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五十五話 「もう一度言ってやる!」


『まさか、君に感覚が無いとは——』


 長髪の男に言われた言葉が何故俺に引っかかるのか。


 俺は憑依という形だが、アズモの身体を一緒に動かしている。

 それなのに俺だけ味覚や触覚、聴覚が無い。

 という事は無い。


 食べた物の味も分かるし、誰かにツンツンされたら反応出来るし、人の話を聞く事も出来る。

 だから感覚が無いなんてそんな事は無い。


 だが現に今俺は、ブラリの雷を受けても動けた。

 アズモが痺れて動けなかったのに俺は動けた。


 同じ身体を共有しているのに俺だけ痺れないなんておかしいんだ。


「君達でも雷は有効みたいだね」


 ブラリはそう言い、雷の魔法を無詠唱で乱発してくる。

 俺達の進行方向を予測したり、止まった所を撃ってきたりととにかくひたすら撃って来る。


 俺達はそれを全部気合いで避けた。

 当たるわけにはいかなかった。


 俺は無事でもアズモは痺れる。

 つまり、俺達の長所であるアズモと俺の二人による身体の精密な操作から生まれる機動力を俺一人で補う事になる。

 そうなると、パフォーマンスが悪くなる。


 それに、アズモに影響があるのに受ける訳にはいかない。

 俺は憑依しているだけでこの身体の持ち主はアズモなんだ。


 身体を使わせてもらっている俺がアズモに出来る事は攻撃をなるべく食らわない事。

 ブラリに雷を撃たせないようにする事だ。


 アズモ。

 俺がブラリの攻撃を避ける事に集中するから、ブレスを頼んだ。

『……ああ、分かった。避けるのは任せた』


 威力を高めて速度を落とした炎ブレスをブラリに向けて放つ。

 ブラリはそれを避けながら電撃を飛ばし続ける。


 今度は威力を抑えて速度を上げた炎ブレスをブラリに向けて放つ。

 ブラリは避けてから魔法を飛ばす。


 アズモは炎ブレスを放ち続けた。

 速度、威力を調整しブレスによる弾幕を作る。

 ここまですると、ブラリは避ける事に精一杯になった。


 似たような実力で飛び道具の撃ち合い合戦になったら、二人いる事で避ける事と攻撃する事を分担して出来る俺達が勝つ。


 今は俺が痺れなかった事なんかどうでも良い。

 目の前のブラリに勝つ事が大事だ。


 アズモ。

 次、ブラリがジャンプをしたらあのブレスを使うぞ。

『ああ』


 すぐにその瞬間は訪れた。

 ブラリが全く攻撃をして来ない事で余裕が出来た俺もブレスに加わる。


 修練場でディスティアがオミクリに使っていたよりも遥かに広範囲をカバーする炎ブレス。


 範囲を上下左右極限まで広げ、威力を落とし、速度も落としたブレス。

 目くらまし用のブレスだ。


 修練場でディスティアのブレスを見て俺が閃き、アズモと一緒に練習して会得した技。


 そしてもう一つ。

 ラフティリから教えてもらった極細水ブレス。

 威力と貫通力を極限まで高めた水ブレスだ。


 広範囲ブレスを先に放ち相手の視界を奪い、その後ろから本命を敵に当てる。

 一組との対抗戦用に身に着けた技だが、まさか初めて使うのがブラリになるとは。


 口に魔力を込める。


「——うん、とても良いけど僕みたいに多少のダメージには目を瞑る相手には通用しないかな」


 炎の壁を突き破り、雷を全身に纏わしたブラリが俺達の前に現れる。

 赤黒く染まった身体を焦がし、更に不気味な色と化したブラリが脇腹に蹴りを叩き込んできた。


 派手に吹き飛び、窓格子に身体を打ち付けた。

 ガラスが割れ背中に傷を付けていく。


 とても痛い。

 とても痛いが、動かなければ。


 ブラリは再び俺達に向け、電撃を放っていた。

 俺はそれを間一髪で避ける。


 やはりアズモは痺れてしまっているのか、身体の動きが鈍くなっていた。


 電撃は当たっては駄目だ。

 俺は必死で電撃を避けようとするが、僅かに被弾してしまう。


 さっきは完全に避けられたはずだった。

 だがあれはアズモがブレスを使ってくれていたから、ブラリの魔法の数や精度が落ちていただけに過ぎなかったんだ。


 不味い。

 この状況をどうにかしなければ。


 そう考えていると、避け切れなかった電撃が頭に当たった。


 電気が頭を通過していくのが分かる。

 焼けるように頭が熱くなった。


 視界が少しずつ霞んでいく。


 これは流石に落ちるか……?

 落ちる……?


 あぁ……思い出した。

 あの時だ。


 保育園でスフロアとどうにか仲良くなろうとしていた時の事を思い出した。


 家の事があり、人に恐れられている事に気付いていたスフロアは他人に対して辛辣に当たった。


 心を閉ざしていたというのもあるが、自分が死んでしまった時に人の事を悲しませないためだとスフロアは後から「絶対に私の事を守ってよね」と言いながら教えてくれた。


 そんな風に人を遠ざけていたスフロアに俺は近づいた。

 スフロアの家の事情は俺も聞いて理解した。


 だが、目の前であんな表情をしている女の子の事を放っておけなかった。


 だから俺は、お前の家なんて、お前の呪われた運命なんて、お前の持って産まれた物なんて俺にはちっとも怖くないと、スフロアの尻尾にあった毒針を手に刺した。


 その行動に呆れたスフロアと強引に友達になり、今では引っ込み思案なアズモともよく喋ってくれる友達になった。


 ——あの時、アズモは意識を失っていた。

 手を貫かれた痛みに苦しみ、毒に苦しみ意識を手放していた。

 あの時、アズモだけが毒に苦しんでいたんだ。



 ……俺、最低だな。

 エクセレの言う通りじゃないか。


 スフロアの毒の事も、アズモの事も理解出来ていなかった。


 ただ、身体を借りているだけの人間なのに、アズモも周囲もめちゃくちゃに引っかき回して毎日を楽しいなって過ごしていたんだ。


 俺はこの世界に居てはいけないな……。


 ブラリはトドメと言わんばかりに極大の、先程までの稲妻形では無く最早球体の電撃を動かない俺達に向けて飛ばして来る。


 避けなければまたアズモに迷惑をかける。

 そう分かっているが、もう動けそうになかった。


 しかし、身体が横に動き、電撃を再び間一髪で避ける。


『いつまでも、いつまでもそんな事をネチネチネチネチ考えやがって……流石の私でもコウジにキレそうだ』


「凄いね。まさか、まだ動けるなんてね」

「当たり前だ、私に電撃は効かん」


 驚いた様子で言うブラリに、アズモが強めに返す。


「もう一度言ってやる! 私は電撃など効かん! 電撃も毒も何も効かないのだ!」



アズモ「いや本当に何も効かんし」

コウジ(嘘だ…)

ブラリ(マジか…)

スフロア(嘘吐けアホ)


スフロアとの一幕は八話にあります。

次回、ブラリ戦決着です。



励みになるので、よければブックマーク、評価、感想、いいねお願いします。

次話は18時あたりに上げます。

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