四十三話 「お前は何者なんだ」
目の前でディスティアと喋っているオミムリ先生に違和感を覚える。
親父が、フィドロクア兄さんが入学式の日にエクセレを学園で発見したらしいと言っていた。
つい先日、俺のクラスにエクセレが襲来した。
アスミ先生に大怪我を負わせ、フィドロクア兄さんの身体をズタボロにし、俺の事を殺そうとしたエクセレ。
俺は骨を何本も折られ、身体に無数の穴を開けられる寸前までいったが、アズモの身体と言う事もありエクセレが手を抜いていたのかまだマシな方だった。
アスミ先生はまだ職場復帰出来ていなく、フィドロクア兄さんもまだ目を覚まさない。
そのエクセレが入学式の日に目撃された。
俺と同じ学年だと思われる生徒と一緒に居る所を。
その生徒……エクセレと繋がっている内通者は子供なはず。
だから、オミムリ先生なわけがない。
それを分かっているはずなのに、目の前に居る男に脳が警鐘を鳴らして止まない。
何故、この男は入学式が行われているはずの時間に、先生という立場でありながら、廊下をうろついていたのだろうか。
偶々何か忘れ物をしていたのかもしれない。
俺達みたいな迷っている生徒を迎えるために見回りをしていたのかもしれない。
だが、この先生は俺達を式場に導いた後どこに行っていたんだ?
ただの杞憂かもしれないが、もし本当に内通者だった場合俺達や、周りにいる人はどうなる。
エクセレの時みたいに、怪我する人が出て来るかもしれない……。
身体が震えて来る。
『今はディスティアがいる』
アズモに言われてハッとする。
エクセレの時は時間差でフィドロクア兄さんが来てくれた。
そのお陰で俺達は助かった。
そして今。
エクセレ襲撃を得た事で親父達が対策を講じてくれ、ディスティアとパーフェクト先生がいる。
二人はフィドロクア兄さんがやられた事を踏まえ、来てくれたアズモの兄姉。
俺達の学園生活を守れるように送られた警護要員だ。
『これは逆にチャンスだ。会話をして違和感の正体をはっきりさせるぞ』
あぁ。
意を決し、ディスティアとオミムリ先生のいる所に向かう。
「——なので、その召喚獣を対抗戦で使うのは禁止した方が良いですって」
「いやそれなら、ビームだけ縛ればいいだろう。折角召喚出来たから使わせてやりたい」
「ですが万が一もありますし、転移機能も万能ではないのですよ」
なんか揉めていた。
出鼻を挫かれるが、もう覚悟は決めでいる。
「あの……」
「ん、どうしたアズモ?」
「おや、アズモさん」
俺の不安を察したのかスズランが傍に寄って来る。
俺達を守ってくれそうで更に心強くなった。
「話を遮ってしまって申し訳ないですが、オミムリ先生にどうしてもお礼を言いたくて」
「私にお礼ですか?」
キョトンとするオミムリ先生。
俺は真意が全部伝わらない事を承知の上でディスティアに目配せをする。
これから仕掛けるぞ、と。
伝わったかどうかは分からないが、ディスティアは少し俺達の方に身体を寄せた。
「はい。入学式の日の事を覚えていますか」
「入学式? あぁ、あの時教室に居ましたね」
「恥ずかしながら、俺とラフティリは字が読めなくて集合場所が分からなかったので助かりました」
「道理で教室にいた訳ですね……」
ここからだ。
オミムリ先生の喋る一言一句を聞き逃さずに、言っている事が何かおかしかったら直ぐにディスティアに告げる。
「あの時は助かりました。次会ったらお礼を言いたいなと思っていまして、ありがとうございます」
「いえいえ、そんな気にせずに! 教師として当然の事をしたまでですよ!」
「ですが本当に助かりました。入学式があってオミムリ先生も色々と忙しいでしょうに、よく俺達の事をあの時助けてくれましたね」
「君達は運が良かったですよ、本当に。偶々私が、忘れ物に気付いて廊下を慌てて歩いていたらどこからが声が聞こえてきて、まさかと思い向かってみたら貴方達が居て驚きましたよ」
今の所、違和感は無い。
本当に忘れ物を取りに行っただけかもしれない。
だが、念には念をだ。
踏み込んで詳しく聞いておく。
「忘れ物ですか。そのお陰で俺達は助かったんですね。ちなみに何を忘れたんですか?」
「クラス名簿です。私とした事があろう事か、担当する事になっていたクラスの名簿を忘れていまして……いや、お恥ずかしい」
「クラス名簿ですか、確かにそれは取りに行かないとですね。急いでいたでしょうに、態々初等部棟の端にある十五組まで来てくれるなんて」
この学園は一組から順に玄関から近くなるように教室が決まる。
下駄箱から右に曲がって道なりに進んで最初に着く教室が一組。左に曲がって最初に着く教室が二組。右の二番目が三組、左の二番目が四組。
十五組は右の一番端に位置する教室だ。
だが、それだけでは確信に変わるにはまだ薄い。
何か無いか?
嘘を見破る魔法でもあればこういう時助かるのかもしれないが、何も無い。
「それに聞こえてきた声が、知っている声でしたからね。二重で驚きました」
何か会話からヒントが得られない物かと苦心していた。
そしたら、オミムリ先生が何か気になる事を言う。
「知っている声ですか……?」
「アズモさんは知らないでしょうが、私は貴方を見たのはこの学園が初めてじゃないのですよ」
オミムリ先生は一体何を言っている。
俺がオミムリ先生に会ったのは入学式の時が初めてのはずだ。
「どこかでお会いしましたっけ?」
「はい。とは言え、話してはないのですがね。一方的に見て知っていただけです。流石に、知らないですよね。時々アズモさんの保育園に花を届けに行っていたのですが」
「花、ですか……?」
「花です。花を育てるのが趣味で沢山育てては、よく色んな所に配っていたのですよ。貴方達が卒園の時に胸に付けた生花。あの花も私が育てたのですよ」
あの花をオミムリ先生が育てた。
卒園式の日に、皆で胸に付けた紫色の花。
そうか、あの花はオミムリ先生が用意していたのか。
ここで違和感を抱き始める。
まだ気付いていないだけで、重要な気がする。
「初めて見た時は他の子に比べ、大変そうに歩いていたのをよく覚えています。ですが、見る度にどんどん活発に動き回るようになっていたのが印象的で覚えています」
オミムリ先生の言う事は合っていた。
この身体にはアズモと俺の二人がいる。
俺とアズモ、二人分の意思があるこの身体を動かすのは大変で最初は満足に動けなかった。
だが、次第に動けるようになった。
その過程を知っていると言う事は、オミムリ先生は確かに俺を見ていた。
「本当に俺の事を知っていたんですね。身体を動かすのがどうも苦手で……」
「先日のクラス対抗戦の活躍を見ました。あそこまで動けるようになったのですね。私は少し、親心に似た気持ちを抱きましたよ」
「ここまで動けるようになるのに本当に苦労しました。ですが、竜王の娘として恥じないよう頑張りました」
「そうですね。今じゃこの可愛い召喚獣を出せるくらいですから……」
オミムリ先生は俺の成長を慈しむかのように目を細める。
そして、しゃがみ込み俺の足元にいる召喚獣スズランを撫でる。
スズランは嫌がる事無く受け入れジッとしていた。
俺の召喚獣、スズラン。
俺の好きな白い花の名前から付けた。
鈴蘭。
……やっと決定的な事に気付けた。
ありがとう、スズラン。
「……俺のお母さんは花が好きだった。それで家の庭ではいつも色んな花が咲いていた。花の図鑑や、育て方が載った本が家にいくつもあったんだ。俺もスズランを咲かせる事に成功した時は嬉しかった」
「だから俺はあの花に既視感があったんだな。あの花の名前をやっと思い出した」
「あの紫色の花の名前はジャカランダ。鈴蘭と同じように、この世界には無い花だ」
「なぁ、お前は何者なんだ」
やっと、二十話の時に書いた伏線が回収できました。
長かった…。
勘の良い人なら、直ぐに気付けていたんでしょうな…。
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