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六十話 ブラリの昔話 きっと毎日が楽しいんだろうな4


「では経緯を言え」


 父さんの部屋に行くと、父さんと竜王様が居た。

 竜王様は壁に寄りかかり、僕に話を促す。


 相変わらず怖い顔をしているな、と心の中で思いながら森であった事を簡潔に話す。


 ここから南西に十キロメートル程行った所に人の手が入っていない森がある事。

 その森に連日通い、魔物狩りをしていた事。

 今日も森に行ったら、小竜に会った事。

 小竜に導かれるまま洞穴に入ったら小竜の親と思われる竜の骨が散らばっていた事。


 全部話した。

 もうあの森には行けなくなるだろうけども、この小竜のためならば仕方ない。


「ふむ……」


 竜王様は僕の話を一通り聞くと、小竜に向き直る。


「お前は親が死んでしまったのか?」

「ギャウ?」

「まだ会話は難しいか……」


 そう言うと竜王様は小竜を抱える。

 そのまま暫く動かなくなるが、何をしているのだろう。


「……一通りこの子の記憶を見た。ブラリの言っている事は正しいようだ」

「そうですか……」


 竜王様が記憶を見たとか凄い事をシレっと言い、それを聞いた父さんが神妙な顔つきで返す。


「記憶を見たって本当ですか?」


 記憶を見たというのがどういう事なのか気になり、思わず聞いてしまった。


「文字通りの意味だ、この子が体験した事を見た。ブラリに串焼きを食わせてもらってガツガツ食している様子も見た」

「凄い、本当に見られるんだね!」


 串を小竜にあげた事は言っていなかったはずなのに言い当てられた。

 竜王様は本当に小竜の記憶を見たのだろう。


「そして、この子の親が死んでいるというのも事実だ。あの洞穴に入り込んで来た巨大な狼型の魔物にやられたみたいだな。ブラリ、お前はもうあの森に行くのを止めろ」

「はい……」


 小竜の親は死んだ。

 この子にはもう親が居ないんだ。

 森に行くなと言われたのも悲しいが、それとは比べようにならないくらいの気持ちが湧いた。


「それで竜王様、小竜の事ですが……」


 父さんが、竜王様に小竜の処遇について言及しようとする。

 もう決まっているみたいだが、一体どうなったんだろう。


「あぁ、約束通り小竜は我が引き取る」


 まぁ、そりゃそうか。

 分かってはいた。


 竜の事なら竜王様に任せるのが一番良い。

 小竜も竜王様の元でなら元気に育つだろう。

 竜王家にも僕と同じ歳の子がいるらしいし、寂しくもならないだろう。


是非、その子と一緒に強くなって欲しいな……。


「と思っていたが、小竜が相当ブラリに懐いている。魔王家で迎え入れるのが良いだろう」

「えぇ!?」

「……え?」


 竜王様が、小竜を魔王家で迎え入れるのが良いって言った……?

 え……という事は、今から小竜とは家族……?


「ですが、竜王様! 竜の子の育て方など分かりませんよ!?」


 どうやら竜王様が急に言い出した事のようで父さんが驚いていた。


「ブラリやダフティと同じように育てれば良い。竜は賢い生き物だ。それでどうとでもなる」

「竜王様が言うのならそうなのでしょうけども……。周りが納得するかどうか」

「竜王家との信頼の証とでも黙らせておけ。さて、話は終わりだな。早く帰らないとアズモが愚図るから我はもう行く」

「あぁ、竜王様!?」


 竜王様は転移魔法を使ったのか、父さんが声を荒げ終わる頃には消えてしまっていた。

 父さんは「やっぱこうなったか」と呟き僕の方を向き直る。


「えぇい、なってしまったものは仕方が無い! 明日からの習い事はその小竜を連れて出る事だ、いいな?」

「ギャウ」

「うん、分かったよ」


 もう家を抜け出す事は叶わなさそうだけど、小竜を引き取る事が決まった。


「————!」

「————」


 扉の方が何やらガヤガヤする。

 きっと、ダフティとスフィラだろう。


 もうそろそろこっちの話が終わったんじゃないかと話しているのだろうか。


 静かにドアに近づき、扉を開ける。


「わあああ!」

「おっと」


 ダフティとスフィラが傾れ落ちて来た。


 ダフティは一瞬バレてしまったという顔をするが、開き直って僕に近づいて来る。


「兄様! 竜はどうなったのですか!」

「小竜は残念だけど、竜王様に引き取られる事になったよ……」

「そんな……!?」

「僕も悲しいけど、竜の事に関して一番詳しいのは竜王様だからね……。小竜も元気に育つと思うよ」

「妹で遊ぶな」

「いてっ」


 事情の知らないダフティを揶揄っていたら、父さんに頭を小突かれた。

 妹が余りにも純粋過ぎてちょっと遊び心が出ちゃっただけなんだけどね。


「……え、どういう事なのですか?」


 ダフティが至近距離から見上げるようにジトっと胡乱な視線を向けて来る。

 僕は舌を出して片目を瞑った。


 次の瞬間僕は宙を舞った。

 闘技の先生であるプロスパスから一本取ったとスフィラから聞いたが本当のようだ。


 良いパンチだった。


「ぐへっ」


 お腹にダフティの拳を貰った僕は父さんの部屋で派手にぶっ飛ぶ。

 僕が父さん秘蔵のよく分からないコレクションの棚に突っ込んだのと、ダフティが小竜に抱き着いたのは同じタイミングだった。


「やったあああああ!!!」

「俺の宝物がああああ!!!!!」


 何はともあれ、小竜は魔王家の一員になった。

 いつまでも小竜と呼ぶわけにもいかないので、その日の内にダフティが名前を付けた。


 この竜はフィラフトと名付けられた。

 今日からフィラフトは魔王家で僕らと一緒に生きていく。





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