五十二話 「ぜってー、負けんぞ」
「そう言えばあんた達のクラスの対抗戦見たわよ」
学生寮でいつものように朝食を取っているとスフロアがそう言ってきた。
「アズモちゃんやっぱり凄いね! こうビュンって行って、ドンって投げて! 勝っちゃったもんね!」
ルクダもスフロアに続いて俺達の対抗戦をルクダなりに誉めてくれる。
「ふふん! あたしの活躍も勿論見たわよね!」
同じクラスのラフティリが自分の事も褒めて欲しそうに会話に混ざってくる。
「ラフティーさんも流石でしたよ。八組との対抗戦での最後の水ブレスが見事でした」
「アズモのブレスの使い方を見て閃いた新しい使い方よ、上手くいって良かったわ!」
寮での朝食は、保育園から同じのスフロアとルクダ、学園から同じになったラフティリとダフティ、そして俺の五人で毎朝食べていた。
この学園に入ってから二カ月程が経った。
この学園では色んな事を経験した。
入学式の日は集合場所を間違えラフティリと走り回ったり、クラス対抗戦でクラスメイトと力を合わせ勝ち上がったり、天災に指定されていて姉のエクセレに襲われたり、謎の団体に遭遇したり……思い返してみるといい思い出ばかりでは無いが、確かに充実していた。
この朝食も最初は心配だったが、結果的に皆が仲良くなってくれて良かったなと思う。
ルクダは誰に対しても分け隔てなく元気に接するが、スフロアは家の事情もあって他人とあまり交流しないようにしている。
ダフティは礼儀正しくよく笑ってくれる良い子だが、ラフティリは誰に対しても直球で自分の考えをぶつける。
初めのこの五人で食卓を囲むのはどうかと思ったが、俺の心配を余所に皆仲良くなってくれた。
今ではこいつらと一緒に朝食を取らないなんて信じられない。
口の中の物を飲み込んで俺も会話に混ぜる。
「今の所全戦全勝だよ。向かう所敵無しだな、俺達は」
「この前は三組にも勝ったし波に乗っているわ!」
ラフティリに目配せし、お互いの活躍を褒め合う。
八組に勝って三組にも勝った。
作戦を緻密に組んで挑んで来た八組とは違い、三組は脳筋クラスだった。
正面から突っ込んでそのまま勝つ。
それが三組のクラス対抗戦のやり方だ。
ブラリは三組との対戦を「策も何も無いつまらない戦い」と言っていたが、俺としては楽しかった。
敵と同じ戦法で敵を出し抜く。
ブラリはそういう作戦を組みたかったらしいが、三組相手だとただのパワー合戦になる他無かった。
俺、ラフティリ、ブラリ、スフィラの四人で三組との対抗戦に出場した。
四対四の乱戦。
戦いは激しい物になったが、結果的にこちらは誰一人欠ける事無く勝利した。
三組との対抗戦では意外にもスフィラが戦闘面で強さを見せつけていた。
あの短刀捌きは同学年だと一番では無いだろうか。
「このまま行くと、そろそろ私達のクラスと当たるんじゃないかしら」
スフロアがウキウキした顔をしながらそう言った。
スフロア、ルクダ、ダフティの三人は一組。
一組はこのスイザウロ学園初等部で一番優秀なクラスだ。
俺達十五組とは天と地程の差があるといっても過言では無い程の優等生で構成されたクラスである。
対して十五組はまともに授業を受ける事も出来ない問題児で構成されたクラス。
そんな一組と十五組が戦えば結果は火を見るよりも明らかかもしれないが……。
「ぜってー、負けんぞ」
俺は不敵に笑って、スフロアにそう返した。
—————
「アズモちゃん次の対抗戦相手が決まったよ!! 見た!? 見たよね!!!」
「私達も遂にここまで来たのね……長かっ……いや、全然長く無かったわね」
教室に入るとマニタリとムニミーに捕まる。
今朝、寮でスフロア達と対抗戦の話をしていたが、まさか今日発表されるとは。
「あぁ、見たぞ。対戦クラスは——」
「皆大変だよ! 次の対戦クラス一組だよ!」
全部言い切る前に物凄い勢いでドア開け興奮した様子で入室して来たブラリにセリフを奪われた。
「見た! 見たよね、アズモちゃん!?」
「見たよ」
「僕達も遂にここまで来たんだね……長かった……いや最速だったね」
「このくだりもうやったよ」
このやり取りは対戦クラスが決まる度にやっている気がする。
ここまで来ると十五組の恒例行事だと思う。
「んで、今回の作戦はもう決まったのか?」
試合毎に作戦を考えて来るブラリにそう聞く。
突飛な発想でユニークな事をやらせて来るが、勝てるし何よりブラリの作戦は面白い。
「僕でもまだ流石に決まってないね」
「決まったのは今朝だしな、まあ当然か」
「明日までには考えて来るから、皆待っていてよ。あ、そうだ。今日の放課後一組にお邪魔しに行くけど、アズモちゃんも一緒に来てよ」
「いいけど、また殴り込みに行くつもりか? やだよ、俺」
八組、三組との対抗戦が決まった時はクラスの皆を引き連れて殴り込みに行った。
どちらのクラスでも「お前達すげーなー」と生徒に歓迎されるが、その後先生達に怒られる。
あんな思いをするのは二度と御免だ。
「一組はダフティがいるからそんな事はしないよ。今回は純粋に顔合わせだね」
「そういう事ならまあ……」
ダフティはブラリの双子の妹だ。
寮で同室だから分かるが、ブラリとダフティはちっとも似てない。
顔は微妙に面影があるかもしれないが、性格は真逆。
落ち着きが無くて何をしでかすか分からないブラリと、落ち着いていて物腰が柔らかく先生からの信頼が厚いダフティ。
正反対の双子だ。
そんなブラリだが、妹のクラスには殴り込まないという常識は持ち合わせているらしい。
その意気で殴り込むという事自体がおかしいって事に気付いてほしい。
「じゃあ決まりだね!」
—————
授業が終わり放課後。
ブラリと二人で、廊下を歩いていた。
「スフィラは良いのか? あいつお前の従者なんだろ?」
「スフィラは明日の対策会議のために資料を集めてきますって言ってどっか言っちゃった」
「あぁ……」
となると、今頃放送部当たりにいるのだろうか。
スフィラは膨大な準備をして対抗戦会議にやってくる。
対戦クラスの過去にやった試合映像や、クラスの要注意人物を纏め映像を作り簡潔に説明してくれる。
有能な従者だとは思うが、あれで六歳と考える少し怖い。
「ん……? 一組ってこっちだっけ」
「よく怒ってくる先生が居たから、別の道を通っているよ」
「そういう事か」
まぁ、問題児クラスのリーダーだもんな。
ブラリもブラリで相当なものだ。
授業中に抜け出してどこかに行ってしまうし、先生にはタメ口を使う。
パーフェクト先生、もといテリオ兄さんが来てマシにはなったが、それでも現役の問題児だ。
それにしてもだ。
「随分歩くな。俺が道案内してやろうか?」
「いや、大丈夫だよ。もう着いた」
「空き教室だよなここ、しかもかなり奥の方の」
ブラリが扉を開け、入ってと言う。
ここでダフティ達と待ち合わせでもしていたのだろうか。
「誰もいないじゃないか……」
ブラリも教室に入りドアを閉めた。
空き教室に二人だけになる。
何故だか知らんが今の状況はあまりよろしくない気がする。
どうしてだろうか。
「……おいおい、まさか告白でもしようとしているのか俺に」
「まさか、ダフティより良い子じゃないとね」
「それだとだいぶ選択肢が狭まるな」
「まぁ、許嫁が居るからそんなの関係無いけどね」
許嫁。
そう言えばブラリは王族だ。
親の都合で決められた相手がいてもおかしくはない。
だがそうなるとだ。
ブラリはなんで俺と二人きりになろうとしたんだ。
嫌な汗が流れる。
いざという時はやるしかない、か……。
「そう身構えなくていいよ」
「そうか。ところで何の用なんだ?」
ブラリが俺に一歩ずつ近づいて距離を詰めて来る。
「うーん、なんて言えばいいのかな。どう言ったら伝わるか分からないんだけどね」
俺の目の前でブラリは止まる。
そして怪しげな表情で言った。
「僕が内通者だよ。って、言ったら伝わるかな」
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