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六十七話 ブラリの昔話 きっと毎日が楽しいんだろうな11


「今回はどんなお宝が出てっかなーっと」


 ボスを倒した後に開いた扉をエクウスが潜っていく。


「そんなにすぐ動いて大丈夫なの?」


 心配になり、扉を潜って行くエクウスを慌てて追いかけた。


 惑わしの鍾乳洞窟のボスは苦労したけど倒した。

 巨斧を用いた斬撃に注意しろとの事で斧には当たらないように皆注意していたけど、こちらが優勢になり追い詰められたボスが足技で前衛二人を吹き飛ばした時は冷や汗を掻いた。


「あぁ、大丈夫だ! カドウスの腕が良いからな、ほら!」


 エクウスはそう言い両腕をブンブン振り回した。

 巨大コボルトに蹴り飛ばされ壁に激突し気絶していた面影など微塵も無い。


「——うぐおっ!」

「馬鹿野郎、そんなすぐ動き回るなっての。俺の回復魔法は完璧なものじゃねーんだから」


 呆れた顔をしたカドウスにお腹を小突かれたエクウスは蹲って悶える。

どうやら、腕を振り回して痛くない振りをしていただけだったようだ。


「やっぱり痛かったんだね」

「いてて……。まぁ、俺の事は良いからお宝だぞブラリ」


 エクウスはお腹を摩りながら、宝物庫の中央を顎で示した。


 ボス部屋と繋がった宝物庫は、中央に台座が置いてあるだけの簡素な小部屋だった。

 ボス部屋はステンドガラスや光る石等で趣向が凝らしてあったのに、扉を潜った先は白一色で満たされた殺風景な部屋。


 僕はこの部屋を何故か少し不気味に感じた。


「ここに来るまでは鍾乳石とかで綺麗だったのに、なんでこの部屋だけこうなんだろうね」

「さぁな。でも、台座の上を見てみろよ」


 言われるままに見ると、台座の上には小剣が一つ置いてあった。

 何の模様も無いシンプルな白い鞘で包まれた一振りの剣。


 これが、このダンジョンのお宝なのだろうか。


 手に持ち、刀身を鞘から抜く。

 刀身は綺麗な赤色で染まっていた。


「ほう、短剣か……」


 エクウスが僕の手元を見て、そう呟く。


「綺麗な色じゃねえか。俺達は短剣を使わねえし、ブラリにやろう」

「嬉しいけど、僕が貰っちゃっていいの?」

「今回のMVPは間違いなくお前だ、ブラリ。お前がそれを貰うのが一番相応しい。だろ、お前ら?」

「あぁ、勿論だぜ」

「俺も異議なし」


 エクウスの問いに、ビスティーとカドウスが同意を示す。


「だそうだ。その短剣はお前のもんだぜ、ブラリ。使うなり、売るなり好きにして構わねえぜ」

「なら、貰うよ。ありがとう三人とも」


 僕も短剣は使わないけど、ダンジョンを攻略した思い出にこの武器は売らずに取っておこう思う。

 短剣ならスフィラが使うから、スフィラに渡すのもありではある。


「ギャウ?」

「ん、どうしたのフィラフト」


 短剣を懐にしまっていたら、フィラフトが一点をジッと見つめながら鳴いた。

 フィラフトの見つめる場所、白一色の壁の一点に視線を注ぐ。


「どうしたお前ら? 二人して壁なんか見つめて?」

「なんかフィラフトがあの場所に違和感があるみたい」


 フィラフトの見つめる先が気になり、ボス戦が終わり解いていた魔物化を再び使う。

 目を強化し、フィラフトの見つめる場所を見た。


「驚いたね……。フィラフトにはこれがずっと見えていたんだね」

「ギャウ!」

「お前らには何か見えているのか……?」


 エクウスが僕らにそう聞いて来る。


 僕も目を魔物化させるまでは見えなかった。

 だからきっとこれは、人間には見る事の出来ない物。


 壁まで歩き、その場所に手を伸ばす。


「……手が壁を突き抜けただと!?」

「信じられねえ……」


 エクウス達の驚く声が聞こえる。


 目を魔物化させて分かったけど、白一色のこの壁は一カ所だけ黒色の箇所がある。

そしてそこは凹み、奥にスイッチらしき物があった。


 指で押すと、カチッという音が鳴り、地面が揺れる。

 揺れは少し続き、やがて止んだ。


「お、おい……!」


 揺れの衝撃で腰を抜かしたのか、ビスティーが座り込みながら部屋の中央を見て驚きの声を上げた。


「台座が動いている……」


 カドウスが壁に寄りかかりながらそう言った。


 壁の凹みにあったスイッチを押すと、台座が動いた。

 そして、台座が元々あった場所には階段が出現していた。


「このダンジョンは八階層で終わりじゃ無かったのか……!? おい、ブラリ、フィラフト! お前等よく宝物庫の仕掛けを発見したな!」

「止してよ。僕達が魔物だから気付けただけだよ」

「ギャウ!」

「だとしても、新階層への入口を見つけるなんて大した物だぜ!」


 エクウスは僕とフィラフトを纏めてわしゃわしゃ撫でて来た。

 かなり暑苦しいけど、こうも手放しで褒められるのは悪くは無かった。


「——ブモオオオオ」


 小部屋で和気あいあいとしていたら、不意に声が聞こえた。

 ボス部屋や、新しく出現した階段の先からの声では無い。


 僕らのすぐ近くで何者かの声が聞こえた。


 僕らは一様に、声のした方向を見る。

 階段の上、動いた台座の直ぐ横に毛むくじゃらの化け物が立っていた。


 鍛え上げられた人間のような身体に、長くて歪な形の角を生やした獣の頭。


 全く気付かなかった。

 ここまで接敵を許してしまっているのに、気配も何も感じ無かった。


「こいつはやばい! 逃げるぞお前ら!」


 エクウスが急な敵に驚いて動けなくなっている僕らに声を掛ける。


 慌てて、宝物庫を抜けボス部屋に入った。

 急に現れた敵の事はよく分からないが、ボス部屋も抜けて扉を閉めてしまえば追っては来られないだろう。


 必死に駆けて出口を目指しながら、ふと後ろを見た。


 僕の直ぐ後ろにフィラフトが居て、少し離れてビスティーとカドウスが居る。

 だけど、エクウスはボス部屋と宝物庫の扉をその大きな身体で塞ぐように立ったまま動いて無かった。


 その光景を見た途端に理解した。


 エクウスが僕らを逃す為に、殿を務めようとしている。


 エクウスがあの場所で敵を足止めしてくれたら、確かに僕らは助かるかもしれない。

 だけど、エクウスはどうなる。


 駆けていた足が重くなり、やがて止まった。


 エクウスはボス戦で大ダメージを受けて、まだ本調子では無い。

 宝物庫に現れた獣頭の化け物は気配も何も感じ取れなかった。

 確実に、先程倒したボスよりも強い。


 そして、宝物庫の階段を開けてしまったのは僕だ。


 そこまで考えたら、身体が自然に宝物庫に向けて駆けていた。

 ビスティーとカドウスの声が聞こえる。

 きっと、僕の事を止めているのだろう。


 だけど、僕は止まらなかった。

 僕のせいで、ここまで親切にしてくれて、一緒に冒険をしてくれたエクウスがあの化け物にやられるなんてそんな事はあってはならない。


「ギャウ!」

「フィラフト!」


 走っている僕の隣にはフィラフトが来ていた。

 フィラフトは飛んで僕に並走する。


 僕が突撃する事を決めたからか、それともフィラフトも僕と同じ気持ちで突っ込んでいるのかは分からない。


 だけど、心強かった。

 この二年間で僕達は二人共強くなった。


 フィラフトと一緒ならあの化け物にも勝てるかもしれない。


「ブモオオオオー-!」


 化け物は何やら大きく息を吸い込んでいた。

 その化け物を相手しているエクウスは、僕達に気付くと驚いた顔をする。


「なんで戻ってきた!?」

「ここで僕らだけが助かっても僕は絶対に後悔するから!」


 雷の魔法を獣頭の化け物に飛ばす。

 魔法のリソースを速さに特化させ、超速度の雷の弾丸にして連発する。


 しかし、毛に邪魔され効いている感じは全くしなかった。

 僕のこの雷の魔法は決め手としてはいまいちだけど、搦め手としては効力を発揮する。


 電気を当てる事が出来れば、ごく僅かな間だが相手は確実に怯む。


「ブモオオオオ」


 化け物は尚も息を吸っていた。

 何をしてくるのかは分からないけど、チャンスだ。


 速度を落とし、その分威力に魔力を込めて発射する。


「ブモオオオオ!?」


 今度は効いたようだ。


「二人共今だ!」

「おう!」

「ギャウ!」


 エクウスは斧を振るい、フィラフトは炎ブレスを吐く。

 しかし、化け物が予想以上に早く痺れから回復したのか、紙一重でどちらも回避された。


 そして、化け物は再び息を吸い直ぐに発射してきた。

 炎の溜息だった。


 フィラフトの炎ブレスよりも範囲が広く、色も赤では無く青色の炎。


 その炎が、エクウスに向かって放たれる。


「ごめん、エクウス!」


 僕はエクウスにタックルをし、炎の範囲から弾き飛ばした。

 エクウスの代わりに僕が炎を受ける。


 魔物化した僕なら、人間のエクウスよりも炎を耐えられると思ったからだ。


「ぐうっ……!」


 獣頭の化け物の炎はとても熱かった。

 皮膚が焼け爛れてしまうような火力。

 それが、ずっと消えずに僕に纏わり付く。


「ギャウ!!」


 頭から水をぶっかけられ、纏わり付いていた物が鎮火した。

 フィラフトが水魔法を使ってくれたのだ。


 この二年間でフィラフトが初めに覚えた魔法が水魔法だった。

 僕は雷魔法が得意だけど、ダフティは水魔法が得意だ。

 きっと、ダフティがフィラフトに水魔法の使い方を教え込んだのだろう。


「ありがとう、フィラフト!」


 炎は消えたが、熱さはまだ残っている。

 皮膚がまだ燃えているような感覚がする。


 だけど、吐息を受けたこの距離なら、僕の雷魔法も十分決め手に出来る。


 速度を削ぎ落とし、威力を極限まで高めた雷魔法。

 稲妻形ではなく、最早球体の雷を生成して発射する。



 放った魔法は化け物に一直線でゆっくりと向かっていく。


 流石に危険だと感じたのか化け物は避けようとするが、フィラフトのブレスとエクウスの斧がそれを許さなかった。


「ブモオオオオ!!!!」


 魔法が命中し、化け物が断末魔を上げる。

 だけど、油断はしない。

 完全に事切れるまで、次弾を用意して構えておく。


 やがて化け物は倒れ、角だけを残し消えた。


「ふぅ……」


 化け物が倒れたのを確認すると、座り込んでしまった。

 適わないと思っていた強敵を倒せて安堵感が湧いて来たのだ。


 これで、皆で揃ってダンジョンを出る事が出来る。


 だけど、現実はそう甘く無かった。


「——ブモオオオオ」


 背後で再度、絶望の声が聞こえた。



6000字超えそうだったので分割して投稿します。

描写の都合上ブラリの昔話が少し伸びるかもです。

すみませんが、もう少しお付き合いください。



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