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五十七話 ブラリの昔話 きっと毎日が楽しいんだろうな1


「あぁ! ブラリ様困ります!!」

「だってつまんないんだもんね」


 自室の窓から飛び降りて魔法の授業から逃げる。

 部屋はかなり高い所にあるが、最近使えるようになった魔物化を使えばどうって事は無い。


 スイザウロ魔王国。

 マスカルソ・ステマス・スイザウロが治める人口二億三千万人程度の大国家。


 この国には数々の伝説や功績を称え民から竜王様と呼ばれる偉大な竜も暮らしている。

 民の数が多く、竜王様も抱えるこの国は世界的に見てもトップレベルの財力、戦力、人材を有している。


 そんな国で、マスカルソ魔王の第一子として僕は産まれた。

 ブラリ・スイザウロ、それが僕の名前。


 双子として生まれた僕には同じ歳の妹もいる。

 ダフティ・スイザウロ、僕の大切な妹の名前。


 次期魔王としてこの国の次を担う事を期待されている僕は、この歳で膨大な数の習い事をさせられている。


 言語、魔法、剣技、闘技、芸事、それと王族としてのマナー。

 この数の習い事を熟す為に、保育園や幼稚園に通う事無く日々家で過ごしている。


 とても退屈な日々。

 先日三歳となったばかりなのに、こんなにつまらない日々を送っていて良いのだろうか。


 どこかの保育園では、僕と同じ歳の竜王の娘が暴れ回っているらしい。

 理性を持たない狂暴な魔物がひしめく山を冒険して女の子を助けに行ったとか、保育園では毎日喧嘩に明け暮れているとか、登園時に何故か暴れ回るとか色んな事を聞いた。


 羨ましい。

 毎日難しい顔をしたよく分からない人達に難しい話を延々とされている僕とは大違い。


 僕も竜王の娘みたいに自由に生きてみたい。

 きっと毎日が楽しいんだろうな。


 それに喧嘩か。

 無用な所で力を使ってはいけないと言われている僕は、勿論今まで誰かと喧嘩という物をした事が無い。


 殴り合えば分かり合う事が出来ると何かの本で見たけど本当だろうか。

 竜王の娘と喧嘩をすれば心から気を許せる友達になれるだろうか。


 何て普段から考えながら過ごしていたら思いが爆発した。

 僕も自由に生きよう、と。


 習い事なんてもういい。

 僕はもう十分強い。


 そう決めてから、習い事少しでもつまらないと感じたら逃走する事にした。

 身体を動かすのが好きだから武道はやり続けるけど、勉強はもうやらない。


 どうせ、学園に入学したら勉強を嫌でもする事になる。

 その時にやれば良い事だと僕は思った。


 父さんには呆れられたけど、知らないね。

 魔王の椅子なんて興味が無いよ。


 今日も習い事から抜け出し、家からかなり離れた所にある秘密基地に行く。

 遠くに離れないと兵士に連れ戻される。


 家である城の周りは、国を支えている父さんの仕事仲間の豪邸やよく分からない物を売っている店で栄えているが、城から離れると普通の家や露店が広がる。


 露店で適当に串を数本買って、更に遠くへ走って行く。

 やがて、森に着いた。


 初めて家を抜け出した時に見つけた森。

 とにかく遠くへ行きたくて走り続けていたら辿り着いた場所だ。


 人の手が行き届いていないこの森には、理性を持たない獣みたいな魔物がいる。

 そういった魔物は自警団や冒険者達に安全のために討伐される。


 同じ魔物でも言葉が通じなければ争いに発展する事があるけど、この魔物達はそれ以下。


 理性も知性も何も持っていない本能だけで生きている魔物。

 便宜上こいつらも魔物と呼ばれているけど、魔法要素を持ったただの動物に過ぎない。


 つまり倒して良い存在。


「今日は何匹倒せるかな」


 人型のこの身を魔物化させて魔物の特性を引き出す。

 この身体があれば武器なんか持たなくても勝てる。


 今日も森に入って行った。



—————



「うーん……今日も強いのはいなかったな」


 切り株に腰を落ち着けながら露店で勝った串を頬張る。

 太陽がもう真上を通り過ぎていた。


 生存本能が刺激されるような強敵と出会う事を夢見てこの森に通っているけど、まだ出会えない。


「いつか出会えると良いな……」


 そう呟きながら立つ。


 家から距離があるこの場所はもうそろそろ出ないと家に着く頃には真っ暗になってしまう。

 そうなったら流石に父さんに怒られる。


 倒した魔物の角や爪、牙を剥ぎ取って持ってきた袋に入れる。

 これを冒険者ギルドに持って行くとお金になる。


 素材が武器や防具に使われるらしいけど、こんな弱い魔物達で身を守る装備を作るなんて大丈夫なのだろうか。


 だが、確かにお金にはなる。

 露店でご飯を買うのに使うし、その内武器も使ってみたい。


「ん……?」


 もうこの森から立とうとしたが気配を感じた。

 何かが僕の事を見ている。


 袋を地面に置き構える。

 ガサゴソと音が聞こえる方向に向く。


 やがて、白い何かが飛び出して来た。

 姿形から、それが竜だと分かるのに時間はそんなに掛からなかった。


 竜。

 生物として最強の位に位置する魔物だ。


 竜王様のように人と関わる竜がほとんどだが、人付き合いを避け誰とも会わないような場所で暮らす竜もいる。


 中には理性や知性を持たない狂暴な魔物としての竜もいる。


 そう言った竜は討伐対象になるが、竜の討伐はかなり大変だ。


 この世界には天災となった竜がいる。


 エクセレ・ネスティマス。

 竜王家の長女だ。


 過去に人間と色々あって暴走を繰り返すようになったらしい。

 話を軽く聞いた程度だし、会った事が無ければ見た事も無いのでどんな竜かは知らない。


 でも、とても強い竜なんだろう。


 そしてその天災竜のせいで、竜の討伐が大変になっている。

 竜の討伐には人間が混ざってはいけない、昔からよく言われている事だ。


 人間が竜に関わると、エクセレという竜が暴走し襲ってくる。


 竜王家の長女で、何百年も前からずっと天災として暴れる竜。

 一度現れたら、周囲を破壊し尽くすまで消えない。


 そんな事があり竜の討伐は、魔物のみで行われる。

 冒険者として名を上げた証拠である冒険者ランク。


 冒険者ランクが2以上の者で竜の討伐体は組まれる。

 冒険者ランクは10から始まる。


 最初の内は上がりやすいと聞くが、7から5は一つ上げるのに三年は掛かると聞いた。

 5から上は更に掛かる上に、冒険者としての才能や名声も求められる。

 昇り詰めるのはかなり難しい。


 スイザウロ魔王国でも、1級は数える程しか居ない。


 竜はそんな強い人達を集めないと倒せない存在。

 そんな竜が現れた。


 だが、その竜はちょっと違かった。


「君、ちっちゃいね……」

「ギャウ」


 白い竜は三歳児の僕よりも小さく、一メートルもなかった。

 小さな竜は上手く羽を使い僕の周りを飛ぶ。


 それが僕とフィラフトの初めての出会いだった。



フィラフト君は三十九話にちょろっと出て来てます。



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