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六十三話 ブラリの昔話 きっと毎日が楽しいんだろうな7


「僕の強さをおじさんに見せるってどうすればいいの?」


 エクウスと名乗る人間のおじさんが、ダンジョンに入りたかったら俺に強さを見せてみろと言ってきた。


「見たところ坊主は魔物だろ」

「凄いね、よく分かったね」


 魔物化をしていない人型の魔物は、見た目が人間とほとんど変わらない。

 尻尾や角、翼を生やしている魔物もいるが、僕にはそういう魔物的特徴が無い。


 だから、ぱっと見では人間にしか見えないはずだ。


「そりゃだって、ダンジョンに行くっていうのにお前は武器を持ってないからな。そんなの、身体をそのまま武器として使える魔物だろうよ」


 言われて見てみたらダンジョンに入ろうとしている人間は皆何かしら武器を持っていた。


 エクウスのように斧を持った者から、杖を持ったお姉さん、鉄球を紐で繋げたよく分からない武器を持ったお爺さんなど多様だった。


 武器を持たないとまともに戦う事も出来ないなんて、人間は大変だね。


「んで、魔物っていうのは人間よりも好戦的な奴が多い」

「そうかな?」

「あぁ、今まで色んな奴を見て来たけど間違いないぜ」


 言われてみたらそんな気がしなくも無い。

 ダフティも闘技や剣技をやる時は生き生きとしながら拳を振るう。


 それに僕も三歳の時には家を抜け出してよく狩りに行っていたね。


「好戦的なのは良いが、自分の実力に見合った事をする。それの確認として俺と戦ってもらう。坊主がこのダンジョンを入るに相応しいかを俺が見てやる」

「おいおい、お前いつからそんな偉くなったんだよエクウス~」


 僕の実力を見ると言ったエクウスが、さっき自分パーティーメンバーとして紹介していた背の高い杖を持った男に揶揄われる。


「んな事言われたってよ、俺達はもう新人を教える立場だしよ。中堅としての責務だ」

「でも、この坊主はまだかなり小さいし、冒険者でも無いんじゃねーか?」

「ダンジョンに入りてぇって思った時点で、未来ある若き冒険者なんだよ」

「出たよ、エクウスの悪い癖」


 同じく、パーティーメンバーの少しぽっちゃりした剣持ちの男も会話に混ざってきた。


 一対二。エクウスが劣勢だ。

 ダンジョンに潜りたい僕としてはなんとかエクウスに勝ってほしい。


「だー! うるせえ! やるって決めたもんはやるんだよ!」


 エクウスは仲間に言われるのにも構わずゴリ押しした。

 見ると、パーティーメンバー二人はそれ以上何も言わずに楽しそうな表情をしていた。


 このおじさんパーティーにどんな絆があるのかは分からないけど、二人はエクウスを止めないようだ。

 いつもの事だったりするのかな。


「それで坊主、やるか?」

「勿論!」


 僕はエクウスの問いに元気に答えた。



—————



 ダンジョンから少し離れた所に移動した。

 ダンジョン周りは人が多すぎて流石に戦うには適してなかった。


「ルールは至ってシンプルだ。全力で来い坊主」


 エクウスは背負っていた斧を地面に置き、拳を構えていた。

 武器を持っていない僕に合わせてくれるようだった。


「それはルールって言うのかな」


 ルールと言う割にはちょっとお粗末過ぎる気がする。


「俺がルールって言ったらルールなんだよ。ほら、いつでも来ていいぞ」

「分かった」


 エクウスは僕に合わせてくれたようだけど、僕には魔物化がある。

 僕みたいに人型の魔物が、魔物本来の力を引き出す能力。

 人間の剣や斧、鎧の代わりになる身体を作りだす。


「魔物化」


 額に角を生やした。

 肌が赤黒くなり、魔物本来の力が湧いて来る。


 父さんは鬼の魔物だ。

 だから僕も魔物化をしたら鬼のようになる。


 目は赤くなり、牙が生え、立派な角が額に出現する。

 全身の色は赤黒く染まり、硬質化する。


 この腕や足を使うだけで、僕は戦う事が出来る。


「それが坊主の本来の姿か……。中々にカッコイイじゃねえか」

「ありがとう。じゃあそろそろ行くよ」

「あぁ、いつでも来い!」


 一呼吸し、エクウスに迫る。

 その勢いを殺さずに、手のひらをエクウスのお腹に当てて力を込める。


 直後、エクウスは物凄い勢いで後ろに吹き飛んで行った。


 飛ぶエクウスに右手を突き出したまま照準を合わせる。

 この二年間真面目に魔法の授業を受けて、やっと覚えた無詠唱魔法。


 電気を手のひらから出し、エクウスに飛ばそうとする。


「ストップ!!!」


 だが、エクウスのお仲間に止められたので、魔法は明後日の方向に飛散させた。


 エクウスのパーティーメンバーの二人がエクウスの元に駆けて行く。

 杖を持った男が、緑色のオーラをエクウスに飛ばし出す。


 何が起こったのか分からないけど、僕も三人の元に駆けて行った。


 エクウスはお腹を押さえて悶えていたが、僕の顔を見るとニヤリと笑う。


「やるじゃねえか坊主。合格だ」

「えっ?」


 呆気にとられる。

 まだ、実力を全然出し切っていない。

 これでもう終わりにしていいのだろうか。


「なんで? って顔をしているぜエクウス」

「俺はもうさっきの一撃でもう坊主の実力は十分分かったから勘弁してほしい」


 どうやら、本当にこれで終わりらしい。


「いるんだよなあ、時々坊主みたいな強い新人が。親切心で実力を見てやろうとしたら驚く程強くて為す術も無くやられるんだよな」

「新人に構うのは良いが、もっと観察眼を磨いてくれ。毎回回復するのも楽じゃないんだぜ」

「すまねえな」


 杖を持った男が飛ばしていた緑のオーラは回復魔法だったようだ。

 暫く緑のオーラを受けたエクウスはいきなり立ち上がり、一つ咳払いをする。


「行こうぜ、ダンジョン。荷物持ちって言ったが、坊主なら戦闘もさせてやるよ」



ブラリの昔話は後3、4話程で終わります。

三十九話にも少しあったように重い話になりますので注意です。


明日明後日は忙しいのでもしかしたら投稿出来ないかもしれないです…。

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