四十話 「面白い話ですねー」で一蹴されてしまう推理
『ブラリが内通者? 根拠はあるのか?』
アズモにブラリが内通者なんじゃないかと語りかけると、アズモから根拠を求められる。
正直、根拠は無い。
それ所か「面白い話ですねー」で一蹴されてしまうかのような推理なんだが聞いてくれないか。
『寝付けないし良いだろう』
あの時から、エクセレに襲撃された時からずっと考えていた。
エクセレはアズモの身体の中に俺が存在している事を知っていた。
『そうだな。私の身体に人間が入っているのを理由に殺そうとしてきた』
何故、知っているのかは考えても分からなかった。
『そこがまず分からないと、本当に面白い話で終わってしまうぞ』
とりあえず聞いてくれ。
ただ、俺達の事を狙うのは、人間という種族が嫌いな奴しかいないだろう。
『ふむ、エクセレの狙いは明らかに私では無くコウジだったな。だが、それでさっき聞いたのをすぐに結びつけるのは尚早というものだ』
それはそうだが、ダフティの言っていた通り、この国は魔物の国だが人間との親和性が高い。
授業でこの国の歴史を少し習った。
この国は、国のあちこちに点在しているダンジョンを資源に出来た国だ。
ダンジョンを目当てに移住してきた冒険者、それも人間が国外からかなり来た。
この国に人型の魔物が多いのは、時と共に元々住んでいた魔物と移住してきた人間が結ばれ人間の血が混ざったからだ。
だから魔物なのに魔物化などという能力が使える。
『それがどう繋がるのだ』
さっきも言った通り、この国は人間が多く、魔物も人型なのがほとんどだ。
もし、この国に、人間嫌いが住んでいたらどうなる?
『そんな奴はこの国には住まないと思うが、本当に居るとしたらこの国から出ていくだろう』
そうだろうな。
だが、何らかの事情があって出る事が出来ないとしたらどうする。
子供だから、お金が無いから、大切な人と離れたくないから……様々な事情があると思う。
身分的にこの国に縛られているから。そういう理由もあるのではないか。
『それでブラリか……。確かにあいつは魔王家に産まれ、時期魔王候補としての育てられ方をした。自分の意思でこの国を出ていく事を、あいつの周りの奴も身分も許さないだろう』
エクセレに、アズモの身体に人間がいるなどと伝えたら確実に殺しに来る。
それをやったという事は、その内通者も俺の事を殺したかったと考えて間違い無いだろう。
エクセレを利用したいなら、この国に居る純粋な人間の飯に竜を混ぜれば良い。
そうしたらこの国は簡単に災害に見舞われる。
だが、天災として一般に知られるエクセレが暴走する事が分かっているから、竜の肉の入手など不可能に近い。
だが、エクセレと接触出来る魔物なら、一言ただ言えば良い。
アズモの身体に人間の魂が存在する、と。
きっと、同じ学び舎に人間が居るのが嫌だったんだろうな。
『ブラリはクラスに自分の面白いと思う逸材を集めたと言っていたが』
それは、確実に殺すためじゃないかと考えている。
あの日、エクセレが襲って来た日、ブラリは誰よりも早くベランダから外に出た。
その時にエクセレに俺の位置を伝えていたのではと考えてしまうんだ。
『ふむ、確かに全体的に面白い推理だ。父上が、内通者は私達と同じ学年の奴と言っていた。となると、六歳か七歳の子供になる。その年齢で人間を恨むようになるのに、さっきダフティから聞いたのを照らし合わせると、ブラリの動機は十分だと思える』
そう、それもある。
この年齢で人間を殺したい程恨むというのは難しい。
普通は恨むきっかけなどそう簡単に出来ない。
『だが、私の観点で物を申すと、ブラリはありえないだろう。私の中に人間が居ると分かっていて、あんなにも私にベタベタしてくるのはいささかおかしい。あいつは私の事を好き過ぎる』
あぁ、絶対ブラリのお気に入り面子に入っているだろうなぁ……。
『しかし、この国から出られない身分の奴と考えるのは面白い。人間嫌いなら、ほぼ人型の生徒で構成されるこの学園は生きづらいだろうな。何かしらの事件を起こして、それを理由に転学出来るように親を説得する。そういう考えも出来る』
確かに出来る。
俺達や、ブラリやダフティ、親がこの国の重要な人物だと、この学園は家族に推薦される。
それ程、この学園はこの国で格式が高く、歴史のある学園だ。
『面白い推測である事に代わりが無いというのがネックだが。身分の高そうな子供には注意を払うようにしておこう』
そうだな、そうしておこう。
『割と面白かった。明日も早いしそろそろ寝よう』
明日は、次のクラス対抗戦で十五組と戦うクラスが発表される。
きっと朝からブラリやラフティリがうるさいだろう。
明日に備えて体力を回復しておかないと。
おやすみ、アズモ。
『ああ、おやすみ』
普段使わない頭の使い方をして疲れていたからだろうか、
目を瞑るとすぐに熟睡出来た。
『………………ここまで、ミスリードだとしたら更に面白い。ダフティも人間を恨むには十分な理由を持っているのではないか』
—————
「アズモちゃん見た!? 見たよね!?」
翌日、クラスの扉を開けるとブラリが待ち構えていた。
こいつやっぱり俺の事が好き過ぎるだろ。
「あぁ、見たぞ。次の対戦クラスだろ」
「やばくなぁい!? 八組だよ、八組! 前回の対戦クラスが十四組だったのに、八組!」
そうなのだ。
普通、クラス対抗戦の対戦相手は自分の順位に近い所から選ばれる。
俺達のクラスは前回十四組に勝って、今は十四位。
八組は五組に勝っていたから、なんと今は五位だ。
下から数えた方が早いクラスと、上から数えて早いクラスが戦う事になる。
「かー、前回僕の見事な作戦が決まっちゃったからねえ! やっぱ、それが響いたんだろうなあ!」
「何言っているのよ、あたしの完璧な空中戦が響いたのよ!」
「僕のキノコ魔法もめちゃくちゃ評価されていたよね!」
ラフティリとマニタリも混ざって来た。
前回の対抗戦で出場出来なかったムニミィメムリとスフィラもいる。
「でも、やっぱり一番でかいのはアズモちゃんの活躍じゃないかな?」
「はい。空中で瞬時に三人も倒すというのが、あの試合で一番驚かれていました」
二人は試合中、客席で見学していた。
実況の熱を肌で体感した二人がそう言う。
「まぁ、三人の内一人は死にかけだったけどな」
「きぃぃいいい! あたしがあの時上手く決められていれば! 今度は負けないわ、アズモ!」
ラフティリがそう凄む。
俺としてはそう言われても、あまり誇れる気持ちでは無かった。
なんせ俺はアズモと二人で一人だ。
一人で考えて、一人で動いて、一人で戦う他の生徒とは条件が違う。
この世界に来たばかりの頃は、はいはいも出来なかった。
だが今はあの頃と違う。
アズモと過ごしたこの四年間と少しで、この竜王の娘という身体的、血筋的スペックを思う存分発揮する事が出来る。
「まあまあまあ、次の対抗戦で見せつけようよ、全部をさぁ」
ブラリがのほほんとしながら言う。
しかし目は本気だった。
「僕も今度は、索敵するだけじゃなくて戦いたいね」
「臨む所よ!」
ブラリとラフティリが闘志をメラメラと燃やす。
魔物の子達は血気盛んな子が多い。
「とは言え、流石に次は五位が相手だしねー……」
ブラリが少し思案顔になる。
そして、次はニヤっとする。
その行動には覚えがあった。
ブラリが何か飛んでも無い事を考えた時の癖だ。
「敵情視察しに行こうよ! 今から!」
コウジ「さーてどうやっていきり立ったこいつらを止めるかな…」
学園に突入してしばらくしたのでキーワードを増やしました。
そしたら、あの…残酷な描写ありにチェックを付け忘れていた事が判明しました。
すみませんでした!




