五十八話 ブラリの昔話 きっと毎日が楽しいんだろうな2
「この竜付いて来るね……」
「ギャウ」
習い事を抜け出して来た森で小さな白竜に会った。
そろそろ帰らないと父さんに怒られてしまうから早くここを立ちたいのだけど、子竜がくっ付いて来て帰れそうにない。
「君を連れて帰るわけにはいかないんだよね」
「ギャ?」
竜を連れて帰ったなんてなったら大騒ぎだ。
ただでさえ竜は取り扱いが難しい種なのに、エクセレという天災竜の事もある。
僕の住んでいる城には、連日父さんの元に人間達が訪れる。
そんな場所に竜を迎え入れるなんて許されないだろう。
「どうしたもんかなー」
小竜を見ると腰に下げているポーチに興味ありげに近づいていた。
ポーチには、ここに来るまでに露店で買った串がまだ少し残っている。
「お腹が減っているの?」
「ギャウ!」
「じゃああげるよ」
ポーチから串を取り出し、小竜が食べやすいように木の串を抜き、地面の上に袋を敷いてその上に肉を置いた。
小竜は出された肉をガツガツと食べている。
さっき普通に喋っちゃったけど会話が通じていた。
竜は賢いと聞くけど、こんなに小さい内からちょっとした話が出来るんだね。
「……そう言えば、君の父さんや母さんは何処にいるの?」
ふと気になった。
こんなに小さい子竜が一人でうろつく訳が無い。
何処かに親が居るはずだ。
そこに送り届けたら帰ろう。
「ギャウ?」
小竜は食べるのを止めて、僕の方を向いて首を傾げた。
口の周りには食べ残しが付いている。
「あー、もう汚いな。僕の家だったら厳しい指導がつくよ」
タオルを取り出し、口の周りを拭いてあげると小竜は満足そうに鳴いた。
「それで、君のお父さんやお母さんは何処にいるの?」
「ギャー……?」
「親だよ親。大きな竜は何処?」
「ギャウ!」
身振り手振りを交えて説明すると伝わったのか、小竜は羽ばたきだした。
僕はゴミを拾い、魔物の素材用の袋に突っ込んで追いかける。
小竜は奥へ奥へと進んで行く。
まだ僕が行った事の無い奥地へと入り込んで行く。
周りの木が高くなり、日が当たらなくなって暗い。
太い根っこに足を持ってかれそうになったけど、なんとか転ばないように踏ん張り小竜に付いて行く。
やがて、洞穴に辿り着いた。
小竜は洞穴の前で浮遊している。
「この洞穴に君の家族がいるんだね」
「ギャウ!」
「じゃあここまで送り届けたし、僕は帰るよ」
「ギャギャ!?」
小竜が慌てて僕の服を噛んで来る。
グイグイ引っ張られて帰れそうに無い。
「どうしたの? 明日また来るからその時に家を紹介してよ」
「ギャウ……」
小竜は寂しそうにしていた。
どうやらまだ僕に帰ってほしくなさそうだった。
これ以上この森に居たら帰る時にはもう真っ暗だ。
そうなったら父さんに怒られて外出しにくくなるかもしれない。
家を出られないのは困るが、目の前の小竜を見ていたらそんな事はどうでも良くなった。
「まぁ、僕なら見張りが厳しくてどうにかなるし良いか。付いて行くよ」
「ギャウ!」
「あー、そんなに飛び回ると危ないよ」
小竜に先導されて洞穴の中に入って行く。
ちょっとした空洞が出来ているくらいかなと思っていたけど、洞穴内はかなり広い
父さんはいくつかダンジョンを経営している。
前に父さんにくっついてダンジョンに行った事があるけど、この洞穴ももしかしたらそうかもしれない。
どこかから魔物が飛び出して来そうな、そんな雰囲気のある洞穴だった。
「ギャウ!」
「あー、待ってよ!」
小竜が急に加速して奥に一人で進んでしまう。
僕は走って追いかけた。
走る事少し、やがて広い場所が見えた。
広間は火で灯されているのか明るく、中の様子が窺えた。
中は数多の骨が散らばっていた。
ここで激しい戦闘が行われたのかもしれない。
小竜は中央にある一際太い骨の上でクルクル回っていた。
「……もしかして、これが」
「ギャウギャウ!」
小竜は元気そうに鳴いた。
まるで、久しぶりに親に会えた嬉しさからはしゃぐ子供のようだった。
「そっか……君は独りぼっちだったんだね」
「ギャウ?」
自分の親が死んでいる事なんてこれっぽっちも気付いてない様子だった。
この子も、この子の親も竜だ。
この洞穴には成体の竜を屠る事の出来る何者かがいる。
小竜もほっといたら、この子の親のようになってしまうのが予想出来た。
僕の見つけた森林にそれ程の強敵が居るという嬉しさがある。
だが、その感情は小竜が心配だという気持ちに負けた。
まだ少ししか関わっていないが、こんなに小さくて賢い将来有望な竜がどうにかなるなんて僕には耐えられそうに無かった。
「さーてと、君の親御さんにも会えたしそろそろ帰ろうかな」
「ギャウ……」
小竜は悲しそうにする。
「あー、そう言えば最近一人部屋を与えられて部屋が少し寂しいんだよね。部屋に僕以外誰も居ないっていうのがまだ慣れなくてね」
小竜は首を傾げる。
「どっかに僕の部屋で一緒に暮らしてくれる小さな竜でも居たら良いんだけどね」
「ギャウ!」
小竜は僕に飛び込んで来た。
少し痛かったが、抱きしめる。
「一緒に帰ろうか」
父さんと母さんには絶対怒られるだろう。
だけど、ダフティとスフィラならこの子を明るく迎えてくれるかもしれない。
独りぼっちのこの子に家族を提供してあげる事が出来るかもしれない。
「君は今日から魔王家の一員だよ」
次回から幼少期ダフティやスフィラが出てきます。
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