四十六話 「久しぶりに喋ろうよ姉さん」
ブラリとディスティアのピンチに現れたのはパーフェクト先生もとい、テリオだった。
ネスティマス家No.3の実力の持ち主と聞いているが、果たしてどうなのか。
テリオは出入口の位置から一飛びでディスティアに合流する。
背中には綺麗な純白の翼が生えていた。
「遅れて悪いね、ディスティアちゃん。明日の準備をしていてさ」
「ちゃん呼びは気持ち悪いから止めろ。今何歳だと思ってんだよテメェ」
「何歳になってもディスティアちゃんはディスティアちゃんだからなー。……さてと、私一人でも大丈夫だけど共闘するかい?」
「当然だろ。良い所だけ持っていくつもりか」
ディスティアは抱えていたブラリをヒョイと後ろに投げる。
投げられたブラリはディスティアの召喚した赤ローブの骸骨にキャッチされた。
「今の行動でディスティアちゃんがクラスを任せられなかったのが分かったね!」
「ほっとけ。だいたい、他の教師が甘すぎるんだよ。子供と言えど魔物はそんな軟じゃないっての」
「時代が違うのさ、ディスティアちゃんの時とは。適応しなきゃ老害まっしぐらってね」
「あーあー、うっせええての! 私を注意しに来たんじゃないだろクソ兄貴!」
「そうだね。あ、逃がさないよ姉さん」
テリオが指から再びレーザーを照射する。
エクセレは横に一歩ずれそれを避ける。
「もっと兄妹の会話を楽しんでくれていていいのだぞ」
「あぁ? なら、お前も混ざれよエクセレ」
「久しぶりに喋ろうよ姉さん」
そう言いながらもテリオは十本の指から断続的に極細のレーザーを照射する。
エクセレは全てのレーザーに当たる事なく躱す。
「会話をしたいならこのレーザーを止めてくれないか」
「止めても逃げないなら止めるよ。暴走してない状態の姉さんを会うのは久しぶりだからさ。でも逃げるだろう?」
「お前達が私達を見逃してくれるのなら会話に興じたいが」
「そういうわけにはいかないんだよなぁ!」
レーザーの乱射にディスティアの乱打も加わる。
ディスティアの召喚獣達の装填が終わる度に、一斉掃射もなされていく。
巻き上がった粉塵などお構いなしにディスティアのラッシュと、テリオの乱射が行われその内の何発かがエクセレに命中する。
エクセレは上手く立ち回り、二人の攻撃を避け、隙を見ては攻撃を繰り出す。
強敵二人を相手にしているのを感じさせない正確な体捌きをし、雲を使う。
ディスティアとテリオの二人はエクセレを挟むように位置取り、遠距離と近距離を巧みに使い分け、エクセレを陣から逃がさない。
「流石に、お前達二人相手だとキツイな……」
何度目かの一斉掃射がなされ煙が上がると、身体にいくつも傷が出来明らかに疲弊した様子のエクセレが現れた。
あのエクセレが苦戦していた。
教室で一歩的に全てを薙ぎ倒したあのエクセレが押されている。
「これはもう出し惜しみをしている場合ではないな」
「——万物を覆え。グリ・スィネフォ」
「ならこっちもやるだけさ。——万物を照らす。アスプロ・アクティノヴァイア」
「ついでに撃っとくかぁ。——万物から吸い上げろ。ルラキ・デモナス」
これは、俺達魔物が使える能力である解放。
嘗て一度だけ見た事がある。
実家の近くの山でフィドロクア兄さんが使っていた。
あの時は、あの山の全てが数瞬で水に包まれた。
そんな事を容易くしてしまう解放。
それが一気に三つも。
まず、雲が溢れ。
光で出来た正方形がそれを全て包み込む。
最後におどろおどろしい不穏なオーラが正方形の中を満たした。
俺達の前には、不吉な色をした正方形しか見えない。
中で何が起こっているのかちっとも分からない。
「——良いのかね。生徒達が残っているのに」
「!?」
いつの間にか、俺達の隣に長身の男が居た。
背中まで伸びた綺麗な長髪を携えた男だった。
「うーむ、どうしようか」
男は思案顔になる。
一瞬、オミムリかと思った。
だがオミムリは身体を消耗し最早口だけしか残っていない。
つまりこの男は、新手の敵。
「皆、構えろ!」
俺が叫ぶが、皆からの返事は無い。
どういう事かと周りを見ると、皆倒れていた。
血も流していなければ怪我をした様子も無いが、みな糸が切れたように倒れ込んでいた。
あの正方形に入りきらなかったディスティアの召喚した骸骨達も全ていない。
起きている者はこの長身の男しか居なかった。
「あー、そんな警戒しなくて良いよ。あっちでは久しぶりの姉弟喧嘩を楽しんでくれていると思ったが、どうやらもう時間切れのようだ」
長身の男の顔面がレーザーに貫かれる。
だが、男は倒れない。
「君は後で回収すれば良い。今はまずエクセレだ」
レーザーが再び照射され、男の顔に穴が空いて行く。
男は倒れない。だが、身体が徐々に薄くなっていった。
「その内また会おう」
「また会いましょうコウジ君」
一瞬、オミムリの声も聞こえた。
敵。また敵だった。
新手の敵は、後で回収すると言っていた。
俺はあと何回、狙わればいいんだ。
男は完全に消える前に、一言ボソッと残していく。
「まさか、君に感覚が無いとは」
それを最後に男は完全に消えた。
俺は慌てて全身を確認するが、どこにも怪我などない。
何かされたような跡は無い。
何も無いはずだが、一応アズモに呼びかけてみる。
返事が無かった。
「召喚獣からの連絡が無いと思ったら……クソ、すまねえ!」
駆けて来るディスティア。
正方形は既に無くなっており、雲も晴れていた。
「ディスティアも逃したよ。まさか仲間が他にも居るとはね、詰めが甘かったか」
テリオも俺達の方に歩いて来た。
「皆意識はないが、怪我はしていないぜ」
「保健室に皆を運び入れておこうか」
「敵の撃退には成功したが、なんかやり切れねえなあ~!」
「今回は目立つ被害がないのだからそれで割り切ろうか」
ディスティアとテリオは事後処理を始める。
ディスティアもブツブツ言いながら、骸骨を召喚して皆を運んだり、壊れた箇所を直させたりしていた。
「良かったら、アズモちゃんも手を貸して」
「あ、うん」
テリオに言われ、ラフティリを抱えて歩き出す。
さっき、長身の男に言われた言葉がどうにも引っかかった。
感覚がない。そんなわけはないはずだ。
味覚もあるし、触覚もあるし、痛みも感じる。
自分では何の痛みを感じないのに周りを巻き込んで好き勝手するなんて、
そんなの、まるで寄生虫みたいじゃないか。
ラフティリ「なんであたしは抱っこされてるわけ」
コウジ(俺味覚あったよな…?)
ラフティリ「聞きなさいよ!」
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