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六話 『二歳がやった事ならばどんな事をしても可愛い事をしているな、程度で済むものじゃないのか!?』


 どんな話をしたのか全く覚えていない。

 片言の異世界言語でひたすら自己紹介でもしたのか、ご飯の話でもしたのか……どちらにせよ反応に困るような話を延々としてしまったような気がする。

 そんな風に必死に喋りかけていたら、お昼の時間が終わり昼寝の時間が来ていたらしく、何時までもご飯を食べている俺の頭に再び衝撃が走り意識が刈り取られた。


 気づいたら家の布団の上に居た。

 寝ている内にアズモの親父さんが俺達をお迎えに来てくれていたのだろう。


『コウジ、起きたのか? 起きたなら今日の先生からの体罰の数々を父上に言いに行こう。明日にはあの先生を飛ばしてもらおう』


 うーん。


『まさか、あの先生を飛ばす事に反対とでも言うのか? 一度目は決闘を止めるためだったというまともな理由があるが、二から四度目の拳骨は納得がいかない。そもそも園児に手を上げるなんて日本で考えたらあり得ない。それに普通、必死に頑張って歩こうとしている人に手なんか上げない』


 確かにそうだが、俺が考えているのはそれとは違う。


『なんだ、何を考えているのか。まさか、父上に頼らずに私達の手であの先生に報復することでも考えているのか。もしそうなら私は全力で協力する』


 違う。そうでもない。

 というかアズモはあの先生嫌い過ぎるな。

 まさか異世界人のアズモが俺の世界の基準を持ち出すとは思わなかったぞ。


『初対面で暴力を振るう輩なんて嫌われて当然だ』


 確かにそうだけど。

 でもあれは異世界特有の、強いて言うなら魔物が通う保育園としては特有の教育方針から逸れてはないんじゃないかな。


『どうしてそう思う』


 まず、俺達が耐えられるレベルの拳骨だった。

 威力を調整して二歳児の俺達が耐えられるような拳骨にしていたんだろう。


 次に、俺と戦ったルクダだ。

 ルクダは2歳児とは思えないくらい、とても強かった。


 思うに魔物自体が強い生き物なんだと思う。

 そんな強い存在がゴロゴロいる教室では、ちょっとばかり荒っぽい教育が必要になるとかそんな所じゃないかなと。


『私達が強いからあの先生もああいった行動をして来ると。……なら、言い方を変えよう。私が気に食わないから父上に言おう』


 アズモ……。

 ……俺達で強くなって自分達の力であの先生に一発入れよう。

 何時まであの保育園にいるかは分からないが、チャンスがどこかでやってくるだろうし。

 その方がスカッとするかもしれない。


『私としては自分の手を汚さずに勝手に飛んでいくのも吝かではないのだが……』


 吝かであって欲しかったよ。


 薄々思っていたが、アズモの考え方って何というかその…………とても二歳児っぽくないな。

 もっと年を取った小賢しい人達が取るような手段を提案してきていると思う。


『なっ!? 私は二歳だぞ! 二歳がやった事ならばどんな事をしても可愛い事をしているな、程度で済むものじゃないのか!?』


 気に入らない先生がいるから権力者に飛ばして貰おう、は可愛くはないな。


『なっ! なっ……まさか、そういうものなのか?』


 そういうものだろう。


『そんな……じゃあ私はどうすればいいのだ』


 やっぱり、俺達で強くなってあの先生に一発かまそう。

 小さい子が先生をなんとかしようと必死に向かっていくのは微笑ましく映るかもしれない。


『そうなのか? 可愛く映りそうなのか?』


 少なくともアズモがしようとしていた事よりは可愛く映るだろう。


『じゃあそうする。目に物を見せてやる。……ところでコウジは何を考えていたのだ』


 俺は、言葉を覚えたいなって考えていた。

 ルクダからあの両手を変質させる方法を聞いてみたいし、スフロアともっとちゃんと話をしたいし、先生がキレた時にどんな事を言っていたのか聞いてみたい。


『それならいいものがある』


 この声は、アズモの親父さん。

 俺達は知らぬ間にアズモの親父さんに抱えられていた。

 いつの間に来たんだ。全く気付かなかった。


『私が気に食わないから父上に言おう。辺りからいた』

『なっ!?』

『一応言っとくが、飛ばすなんて事はしないからな』

『はい……』


 アズモは観念したかのような声音で、親父さんに返事をした。


 出来ないじゃなくて、しないって言うあたりやっぱ凄いなぁ。

 ところで、いいものってなんだろう。


『あぁ。これを耳に、こっちを襟に付けてみてくれ』


 アズモの親父さんの手元には、黒色の環のような物と、ヘアピンに似た物があった。

 それを付けたらどうなるんだ。


『付けてからのお楽しみだ』


 ハードルを上げるって事はそんなに凄いものだろうか。

 手をぎこちなく動かし、環のような物を耳に、ヘアピンに似た物を首元に付けた。


「どうだ。我が何を言っているか分かるか」


 声が脳内にじゃなくて、耳を通して入ってくる。


 ……まさか、これって!

 分かる! 親父さんが何を言っているか分かったぞ!


「そうか。上手く出来ていたか。今度はコウジ、お前が喋ってみろ。我にじゃなくて、ママにな」


 嘘だろ……まさか、それも出来るのか。

 だとしたらこれは、今俺が一番欲しかったものだ。


 おい、アズモ動くぞ!

 身体は俺が動かす!


『うん……』


 アズモは親父さんに聞かれていたのが相当堪えたのか、力の無い返事だった。

 アズモには悪いが、全身の力も一緒に抜けていたので少し動きやすい。

 俺は走ってアズモの母さんがいるだろう食卓に向かう。


 予想通りアズモの母さんはご飯を食卓に並べている所だった。

 アズモの母さんは、走って来る俺を見て目を見開く。


「アズモの母さん! 俺の言っていることが分かるか!」


 アズモの母さんは固まる。


「あれ、もしかして分からない——」

「——分かるわよ! きっと貴方はコウジ君の方よね?」


 少し距離があったはずなのに、俺はまた抱きしめられていた。

 今日はもう何回目だろうか、抱えられるのは。

 少し恥ずかしい。

 あと、アズモ両親は瞬間移動し過ぎだと思うんだが……。


「あ、あぁ。俺はコウジ。ずっと言いたかったんだ、ありがとう。俺はアズモの身体に勝手にお邪魔している他人に過ぎないのに。毎日美味しいご飯を用意してくれて」

「いいのよそのくらい。それに貴方は他人じゃないわ。家族よ」


 ……俺は、家族だったんだな。


「母さんか……」

「そうよ。貴方のママよ」


 そう言って母さんは更にギュッと俺を抱きしめる。

 流石にここまできつくされると。


「——苦しい」


 アズモが耐えられずにそう漏らした。


「ま、まぁ! その声はアズモちゃんね!」

「母上は私達の声の違いが分かるのか」

「当たり前でしょ。ママなんだから」


「勿論パパにも分かるぞ。その機械の性質上、アズモとコウジで声が変わって聞こえるのは当たり前なのだが」


「もう! パパったら、私達が感動の再会を楽しんでいるというのに!」

「再会も何も毎日会っているだろう」

「気持ち的に再会を果たした気持ちなんです!」

「そうか、それは水を差して悪かったな。暫く我は、ママと子供たちが戯れている所でも見ているとしよう……」


 その後、俺とアズモは母さんに散々抱きしめられた。

 最後の方はアズモが親父に助けを求めて「父上ぇ~」と情けない声を漏らした。

 母さんの無限抱擁から解放された後は、親父から俺が付けている物の軽い説明を受けた。


 二つとも翻訳機の役割を果たしている。

 耳に付けている方は相手が言った言葉を吸収して、日本語に変えて俺の耳元に入ってくる仕様になっているらしい。

 襟に付けている方は俺が発した言葉を吸収して、異世界言語に変えて相手に伝える仕様らしい。

 俺とアズモで声の聞こえ方が違うのは、発した声をその声のまま変えているかららしく、俺とアズモでは喉の使い方が違うから声も変わって聞こえるらしい。

 他にも色々と翻訳機を通して魔法を唱える場合とかの説明も聞いたが難しくてよく分からなかった。


 しかし、この世界の技術力凄いな。

 科学だけでなく、魔法というものも存在するとこういうものが作れるようになるんだな。


 だけど、これのおかげで明日からの保育園が更に楽しくなるな。

 俺は夜ご飯を食べながらそんなことを考えていた。



—————



 次の日。

 この日も結局、親父の転移魔法で保育園に行ったためアズモは朝からグロッキーになっていた。

 アズモが動けなくなったから俺は動きやすいたらなんの。


「おはようございますー!」


 だから、今日は元気に挨拶をして教室に入ってみた。

 喋れるようになったから喋りたくてしょうがない。


 今日から俺の楽しい保育園生活が始まる。

 そう思っていたのに。


「…………」


 俺の挨拶に対する声は何も無かった。

 園児たちは入室して来た俺達から距離を取りこちらを指差しながらヒソヒソと話していた。




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