五十話 「やるからには誰一人落とす事なく完封しようね!!」
「さあ、本日も始まります! クラス対抗戦です! 実況を私、放送部のクラーマーファ、解説を赴任して来たばかりなのに口が悪過ぎて瞬く間に有名になった先生、ディスティア先生でお送りします!」
「なんだお前。召喚術の成績を下げるぞ」
会場が盛り上がりかけるが静まる。
「えーっと……ネスティマス家が四女、最強の骸骨使いことディスティア先生でお送りします!」
「やれば出来るじゃねえか。お前らよろしくな!」
会場が今度こそワーと盛り上がった。
今日も修練場に見学してきた者は多い。
「本日の対戦カードは十五組と八組です! いやー、それにしても今日も相変わらず凄い観客の数ですね! やはり目当ては十五組でしょうか! 竜王家と魔王家がどちらも居るだけでなく、前回の対抗戦が凄かったですもんね!」
「あぁ。それ目当てで来た客ばかりだろうな。それ程前回の十五組の試合は見事なもんだった」
「ですよね! 私、本当は今日違かったんですけども、どうしても実況したくて無理言って譲ってもらいました!」
「お前……ちゃんと交渉したんだろうな? 職員室で話題になっていたぞ」
「勿論ですとも、グーでいきました!」
「殴ってんじゃねえか。私が生徒指導を任せられるって話が今出ているんだからあまり手間はかけさせるなよ」
「えっ……!?」
「あ、あ、あ……そ、そろそろ時間ですね! ステージは引き続き森林ステージです! では本日も張り切っていきましょう!」
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「えっ、生徒指導の先生がディスティア先生になるの?」
ムニミィメムリが青い顔をしていた。
問題児だらけの十五組だが、生徒指導にお世話になっている数では彼女がダントツだ。
なにせ彼女は備品を爆発させる。
ムニミーだけ机の交換を何回かなされているくらいだ。
「ムニミーちゃんも僕みたいに逃げればいいんだよ」
「それは問題の先延ばしであって解決じゃないのぉー……」
項垂れるムニミーにブラリが声を掛けるが突っぱねられていた。
「でも緊張は解けたよね」
「それはそうだけど、別の問題が出来たの今……」
ムニミーは対抗戦に出るのは今回が初めてとなる。
さっきまで控室の隅で白い顔をしながらブツブツ言っていた。
今は青い顔をしているから少しはマシになったと捉えるべきだろうか。
「情けないわね、なるようになるしかないわよ!」
ラフティリに正論を言われるムニミーが少し哀れだった。
ムニミーは十五組で一番勉強が出来る。
学校の備品を爆発させる事から目を瞑れば優等生なのだ。
対してラフティリは毎時間ほぼ寝ている大人しい問題児。
勿論、成績は順当に悪い。
「くっ……やってやろうじゃない! 生徒指導上等よ!」
ラフティリに言われたのが大分堪えたのかムニミーは開き直った。
そんなムニミーに俺はボソっと言う。
「そういやマニタリが、『最初に脱落したら机の中に入っている実験器具全部壊すね~』って言っていたぜ」
「っ……!?」
この言葉はマニタリに「もしムニミーちゃんが怖気づいていたら言っといてね」って託された言葉だ。
だが、目がマジだったのでマニタリは絶対やるだろう。
「貴方達、絶対勝つわよ! やるからには誰一人落とす事なく完封しようね!!」
「「おー!」」
「僕の台詞が取られた……まあ良いけどね。おー」
闘志をメラメラと燃やすムニミーが発破をかけ、俺とラフティリが掛け声を上げる。
ブラリはちょっと萎えていた。
開始のブザーが鳴り、ステージへの扉が開く。
俺達はムニミーを先頭に扉をくぐり抜けていった。
—————
結局今回の対抗戦は、触媒を用いて召喚した俺のスズランと、ラフティリのラフタロウは使用を認められなかった。
強すぎるというのもあるとは思うが、今シーズンでは四対四で対抗戦のイメージを掴む事に全力を注いで欲しいと言われた。
当初の予定では、ラフタロウの視覚共有を使ってラフティリが索敵をするはずだった。
それが叶わなくなったので、前回に引き続きブラリが額に角を生やし敵の位置を探る。
「うん、見つけた。東に固まっているね。ただ、今回は他の場所でも微かに音が聞こえるからそこにもいるかもね」
ブラリの索敵は耳を使って行う。
魔物化で五感を強化し、凡その敵の位置を把握している。
「行くのか?」
「うん。今回は正面から向かって倒すよ。最短距離で行く。ラフティーちゃんはムニミーちゃんを連れて空からお願いね」
「分かったわ!」
ラフティリが背中に水色の翼を生やす。
両手に試験管を持ったムニミー抱え羽ばたく。
「じゃあ、作戦通り頼んだよ」
「爆発してくるよ! そっちも頑張ってね!」
ラフティリとムニミーが上空へと上がり、見えなくなる。
それを見届けると、俺達も走り出す。
足を魔物化させ、全速力で駆けて行く。
森林ステージはその名の通り、木々が生い茂っている。
足場も見晴らしも悪く、障害物も多い。
俺はアズモと訓練の一環として、実家の近くの山でよく走り回っていたから慣れているが、ブラリもぴったりくっついて来ていた。
「動けたんだな」
「僕を舐めてもらっちゃ困るよ。これでも昔から家族が心配する中、家を抜けて色んな場所に行っていたからね」
「なるほど、次期魔王様は鍛え方が違うな」
これでもと言っていたが、普通にイメージだった。
今悪ガキやっている奴は、そりゃ昔も悪ガキだろう。
ツッコミを入れかけたが、興が醒めるのでグッと堪えた。
「音はどうだ?」
「だいぶ近いね。そろそろ見えるよ」
ブラリがそう言ってからそこまでしない内に横に気配を感じ後ろに飛ぶ。
木で見えなかった位置から影が飛び込んで来た。
「やっぱやるっすね! なんで全力疾走しているのにいきなり後ろに飛べるのか分からないけど流石っす!」
テウだった。
テウはそう言うと、木に戻って隠れる。
テウと森林ステージの相性が抜群に良い。
俺達と比べても小柄なテウはこの見晴らしの悪いステージには打って付けだ。
本人もそれを理解して、最大限利用している所が憎らしい。
俺とブラリはお互いを背にして、テウに備える。
ブラリの方で身体を打ち付け合う音が聞こえた。
どうやら、ブラリがテウの攻撃を防いだらしい。
テウは直ぐに木に戻り、攪乱するためか色んな木に飛び移っていく。
『む、コウジ右に飛べ』
アズモの言う通り飛ぶと、左にテウの気配が走った。
気配はすぐにまた木に戻る。
今度はガサガサと音が聞こえ、影が俺の方とブラリの方で同時に二つ飛び出して来た。
これは、テウじゃない。
恐らく映像の時に見た果実だ。
「壊そう」
「分かった」
避けようとしたが、ブラリの提案に短く了承を返して飛んで来た物を壊す。
木から飛び出して来た影はやはりテウでは無かった。
殴った物は勢いよく爆ぜると、煙が出て来た。
ブラリの方も同様だったらしく、煙が更に立ち込める。
ただでさえ木々で視界が悪いのに、更に視界が悪くなる。
最早何も見えない。
適当に動いて煙を抜けてもいいが、テウがどこにいるかも分からない。
迂闊には動けない。
気配が再び、俺の元に迫る。
「まあ、聞こえはするけどね」
直後に獲物を捕らえた音が聞こえた。
残念ながら迫った気配が俺に届く事は無い。
ブラリに捕まったのだ。
「残念、捕まっちゃったね」
「無念っす……」
「いやー、さっきの煙は賭けだったよ。君達が脱落覚悟で特攻しないに賭けて正解だったね」
ブラリは楽しそうに言う。
映像上では煙が出て来る果実なんて出てこなかった。
この煙は俺達との対抗戦に合わせて作った物だろう。
もし、爆破する果実だったらさっきの陽動で二人共脱落していた。
こいつは土壇場で賭け事をしたのだ。
「やるならひと思いにやってほしいっす」
捕まり諦めたのか、テウはそんな事を言う。
今この状況で俺達に二人に勝てない事を察したのだろう。
「んー、こんなに煙が立ち上がっていたら良い目印になるだろうね」
「……っ!?」
ブラリの言葉にテウが驚く。
「アズモちゃんから見て北東の木の裏にもう一人だね。せーので、上に一緒に投げようか」
すぐにブラリの言う木の裏に移動する。
確かに一人いた。
視界が悪いせいで顔は分からないが、俺が来た事に気付いたそいつは逃げようとする。
この距離まで近づかせた時点で、もう俺から逃げるのは不可能だ。
煙のせいで、この子も周りが見えていなかったのだろう。
詰めが甘かったな。
俺は逃げようとした子をガッチリ捕まえた。
「こっちも準備出来たぞ」
「じゃあ、せーの!」
俺とブラリは捕まえたテウともう一人を上空に勢いよく投げる。
投げられた二人は煙を抜け、待機していた誰かが動きだす。
「フールぅぅうううう!! 駄目だぁああああ!!!」
テウの絶叫が聞こえたが、もう遅い。
例え、待機していたフールが爆発物を降らすのをやめようが、更に上空にはラフティリとムニミーがいる。
「やっちゃえ、ムニミーちゃんー!!!!!」
テウの絶叫に負けない大声をブラリがあげる。
空中に爆発音が轟いた。
ムニミーが手に握っていた爆発物が、フールの持っていた爆発物を誘爆させ派手に爆ぜた。
八組から、三人脱落者が出る。
「あと、もう一人は……。ラフティーちゃんが見つけたから倒して来るって言っているね。これはもう僕達の勝ちだ」
「んー、賭けはヒヤヒヤしたぜ」
「まあまあ勝てたから良いよね」
「まあな」
もう終わったと思いブラリと喋っていると、上から絶叫が聞こえてくる。
「あああああああああああ!!!」
ムニミーの声だった。
ラフティリが空中で放したらしい。
慌ててムニミーをキャッチする。
直後、試合終了のブザーが鳴り響いた。
ラフティリ(あの木に果実がなっているわね)
ラフティリ「最後の一人を倒してくるわ!」
ムニミー「えっ、ちょっ! あああああああ!!!」
本編五十話目です。
一回エタりかけた物のここまで来れて非常に感慨深いです。
二章はそろそろ終盤に入ります。
引き続きよろしくお願いします。
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次回は対抗戦講評です。




