四十七話 『自分の足で歩け雑魚ドラゴン』
修練場に襲来したエクセレを撃退した後、今後の事について兄姉と話していた。
「まさかオミムリ先生がねえ……」
テリオが壁に寄りかかりながらそう呟く。
オミムリ先生は一言で言ってしまうと、イカれたストーカーだった。
「彼はディスティアちゃんと違って真面目な先生だったよ」
「あぁん……?」
「勤務態度は真面目で一組の担任を任されて、休日も色んな施設に綺麗な花を無償で届けに行く素晴らしい人だったさ」
オミムリ先生の見た目はテリオが言う通り真面目そうな人だった。
正体が看破される寸前まで俺の召喚獣の危険性を考え、対抗戦で使わない方が良いとガラの悪いディスティアに臆せず訴えていたほど仕事に対して真摯に取り組んでいた。
「それがまさか、コウジ君が好きすぎて世界を超えた誘拐をしてきた人だったなんて、人は見かけによらないね」
「お前が言うな」
この兄姉仲が良いな……。
今この空間には俺が運んでいる最中に起きたラフティリも居る。
ディスティアの膝の上でポリポリとお菓子を貪っていた。
叔母さんの膝の上でぽけーっとしながらお菓子を食べている姪の姿は餌付けに近かった。
「はぁ……兄貴はクソだけど姪は可愛いな」
お菓子を食べているラフティリの頭をわしゃわしゃするディスティア。
ラフティリは食べづらい事にキレて手に噛みつくが全く気にしている様子はない。
「もうこれで分かったけど、エクセレと繋がっている団体がいると見てまず間違いないね」
「あぁ、それには賛同だ。確認出来ているのはオミムリと、最後に現れた男の二人か」
「それとフィドロクアが入学式の日に見た生徒ってとこかな」
「その生徒はオミムリだったんじゃねえのか」
「その可能性もあるけど、そうじゃない可能性もあるからさ」
「用心しておくに越した事は無いって事か」
オミムリは変身する。
修練場で変身のレパートリーを見たが、どれも俺が見た事のある顔ぶれだった。
この世界に来る前に親交のあった人ばかりでゾッとした。
あいつは俺の行く先々で顔を変え、形を変え接触して来ていた。
たぶん俺の中学生以降で出来た知り合いの半数以上はオミムリの擬態した姿だった。
なんでそんな事をしてまで俺に関わって来たのか全く分からない。
「ベタベタするなー!」
わしゃわしゃされ過ぎて遂に爆発したラフティリが叫ぶ。
そして俺を盾にするように、隣にくっついて座る。
「現在存在が示唆されているのも含めたら三人。団体の目的は一体なんなのだろうか」
「人間絶対滅ぼすとかって考えてんじゃねえの」
「エクセレだけだったらそうかもしれないが、オミムリはコウジ君の熱心なストーカーだからさ」
「……そう言えばコウジって誰なの?」
ディスティアから逃げてきたラフティリがふとそんな事を言う。
その言葉に場が静まった。
コウジは俺の名前だ。
今ラフティリが盾にしているアズモの身体に憑依してアズモの代わりによく喋っている。
「ラフティリちゃんには言っていいんじゃないかな。アズモちゃんはもう起きたかい?」
「あ、はい。アズモならラフティリを担いでいる時に起きたみたいで、ずっと頭の中でうるさかったです」
「アズモならずっと起きているじゃない」
ラフティリが俺の顔を見て不思議そうに言う。
知らなければ分かりようが無いが、ずっと起きていたのは俺だ。
俺が身体を動かしていた。
それを今から言うのか、ラフティリに。
ラフティリは竜王家の一員だ。
内通者で無いって事は分かるが、引かれないかが怖い。
「……ラフティリ聞いてくれ。俺がコウジだ」
「アズモじゃない?」
「いや、色々事情があってこの身体には二人いるんだ。アズモが元々身体に居て後から俺が入って来た」
「……どういう事?」
分かってはいたが、この事を伝えるのは非常に難しい。
身体に二人いる説明なんてどうやってすればいいのだろうか。
いつものをやるが、ラフティリに伝わるかどうか自信はない。
とりあえず手伝ってくれよ、アズモ。
「良いか、よく聞いていろよ。……俺がコウジで」
「私がアズモだ」
「……!」
俺達は喋り方が違う。
喉の使い方が違うのか、出て来る声の高さも違う上に、イントネーションなどにも若干の差異がある。
ハキハキ喋っているのが俺で、気怠そうに喋っているのがアズモ。
「そんな芸が出来たのね、アズモは! 凄いじゃない、まるで別人よ!」
「別人なんだよ!」
全く伝わっておらず、俺は思わず叫んだ。
「くぁっはっは……私の姪達が可愛くて可愛いんだが」
「最高の二人だね。フィドロクアも娘をアズモちゃんとコウジ君に託したくなるさ」
ディスティアとテリオの二人は俺達を見て笑っていた。
「あ、ごめんごめん。伝えづらいだろうし、手伝ってあげるよ」
「ずりいな、私も混ぜろよ」
テリオが俺達の後ろに立ち、俺達の肩にそっと触れてくる。
ディスティアは俺の隣にくっつくように座って来た。
「さ、もうラフティリちゃんに伝わるようになっているからさ、何か喋ってみなよアズモちゃん」
『馬鹿ゴミアホ。自分の足で歩け雑魚ドラゴン』
「なんてこと言うのよ!」
ラフティリが怒って足を殴って来る。
「今の暴言は俺じゃないアズモだ」
「だからアズモはお前じゃない!」
『まだ気付かないのかこいつは』
「また何か言っているじゃない!」
「よく聞いてみてくれ、それ俺じゃないから!」
「分かったわよ!」
聞き分けの良い子だった。
この子沸点は低いけど、割と人の意見は聞いてくれるんだよな。
茶化さないで同時に喋ってくれよ、アズモ。
「よし、じゃあ行くぞ」
「俺がコウジだ」
『私がアズモだ』
「……!?」
ここでやっとラフティリが驚愕した表情になる。
「今確かに二人分の声が聞こえた……!」
やっと伝わったようだ。
ラフティリは興奮した様子で喋り出す。
「二人いるってそういう事なのね! やっと分かったわ! いつもあたしと喋っている方がアズモでさっきあたしに酷い事言った奴がコウジね!」
「違うわ!!!」
勿論、俺達とラフティリのやりとりを傍受している二人が再び笑ったのは言うまでもない。
~前話の後書きアズモVer~
アズモ『もうラフティリは起きているぞ』
コウジ(俺味覚あったよな…?)
アズモ『聞け! 今すぐ下ろせ!』
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