た。

 慌てて後ろを見てもダフティは居なく、代わりに雲が漂っていた。


「ダフティを返せ!」


 ダフティを取り返す為に、謎の女性に突撃するがヒラリと躱される。


「力を持ったばかりで私に勝てる訳が無い。大人しくしていろ」

「妹を取られて黙っていられる訳がないだろ!」


 雷の魔法を連射する。

 だが魔法は全部、女性の周りを漂っていた雲に吸収された。


 雷を吸収した雲は黒くなり、光る。


「長居をすると、私の兄妹も来てしまいそうだから私はもう消える。だが、妹は必ず返すから安心しろ」


 女性の身体はダフティを抱えたまま再び雲に包まれていた。


「フィラフト……」


 虚ろな目をしたままのダフティはフィラフトに黒い靄を飛ばし、フィラフトを手繰り寄せる。


「子竜か……。お前ら兄妹は……いやなんでもない」

「待ってよ! 僕の家族をそれ以上奪わないでくれ!!」

「必ず返すから安心しろ——」


 女性は雲になって消えてしまった。


 宝物庫には僕と死体だけが残った。


 惨状を見て立ちすくむ。

 妹も取られてしまった。


 どうすれば、全部を取り戻せる……?


 どうなれば、殺されたエクウスとビスティーとカドウスを取り戻せる。

 どんな力があれば、ダフティとフィラフトをあの女性から取り戻せる。


 台座の近く、フィラフトの血で満たされた地面に、獣頭の化け物のドロップ品の他に、白い角が落ちていた。

 それを拾って握る。


 だんだんと、どんな力があれば良いのかがイメージ出来てくる。


「ブラリ様……」


 声が聞こえ、集中を解く。

 振り向くとスフィラが居た。


「スフィラ、手伝ってよ。全部を取り戻すから」



—————



 その後、ダンジョンから抜け城に帰った。

 帰ると、予想通り父さんに物凄く怒られた。


 何をして来たのかを聞かれたが、スフィラと口裏を合わせ僕らでダンジョンを冒険した事にした。

 決して、人間の冒険者と探検して来た事や、フィラフトが死んだ事、ダフティが冒険者を殺した事は言わなかった。


 この秘密は全部を解決してから言う事にした。


 ダフティが何処に行ったかを聞かれると思ったが、ダフティは僕達が帰るよりも先に家に帰って来ていたらしい。


 ダフティはダンジョンで会った事を覚えて居なかった。

 ダンジョンに入った事は覚えているが、ボス部屋で僕を見つけてからの記憶が無いらしい。


 もしかしたら嘘なのかもしれないが、深くは聞かなかった。

 あの後、女性に連れ去られた後に何をされたのかを聞きたかったが、ダフティはそれも覚えていなさそうだった。


 気付いたら家の前に居たというのが、ダフティの証言だ。

 そう言ったダフティの髪の色は僕と同じ黒のままだった。


 僕達は再び、スイザウロ学園の入試対策に戻る。

 ダンジョンであんな事があったが、翌日から日常に戻ったのだ。


 だが各々、入試以外に別の問題を抱えたのは確かだ。


 入試では勉強の甲斐があり優秀な成績を取れ、クラスとクラスメイトを決められる事になった。

 僕はダフティから「同じクラスにしたいです」と言われたが断り別のクラスを選び、必要な人員を集めた。


 ダンジョンでの事があるまでは一緒に居て面白い人を選ぶつもりだったが、目的の為に強くてクラス対抗戦で勝てる人を集めた。


 ダフティとクラス戦で当たった時に、僕達の全ての問題が解決できるように願いながら。



ブラリの昔話はこれで終わりです。

次回から、この話を聞いた主人公サイドに話が戻ります。


まさか、14話も掛かるとは思っていませんでした…。

皆様この物語の主人公を覚えていますか…?

私は怪しいです。


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