五十六話 『私の事を守ってほしい』
アズモ、お前……身体の痺れは大丈夫なのか。
ブラリの放った電撃を前に俺は確かに動け無かった。
視界が朦朧としていて意識を手放しそうになっていた。
だからさっき身体を動かしてギリギリで電撃を避けたのは俺じゃなく、アズモだ。
『言っただろ、効かんと』
アズモが大声で宣言した言葉を繰り返し言う。
だが、アズモはブラリの電撃を浴びると身体が痺れると言っていたはずだ。
……アズモ、俺のために嘘を吐かないで良い。
本当の事を言ってくれ。
『じゃあ教えてやるから、うだうだ考えるのは止めろ』
……内容による。
『約束してくれ。もう私のいるこの世界に居てはいけないと考える事を止めると』
…………分かった。
『気合だ。気合で身体を動かして避けた』
やっぱり無理してたんじゃねえか……。
『ああ、相当な無理をした。もう一度痺れている状態で動けと言われても無理だ』
ごめん、アズモ。
俺が動けなくなったばかりに。
『そうだな。本当にお前は馬鹿だ。……毒にやられても、電気で身体が痺れてもコウジが身体を動かす事が出来るのを私は良い事だと思っている』
どうしてだ。
アズモが苦しんでいるのに、身体を勝手に動かされるんだぞ。
毒も痺れも何も感じていない奴に。
『ああ、良い事だ。私一人しか居なかったら、相手からそれを食らった時点で終わる所をコウジがいるお陰で私の身体はまだ戦う事が出来る』
無理矢理動かしているだけに過ぎない。
『それでもだ。私が動けなくなった後もコウジが動いてくれたら、何も出来ずに死ぬ所を死なずに済む』
エクセレみたいに生命を脅かす相手だったら、状態異常を食らっても俺が身体を動かし続ける事が出来るのは確かに良い事かもしれない。
だが、俺はその痛みを感じないんだ。
『その痛みは私が負う。だから、コウジは私が動けなくなった後も動いて、私の事を守ってほしい』
……そうか、分かった。
俺がアズモを守るよ。
『ああ、私の事を守ってくれ。……そしてそれは今もだ』
ブラリは俺達が言葉を発さずに会話している間も魔法を使い続けていた。
無数の電撃が空中で停滞していた。
『言っておくが、今こうやって倒れずに耐えているのも気合だ。あれは避け切れないだろうし、被弾を覚悟で突っ込むぞ。ブラリの元に行ってすぐに決着をつける』
分かった。
「アズモちゃんが電撃は効かないって言っていたけど嘘だよね。身体がフラフラしているよ」
「ふん、それはどうかな」
「今から確かめるまでだよ。僕の全力で綺麗に終わりにしてあげるよ」
停滞していた電撃が動き出す。
全て俺達に向けて動く。
『決めるぞ、コウジ!』
ああやるぞ、アズモ!
俺達に迫って来る電撃を避けながら、少しずつブラリに近づく。
電撃は俺達に向かって稲妻形に進み、避けた物は後ろの壁で爆ぜる。
そんな威力の物が身体にあたるなんて本当に良いのだろうか。
『ブラリに勝てるならそれで良い』
ブラリに迫る。
ブラリに近くなる程、残っている電撃も多い。
全部を避けたいが、叶わずに被弾する。
身体の動きが鈍くなるのが分かった。
アズモが痺れたから俺一人で身体を動かしているんだ。
『行け、止まるな!』
アズモの声が聞こえる。
更に、二、三発の電撃を受けブラリに届く。
「うおおおおおおお!!!」
俺は叫びながら、身体を捻り渾身のストレートを放つ。
ブラリが俺の気迫に押されたのか少し怯むのが見えたが、避ける態勢に入る。
放った右ストレートはブラリに避け切られる直前に早くなる。
アズモが痺れから抜け、攻撃に混ざったのだ。
拳はブラリの顎を掠めた。
だが、これでブラリも俺達も止まらない。
ブラリも俺達に拳を打ち込もうとする。
俺達はそれをバク天で避けながら、爪先をブラリの顎に再びヒットさせる。
着地し直ぐにふらついているブラリに迫り腹に渾身の一撃を叩き込んだ。
「カハッ!」
ブラリは膝をつき、地面に倒れた。
「あー、流石に落ちそうだよ。……僕の負けだ、二人は強いね」
そう言いブラリは動かなくなった。
廊下からバタバタと誰かがこちらに迫って来る足音が聞こえる。
騒ぎを聞きつけて先生が来たのだろうか。
どうにか先生が来る前に終える事が出来たらしい。
視界が霞む。
俺ももう駄目みたいだ。
アズモはもう落ちたのだろうか。
俺はそんな事を考えながら、意識を手放した。
—————
「お前らなぁ……」
ディスティアが呆れながら言う。
「ディスティア先生ー、これから四日間お世話になるね」
呆れているディスティアにブラリが軽口を叩く。
「ほんとにな? お前らが来なければ私はこの時間フリーなのに……」
「ごめん、ディスティア姉さん」
「あぁもう、一応聞いてやる。なんであんな事をした? 教室がボロボロになっちまったぞ?」
俺達、俺とブラリは生徒指導室に居た。
学内での喧嘩、及び教室の破壊は勿論許される事は無く、俺達は学校謹慎となった。
喧嘩した二人を同じ指導室に入れるのはどうかと思ったが、ブラリが先生達にごり押ししてこうなった。
「ちょっと友情を深めようとしたら行き過ぎちゃったんだよね」
「うん。まさか魔物学園なのにあんなに教室が脆いとは……」
「おいコラ、教室のせいにするんじゃねぇ」
ディスティアは再び呆れる。
俺達がまともに答える気が無いのを察したらしい。
「はぁ……。面倒だから私は保健室で寝て来る。お前ら私が来るまでにこの課題をやっておけよ」
ディスティアはそう言い、指導室から出て行ってしまった。
あんな生徒指導員が許されるのだろうか。
だが、今は助かった。
「で、俺達が勝ったら何か喋ってくれるんだったな」
「そんな事言ったような、言って無いような気がするね」
「おい、とぼけるな。もう一度喧嘩するか?」
「流石にもう一度喧嘩したら一組との対抗戦と謹慎期間が被っちゃうよ」
一組との対抗戦は七日後。
割とギリギリだった。
まだクラスの皆と作戦を練るのも動きの確認も何もやっていない。
「じゃあ早く言え」
ブラリは一度空中を見つめてから、口を開く。
「僕の昔話をしよう。魔王の息子として生まれた僕が犯した禁忌をこれから君達に話すよ」
ブラリはそう言い、ポツポツと語り出した。
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