四十五話 「パパの仇が取れない!!」
オミムリに召喚されたエクセレは静かに周りを見渡す。
「……またこうして直ぐに機会に恵まれるとは運が良い」
ざっと状況を把握したエクセレは一言そう言った。
殺意の籠った鋭利な言葉。
また、俺を殺しに来たのか。
「おいおい、私は眼中に無いってか?」
「久しいな、ディスティア」
「あぁ、130年振りくらいか姉貴に会うのは」
そう言うと、ディスティアが揺らぐ。
直後に鳴り響く凄まじい打撃音。
音の鳴る方を見ると、エクセレがディスティアの蹴りを腕で受け止めていた。
そこから始まるディスティアの乱打。
衝撃がビリビリとこちらまで届いて来る。
目で追えない戦いだった。
「久しぶりの再会だと言うのに手荒だな」
「あぁ、会いたくて会いたくてたまらなかったぜ! お前がフィドロクアを昏睡させたって聞いてからよぉ!」
ディスティアが後ろに飛び、こちらに戻って来る。
俺達の方を見て、優しそうな笑みを浮かべた。
「お前ら、召喚魔法の使い方を見せてやるよ」
再び現れたエクセレに惑い、ずっと動けずにいた俺達を安心させるかのようにいつも調子で語り掛けてきた。
「来い。エプタ、サバァ、セプテム、セヴェン」
ディスティアの前後左右に、赤、黄、青、緑のローブを纏った骸骨が現れた。
木製の杖を持ち、鮮やかなローブに身を包んだ骸骨。
「今回は後方支援だけで頼む」
「分カリまし」
代表で赤色のローブを着た骸骨が答える。
「よく見ておけよ!」
ディスティアが飛び出す。
再び聞こえて来る打撃音。
しかし、魔法の炸裂音も響き出す。
黄、青、緑のローブを纏った骸骨が無詠唱で雷、水、風の魔法を放ち、ディスティアの援護を行う。
ディスティアの攻撃の合間を補助するように適切なタイミングで次々と魔法が放たれた。
その間、赤色のローブを纏った骸骨はブツブツと何かを呟き、大きな魔法陣を作り出す。
完成した巨大な魔法陣が光ると、大量の骨が魔法陣から浮かんでくる。
出て来た骨はカタカタと音を鳴らし、様々な形を成していく。
陸を這う獣、空を飛ぶ獣、人型、果ては竜の姿をした物まで。
骨で生き物の形に成ったそれらはみな一様に怪しげな紫の光を作り出す。
「準備デキまし」
「おけぃ!」
激しい肉弾戦を繰り広げていたディスティアは赤色のローブを纏った骸骨の言葉を聞くと、翼を生やし上に飛ぶ。
直後、紫の光が全てエクセレに向かって放たれる。
激しい爆発音と、目の開けていられない程の光。
巻き起こった粉塵がやむと、雲が出て来た。
「流石だねえ。やっぱり姉貴は強い」
「こんなものか?」
「んなわけ!」
ディスティアが地上に舞い戻り、再び熾烈な肉弾戦が始まる。
「ねえ、アズモちゃん。この前教室が酷い事になったのってこのエクセレって魔物が……?」
目を離せずにずっとエクセレとディスティアの戦いを見ているとブラリが震える声で尋ねて来た。
ブラリは困惑しているように見えたが、
それだけじゃない物が混ざっているように見える。
隣を見るとスフィラもブラリと同じような表情をしているのが見て取れた。
「あぁ……。俺の姉さんで天災に指定されている、エクセレだ」
「こいつがエクセレ……。だって、この姿ってあの日……」
見た事があるような反応だった。
聞こうとしたが叫び声に阻まれる。
「ちょっとこっちやばいって! アズモちゃん手伝って!」
「う、腕が取れるぅ……!」
「離せ!!!」
声のする方ではマニタリとムニミィメムリが必死で鬼のような形相をしたラフティリを押さえ込んでいた。
慌てて、ラフティリの裏に回り羽交い締めにする。
「ラフティー、落ち着け!」
「ああああ!! 離せぇぇアズモ! パパの仇が取れない!!」
「お前が行ったって無駄だ!」
「そんなの……そんなの、分からないわよ!」
「分かるよ……」
俺に持ち上げられたラフティリが両手両足をバタバタさせながら抗議する。
付近にいるマニタリとムニミィメムリがポコポコ蹴られていた。
俺だって、出来るなら自分の力でエクセレを倒したい。
それかせめてあの戦いに加勢したい。
だが、それは出来ない。
俺は自分が弱い事をよく知っているから。
それにこの身体は俺のものではない。
アズモの身体だ。不用意に傷つけるわけにはいかない。
「分からないわよ……」
ラフティリの抵抗する力がどんどん弱くなっていく。
「分からないじゃない、そんなのっ……ぅぅ……」
やがて、鼻の啜る音が聞こえ始めた。
拘束を解いて、地面に下ろすとラフティリが俺に抱き着き号泣し出した。
「あたしが強かったら、パパも先生もアズモも皆無事で済んだのに……。あの時、私は何も出来なかった……」
「エクセレの檻に囚われていたから仕方ない」
「あの時あたしも戦いたかった……。なんであたしだけ無事なの……。なんで見ているだけしか……」
「……」
あの時、エクセレが教室に襲撃して来た時、
ラフティリはエクセレの作った檻に囚われた。
傷つけないように、何も出来ないように檻に入れられた。
ラフティリは檻を掴んでずっと叫んでいた。
目の前で俺達がエクセレにボロボロにされるのを見ながら。
あの時、戦えていた俺はラフティリに何も言えなかった。
「……僕だって、何も出来なかったよ! 僕はラフティリちゃんみたいに戦おうとする事も出来ずに教室の隅でずっと震えていたよ!」
「私も何も出来ずにずっと震えていた! 私も悔しいよ! 友達が傷ついているのに何も出来なかった事……!」
マニタリとムニミィメムリがラフティリに叫んだ。
この二人は、エクセレが襲撃して来た時に逃げ遅れて現場に残っていた二人だ。
俺はずっと、二人はどう考えていたんだろうかと気になりながらも怖くて聞けなかった。
エクセレが言っていた「人間」という言葉に言及されるのが怖くて。
そうか、二人はずっとそう思っていたのか。
「強くなろう。俺達皆で強くなろうよ」
俺は自然とそんな言葉を吐いていた。
「僕はぜっっったい強くなるよ! あんな奴に負けないくらい!」
「私もいつかあんな奴ぶっ飛ばすわ!」
マニタリとムニミィメムリが俺に続いて言う。
「うん……」
ラフティリは小さな声で、だけど力強くそう言った。
目を裾でゴシゴシと拭い、ディスティアとエクセレの戦いを見守る。
今はただ、ディスティアが勝てる事を祈るだけだ。
しかし、見つめた先には予期せぬ人物が居た。
慌てて回りを見ると、両手を胸に当て心配そうな表情を向けるスフィラ。
スフィラしか居なかった。
「何しているんだ、ブラリ……」
俺の声は本人に届かない。
ディスティアとエクセレも不意に近くに現れたブラリに気付く。
「何してんだお前!」
「私達の戦いに参戦しようなんて血気盛んな子だ。将来が楽しみだ」
ディスティアは驚き、エクセレは感心する。
一瞬、間が出来る。
「い——」
「やめろ!」
その間でブラリは何かを言い掛けるが、何かを察知したディスティアに捉えられ阻止された。
その隙を見逃す程、エクセレは甘くない。
ディスティアの召喚した骸骨達の魔法を避ける事なく一直線で突っ込む。
が、二人に届く寸前で後ろに下がった。
数瞬後、先程までエクセレが居た場所にレーザーが刺さり、地面を貫いた。
修練場の出入り口を見ると、右の人差し指を突き出したパーフェクト先生が居た。
「やーっと、来たか! おせーんだよ、テリオ!」
ディスティアが俺と同じ方向を向き、そう叫ぶ。
その名には聞き覚えがあった。
テリオ・ネスティマス。
ネスティマス家の次男。
ネスティマス家で三番目に強い竜だ。
「ごめんごめん、ディスティア」
パーフェクト先生はおちゃらけた表情をする。
「ここから巻き返すからそれでチャラってことでよろしく!」
~少し分かるネスティマス家~
始まりの龍 ギニス・ネスティマス
光線龍 テリオ・ネスティマス
屍龍 ディスティア・ネスティマス
水龍 フィドロクア・ネスティマス
主人公 アズモ・ネスティマス
友達龍 ラフティリ・ネスティマス
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