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六十六話 ブラリの昔話 きっと毎日が楽しいんだろうな10


 惑わしの鍾乳洞屈の攻略は順調だった。

 色んな場所から生えている鍾乳石や石筍で方向感覚がおかしくなりかけるけど、既にこのダンジョンを攻略した冒険者であるエクウス達が頼もしく、七階も凄い勢いで踏破した。


 そして今、八階に降り大きな扉を前にしている。


「この扉の向こうにこのダンジョンのボスが居る」


 エクウスがそう言い、場に緊張感が漂う。

 ここまでは本当に順調どころか、余裕だった。


 エクウスとビスティーが前に立ち、僕とフィラフトとカドウスで後ろから援護。

 それがずっと通用し、ここまで来た。


 だけど、この扉の向こうに居るのはボス。

 一筋縄ではいかないと思う。


「ここのボスは、図体の大きいコボルトみたいなモンスターだ。両手にデカイ斧を構えていてそこから繰り出される攻撃の威力は凄まじい。斧二つを一気に振り下ろして来たら俺でも受け止めきれない」


 エクウスがボスの詳細を語り始めたから、静かに聞く。


 このダンジョンではコボルトをよく見た。

 獣のような形をした二足歩行の魔物で、頭には獣耳が生えている。

 盾や剣、斧等と言った武器を構えており、武器を振って攻撃してくる。


 動きは俊敏では無いから、冷静に見て対応すれば避けたりいなしたりする事は比較的容易に出来る。

 正直、そこまで強い魔物では無かった。


 それが強化されて、ボス部屋に配置か。


「このボスの注意するべき所は何て言ったって、恵まれた巨体から生み出される高火力の斬撃だ。それを避けていれば勝てる相手だ。良いか、とにかく避けろ」


 そう言われると、どうにかしてその攻撃を受けきってみたくなる。

 まぁ、ここまで付き合ってもらったエクウス達の迷惑になるからそんな事はしないけど、もう一度来る機会があったらやろう。


「逆に言ったら気を付けるのがそれくらいしか無いボスだ。それに俺達三人で倒した事がある相手でもある。今回も確実に倒してこの後飲みに行くぞ!」

「「うおおお!!」」

「おー!」

「ギャウ!」


 エクウスが発破をかけ僕らは雄叫びを上げる。

 僕はまだ五歳だからお酒は飲めないけど、食事に行くくらいなら出来る。


 帰るのが遅くなってまた父さんに怒られそうな気はするけど、抜け出してダンジョンまでやってきた時点で怒られる事は決まっている。

 どうせ怒られるなら精一杯楽しんでから帰る。


 代表してエクウスが扉に手を掛け開け放つ。

 ボス部屋の中は暗く、様子が窺いづらいが確かに何かが佇んでいる。


 エクウス、ビスティー、カドウス、僕、フィラフトの順で入り、暫く歩くと後ろで扉の閉まる音がした。

 その後直ぐに、部屋の壁に等間隔で設置されていた照明が奥から順に灯る。


 明るくなり、部屋の様子が分かるようになった。


 ここまで来るのに見た景色とは全然違かった。

 鍾乳石や石筍は一つも無く、カラフルなステンドガラスやシャンデリア等の人工物で満たされていた。


 床は真っ白で透き通るような石が敷き詰められており、壁はカラフルなタイル、天井にはシャンデリアがぶら下がっており、ステンドガラスで形作られた装飾品もあった。


 凄く綺麗な豪華な空間だが、この場にそぐわない存在が揺らめく。


 中央に佇んでいた巨大なコボルトの目が黒く光った。


「ブオオオオオオオ!!!!」


 咆哮と共に、腰に下げていた斧を両手で引き抜き、更に吠える。

 さながら侵入者を排除する殺戮機械のようだった。


「俺とビスティーで引きつける! カドウスとブラリとフィラフトは援護を頼む!」


 そう叫び、エクウスとビスティーが抜刀しながら前に出る。


 巨大コボルトは両手を振り下ろし、エクウスとビスティーにそれぞれ巨斧を放つ。

 金属を打ち付け合う音が響き、衝撃波が舞う。


 二人は巨大コボルトの一撃を完全に受け止めていた。


 すかさず僕は雷の魔法を、フィラフトは炎ブレスを、カドウスは風の魔法をコボルトに放つ。


 魔法とブレスはコボルトにヒットし、コボルトはよろける。

 エクウスとビスティーはその隙に巨斧から抜け、胴体に斧と剣をお見舞いする。


「ブグオオオオオ!!!」


 コボルトは叫び、後ろに大きく跳ぶ。

 雷と炎で身体は焦げ、風と斬撃で深い切り傷を負っていた。


 明らかに僕らの攻撃は効いている。


 エクウスとビスティーは再び振り被り近づく。

 コボルトは迫る二人に斧を向けるが、動きが遅れ再び斬撃を二発食らった。


 巨大コボルトは何が起こったのか理解出来ずに、慄く。


「やるじゃねえか、ブラリ!」

「そっちこそ!」


 エクウスとビスティーが再び動き出したのを確認して、電撃を一足先に飛ばして命中させといた。


 威力を殺し、極限まで速度を上げた電撃だ。


 それが当たったコボルトは痺れて動き出すまでに時間が掛かり、二人の斬撃を食らった。

 どんな生き物であれ、脳で考えて動いている以上は電気を通したら一瞬止まる。


 ダンジョン産のモンスターがその理論に含まれるか自信は無かったが、ちゃんと効いてくれたようだ。


 フィラフトとカドウスはこの隙を見逃さなかった。

 炎ブレスと風魔法を再びお見舞いする。


「ブオオオオオオオ!!!」


 追い詰められたコボルトは雄叫びを上げる。


「次で決めるぞ!」


 もう一度エクウスとビスティーが突っ込んで行く。

 コボルトに勝るとも劣らない雄叫びを上げ、物凄い気迫で武器を振り上げた。


「ブゴアアアア!!!」


 しかし、二人の刃は届かなかった。

 巨大コボルトがデカイ図体を上手く翻し、攻撃を受けるよりも早く二人に強烈な蹴りを叩き込んだ。


 斧を使わずに蹴りで来るなんて予想外だったのか、二人は対応出来ずに吹き飛ぶ。

 二人は物凄い勢いでカラフルなタイルに背中から激突した。


 場に静寂が流れたが、直ぐにその静寂を巨大コボルトが破った。

 コボルトは吹き飛ばされ床に倒れ込んだエクウスに駆けていく。


「これは不味いね!」


 僕もエクウスの元に駆けて行った。

 魔物化した今の僕なら、コボルトよりも先にエクウスの元に到着出来るかもしれない。


 速度を上げた雷魔法でチクチク攻撃しながら向かうが追いつきそうにない。

 それでも最悪の事態を迎えないために必死で走っていたら身体が少し軽くなった。


「何をするのか分からんが手伝うぜ坊主!」


 カドウスが風の魔法で僕に追い風を飛ばしていた。


「ギャウ!」


 フィラフトも炎ブレスを断続的に吐いて、コボルトの減速を狙っていた。


 二人のお陰でどうにか間に合いそうだ。


 巨大コボルトが両手に持った斧をエクウスに向けて振り下ろす。

 エクウスに凶刃が迫り、あと数秒でもすれば凄惨な亡骸が出来てしまう。


 だが、すんでのところで間に合った。

 僕は追いつきコボルトとエクウスの間に立って両腕をクロスさせて構える。


 直後、両腕に物凄い衝撃が来る。

 僕が魔物化を使うと鬼のような強靭な身体を得る事が出来る。


 人には再現不可能な膂力と、頑丈さを引き出す。

 全身が硬質化され、並みの攻撃なら一切受け付けなくなるのだ。


「くぉおおおおお!!」


 巨大コボルトに押し込まれそうになるが必死に耐える。

 両斧による叩きつけはボス部屋に突入する前にエクウスが注意しろと言っていた攻撃。


 どうしてあそこまで口を酸っぱくして言っていたのかを今この身をもって理解させられる。

 確かに、この攻撃は重い。


 だけどここで負けるわけにはいかない。

 ここまで親切にしてくれたエクウスに万が一の事が起こるなんて絶対嫌だ。


 指を斧にめり込ませる。

 全身に力を込め、拳を握る。


「壊れろぉおおおお!!!!」


 ガキンという音が響く。

 斧が砕けた音だった。


 驚愕する巨大コボルトを蹴り、向こうに飛ばす。

 流石に壁までは吹き飛ばなかったが、少し距離が出来た。


 コボルトはもう何も持っていない。

 代わりに僕が刃先の砕けた斧を鈍器として持ち迫った。


 丸腰で逃げようとする巨大コボルトにフィラフトとカドウスが魔法を飛ばし牽制する。

 巨大コボルトが一瞬怯んだのを僕は見逃さなかった。


 更にそこに片手で電撃を飛ばし、走る。

 両手で斧を持ち直し、振り被り巨大コボルトに飛び込む。


 両手で持った巨大斧を力任せに、コボルトの頭に叩き込んだ。


「グオオオオオオ!!!!」


 コボルトは断末魔を上げ、倒れた。

 一応暫く待ってみるが、動く気配が無かったので、ゴブリンの元を離れる。


 カドウスはエクウスに緑のオーラを飛ばしていた。

 ダンジョンに入る前に見た回復魔法だ。


 それを見た僕はフィラフトと協力し、ビスティーを引っ張ってカドウスの元に持って行く。


「うぅ……」


 ビスティーはエクウスと違って意識があったけど、動きづらそうにしていた。


「ブラリ、ビスティーをエクウスの隣に並べてくれ!」

「分かった!」


 カドウスに言われるまま、ビスティーをエクウスの隣に並べる。

 カドウスは時折ポーチから青色の液体が入った瓶を取り出しては飲み干し、二人に継続的に回復魔法を使う。


 やがて、エクウスが眼を開いた。


「俺は一体……?」

「やっと気付いたか。ボスに蹴られて気をやっていたぜ、お前は」


 エクウスの問いにカドウスが答える。

 その答えを聞くと、エクウスはガバッと起き上がる。


「そうだ、ボスはどうなった!?」

「ブラリが倒してくれたよ。斧をぶち壊してエクウスを助け、その壊した斧をボスの頭に振るってトドメ」


 エクウスの問いに今度はビスティーが答えた。

 ビスティーは大怪我を負いながらも、戦闘をしっかり見ていたらしい。


「あいつの斧を壊して、それで倒しただと……!? 信じられん。が、確かに扉が開いているから確かなんだろうな。よくやった、ブラリ」


 そう言い、エクウスが拳を握り突き出して来た。


「こちらこそ。楽しかったよ、ダンジョン攻略」


 僕は同じように拳を突き出し、エクウスと打ち付けあった。


 楽しかった。

 だが、これでダンジョン攻略は終わりだ。


 家に帰ったら怒られるだろうし、また入試対策をやる。


 まぁ、でも今日の大冒険をした思い出があったら一年間は頑張れそうだね。


「おいおい、ダンジョン攻略はまだ終わりじゃないぜ?」


 もう終わりだと少し寂しい気持ちでいたら、エクウスがニヤリと笑いそんな事を言ってきた。


「でももうボスを倒しちゃったよ?」

「あぁ、そうだな。だが、ボスを倒したら今度はお宝だぜ」


 エクウスはそう言い親指をボス部屋の入口とは反対方向に向けた。

 視線を向けると、別の扉が開いていた。


「宝物庫が空いたな。あそこから戦利品を持ち帰るまでがダンジョン攻略だ」



次の次でブラリの昔話は終わります。


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