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五十三話 「僕と本気で喧嘩をしようよ」


「……今なんて言った」


 空き教室、ブラリと俺しか居ないこの空間で、ブラリはなんて言った。

 内通者という言葉が聞こえた気がする。


 内通者。

 俺は一度ブラリが内通者……エクセレと繋がっている生徒なのでは無いかと疑った事がある。

 エクセレを利用して俺を殺害しようとしているのでは無いかと考えた事がある。


 だが、相談して皆にブラリは違うと言われた。

 俺だって、普段のこいつの俺への接し方からブラリじゃ無いって思えてきた。


 それなのに、今こいつはなんて言った。


「うん、この伝え方で合っていたみたいだね。だから、僕が内通者な——」


 内通者という言葉まで聞こえたら身体が勝手に動いた。

 勝手に動いたという事は俺の意思じゃない。

 アズモの意思だ。


 俺が憑依した先の、俺以外の奴にはほとんど自己主張をしない女の子、アズモの意思だ。


 アズモが全部喋り切る前にブラリを殴り飛ばした。


「つまらない嘘を吐く奴だったのだな、お前は」


 近くまで寄ってきていたブラリは、腹を殴られ教室の壁まで勢いで飛んだ。


「ハハ……アズモちゃんは驚いた顔をしながら殴るんだね。行動と顔が一致しないなんて面白いよ」


 アズモは表情を動かさない。

 感情を表に出す事があまり無い。


 だから、その表情は俺が作り出した表情だ。

 この身体でブラリを殴ったのはアズモで、そのアズモの行動で驚いた俺が表情を動かした。


「もう私は行く。お前の事を姉上達に言って終わりだ」


 アズモがドアに向かって振り向く事なく歩き出す。

 これでブラリとはお別れなのか。


「……なるほどね。オミムリ先生やエクセレの言っていた事が今やっと出来たよ。君達は二人だったんだね」


 ドアに向かって進んでいた身体がピタリと止まる。


「今のアズモちゃんは声と話し方がいつもと全然違う。時々聞いていたその声は、アズモちゃんの声が裏返っただけなのかなって思っていたけど違かったんだね。オミムリ先生が言っていたコウジって人の声だ。……いや、いつも喋っていた方がコウジって人の方かな」


 修練場でオミムリの正体を看破した時、あろう事かオミムリは俺の名前を連呼してきた。


 あの場にいたクラスメイトは、その理由になんてちっとも気付いていなかった。

 主にラフティリはいざ面と向かって、俺とアズモの事情を教えても全然分かっていなかった。


 それを、ブラリは今アズモが喋っただけで気付いた。


 ブラリは立ち上がってドアの前を塞ぐ。


「行かせるわけにはいかないよね」


 アズモがまた身体を動かす。

 今度はブラリの顔面に右腕が飛んで行くが、ブラリの手によって止められた。


「対抗戦で見た時より遅いね。アズモちゃんも少しは驚いているって事なのかな? それともコウジって人が身体を動かしづらくしているのかな。でも、これなら僕にも止められるよ」


 そう言いながら今度はブラリが身体を動かす。

 足が動いたのが見えたため、アズモと一緒に後ろに飛んだ。


「うん、そうだね。アズモちゃんはその速さだよね。なるほど、いつも二人で一緒に身体を動かしていたんだね」


 ブラリは俺達の行動を見て、次々と正解を導き出していく。

 今までに俺達の事情を喋った事のある誰よりも理解が早かった。


 凄いなって、流石ブラリだなって褒めたい。

 だけど、状況がもう許してくれないだろう。


「その身体能力があれば入試の面接官も倒せちゃうよね。喋るだけの面接って教えられているのに見せたくなっちゃうような強さだよね」


 そうだ、俺とアズモはこのスイザウロ学園の入試で面接官を倒した。

 この学園の入試は、算数、国語、面接からなる。


 俺達は筆記の方が駄目だったという自覚があったから、自分の長所をアピールするために面接官に模擬戦を頼んで倒した。

 その結果かどうかは分からないが、この学園に入学出来た。


「その強さが欲しくてアズモちゃんには僕のクラスに来てもらったんだ。対抗戦で倒したい相手がいるからね」


 嘗てブラリは十五組には問題児が集められたと言っていた。


「クラスに来てもらった……?」


「あぁ、いつも僕が聞く声だ。たぶんコウジ君? さん? まぁ良いか。僕と君の仲なら呼び捨てで良いよね。コウジって男の人だよね。喋り方だけじゃなく、仕草が完璧に男だったもんね」


 こいつはどこまで分かるんだ。

 一を聞いて十を知るどころじゃないな。


「って、事は俺達はお前のお陰でこの学園に入学出来たわけか。十五組として」


「ううん。本当は君の配属される所は三組だったよ。僕がそれじゃ勿体無いって思って十五組に来てもらった。君達だけじゃないよ。ラフティーちゃんも、マニタリちゃんも、ムニミーちゃんも、スフィラも皆僕が指名したんだ」


 俺達の本当のクラスは違かったのか。


 それにしても、あれで入試にちゃんと通っていたのか……。

 面接官を倒したのがかなりプラスに働いたのかもしれない。


 だが、それをブラリが自分の好きなように操作したと。


「なんでそんな事をしたんだ」


「許されていたからね。……僕は魔王の息子だ。指揮を執る能力と、将来使えそうな子と早めに仲良くなっておこうと思ってね。あとはそうした方が楽しいと思ったから」


「そうか。……それで、なんであんな嘘を吐く。この際認めるが、お前が言った事は全部正しい。その上で、なんでお前はそんな楽しく無い嘘を吐くんだ」


 ブラリの言った内通者というのは絶対に嘘だ。

 今初めて俺達の事情を知ったブラリが内通者であるわけがない。


「……嘘じゃない。僕が内通者だよ。僕が君達をエクセレに襲わせた」


 ブラリは尚も自分が内通者であると言う。


 段々とイラついてきた。

 こいつは普段、俺達とあんなに心から楽しそうに過ごしていたのにそんな事を言うのか。


 俺とバカ話している間もずっと、俺の事を殺したいと考えていたのか。

 そんなの嘘に決まっているだろう。


「なんで内通者が、俺達を害そうとした奴が、異形化を使ってまでエクセレに挑もうとしたんだ」


 ブラリはあの日、修練場で再びエクセレが現れた時、クラスメイトの中で誰よりも取り乱しディスティアとエクセレの戦いに混ざろうとした。


 ブラリは普段ふざけてはいるが、そういった事はしない。

 クラス対抗戦でも変な作戦は立てて来るが、勝算の無い事はしない。


 ブラリは全力で遊んでいるだけだ。


「エクセレが劣勢に見えたからね。ディスティア先生の邪魔をしようと思って隙を作っただけだよ」


「どうして、そんなに嘘を吐くんだよ!!!」


 ブラリはあの一件を申し訳無いと思っていたのか、あの日以降ディスティアの授業でふざけなくなった。

 授業を真面目に受け、質問も何もせずただ終わるまでずっと波風は立てない。


 普段のブラリからは想像出来ない行動だった。

 前に比べ多少マシになったものの、気になる事があったらとことん追求するのは変わらなかったはずなのに。


「……だから、本当だよ」


 ブラリは再び嘘じゃないと主張する。


「……もう良い。アズモの言う通りにする。これでお別れだよ、ブラリ。お前が言っている事が嘘でも本当でもお前は暫く学校に来られなくなるだろうな」


 俺は真っすぐに扉へと歩き出す。


「待ってよ! これで最後なら、最後に一つくらい僕のワガママを聞いてよ!」


 ブラリのワガママなら普段から聞いている。

 俺達はいつもこいつに振り回されているんだ。


 何が最後にだよ。


 そう思ったが、やはり俺は止まって振り返ってしまった。


「コウジは人間だったんだよね」

「ああ、そうだ。俺は元々人間だ」


 もう隠す事なく言う。


「それで今は魔物の……竜王の娘の身体に入っているんだよね。二人で身体をどうやって動かすかくらいの事も考えながら過ごしてきたんだよね」


 俺は無言で頷く。


「魔物と人間の共存をその身体でやっていたんだよね、ずっと」

「そうだ」


「君達の行く末が見たかったけど叶いそうにないなら、今の君達を見せて欲しい」



「僕と本気で喧嘩をしようよ。アズモ、コウジ」





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